夢のある話

「とてもいい夢」などというなまえを塔から見つめながら、私は苦笑を浮かべた。
そうやって未練を誘うようなことを言うからキミは魔性だというんだよ。

欲しいものを手に入れる為の努力は惜しまないさがだ。
それが人類にとって都合の良い未来だったから、私はこうして人間側にいる。
間抜けな話、本当は何を欲していたのかも気づけず取りこぼしたものもあったけど、結局最後には手に入れた美しいものを見た

だけどキミは、欲しいと思えば手に入れてしまえて、そしてその瞬間失ってしまうもの。

ままならないものだ。

半端に自我など持ったせいで、余計な悩みを持つ羽目になった――というようなことを考えては、それでも自ら夢を見る機構が備わっていたおかげで恋を経験出来たことを幸運に思う。

二度あればもう充分だろう。恋の喜びも痛みも、これ以上はお腹いっぱいだ。

恋に痛みはつきものとはいえ、こんなに痛いとは知らなかった。
欲しいものを自ら手放すなんてことも初めてで、ぎりぎり軋む胸がしんどいのなんの。

だけどそれも、いつも通りのなまえを取り戻した瞬間、喜びに沸く熱に霧散した。
私が欲しかったキミは、今のキミ。それを永遠に失うことになる方が、何倍も痛かった。

無くなってしまうくらいなら手放した方がいいに決まっている。
見ているだけならどこからでも可能なのだから。

能天気に笑うなまえを見つめ、思う。どうかもっとその姿を私に見せてほしいと。
ここから先、きっとまたなまえは泣く。
痛がる姿を見るのは嫌だ。
彼女の憂いを払うのは、もう私の役目では無いと考えていたけれど――まだ私を望んでいるというのなら、傍に行っても構わないだろうか。

触れて、撫でて、抱きしめたい。
あの感触が恋しくて仕方が無い。

なまえに――会いたい。

怒らせてしまうだろうし、泣かせてしまうかもしれないけど、きっと喜んでくれるだろう。
どうやらなまえは、まだ私のことを少しは思っていてくれるようだから。

……会いに行っても、良いだろうか。

会いたいから会いに行くなんて初めてだな。
そう考えたら、また胸がむず痒くなった。

どうせ会いに行くのなら、もっともっと喜ばせてあげたい。
彼女の幸福な夢を欲するのなら、私が与えてあげればいいんだ。

そんな簡単なことに今更気づくと、じゃあどうしようかと考える。
頑張っているキミへの贈り物。

久しぶりに会うんだから、凝った演出の一つくらいあってもいいだろう。
なまえは驚いた姿も可愛い。
楽しそうな顔も見たいし、着飾った姿も見たい。

そうだな。私がなまえのバカンスをプロデュースするというのも良いかもしれない。

うん。とても楽しそうだ。
めいっぱい可愛がって甘やかして、あの熱を体いっぱい感じて、抱えきれない思い出を贈ろう。

共に幸せな未来を過ごせないのなら。
代わりに、幸せなひとときをキミに。

そうと決まれば準備をしなくちゃいけない。
なぁに、探せば妙な特異点の一つや二つあるだろう。そこをなまえの為の遊戯場にしてしまおう。

なまえと共に駆け抜けた日々を思い出す。

困ったこともたくさんあったけど、やっぱりなまえと過ごす時間は、私にとって幸せな時間だったと、そう思う。

真っ白な世界に一人立つ少女の姿は、それはそれで美しいけれど。
転げまわって、それでも笑っている姿を見ていたいんだ。

相変わらず私は、キミの未来を夢見ている。
世界の未来よりも、キミ自身の未来を優先している。
キミに恋をしたからだ。

それでも私は、やっぱり夢魔で。

やることは変わらない。見たい光景の為にまた尽力するだけのこと。

けれどそれが、恋した少女の幸福につながるというのなら、こんなに夢のある話も無いだろう。
ヒトの幸福など私には分からないけれど、それでも。

「キミの物語は、きっと祝福に満ちている」

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