魔術師は夢の中を彷徨さまよいます。あるものを探しているのです。
それは、少女の夢でした。

少女自身の見た夢は、もう失われてしまいました。どこを探しても、見つかることはありません。
魔術師が探しているのは、誰かが少女に見た夢でした。

少女はこの世界にとっての希望でした。
英雄たちは、今を生きる少女の為にこそ、その力を揮うのです。少女が愛すべき「人間」であったから、皆少女を、少女たちの世界を、守ろうと戦うのです。

魔術師は、そうして少女の為に戦う者たちが、少女に見た夢をひとつひとつ、身の内に納めていきました。どれもこれも、魔術師にとっては眩しく、美しく、素晴らしい夢でした。
誰かの隣に立つ彼女は、こんなにも美しい。

魔術師には分かっていました。少女は世界の中にいる姿こそが、最も美しいのだと。
閉じ込めたり攫ったりしては勿体ないと、彼らの夢に触れるたび、そう強く思いました。

同時に痛感してしまいます。
皆の前では強く美しくあった少女が、自分の前で見せる顔は、泣いている顔ばかりであったことを。

魔術師は、少女の泣き顔を苦手に思っていました。だって、悲しいことは辛いことです。魔術師は心をほんの少ししか持っていませんでしたが、辛いのは嫌ということくらいは分かっていました。

それでも――ほんのちょっとだけ。誰も知らない泣き顔を知っていることは、素敵なことのようにも思えたのでした。

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