運命の恋

「え!結婚するんだ」

家の中に二人きりでいながら、それぞれ別のことをしていたら(私は本を読むふりをしながら彼女を見ていたけれど)唐突になまえが言った。

どうやら人気アイドルが結婚するというネットニュースを見たらしい。
そんなにファンというわけでも無かったと思うが、いつも見ている番組に出ていたから見知った存在のニュースについ声が出たのだろう。そう思ったが、なまえはちょっと残念そうな顔をしていた。
あれ?そんなに好きだったとは思ってなかったんだけど。

「そんなにファンだったっけ?」

もしそうだったら、今後テレビはあまり見せないようにしないといけなくなるんだけど。
キミの溢れる感情は私にだけ向いていればいい。苦労してキミから私への感情を増やしているさなか、ただテレビに映っているというだけでその総量が減ってはたまらないから。

言葉の裏でそんなことを思っていたが、彼女はあっさりと、首を振って私の言葉を否定した。

「全然、もっと好きな人は他にいるし。ただこういうの見ると、手の届かない人を想うことを否定する人たちって必ずいるから。そういうのが嫌なの」
「ファンなら祝福するべき、ってやつかい?」
「そう。夢から覚めないでいられるなら、たとえ手が届かなくても良いんだけど。だけど恋しい人に誰のものにもならないでほしいと思う気持ちも、手が届かないと分かってても好きになっちゃう気持ちも分かるから、祝福するとかしないとかじゃなくて、悲しむくらいは許してほしいよね」

それは一体誰のことを言ってるんだい。
キミの、兄代わりをしていたあの男のこと?

一生懸命彼を振り向かせようとなまえは必死だったのに、見向きもしなかった朴念仁のことなんか、もうすっかりさっぱり忘れても良いだろうに。よっぽどトラウマになってしまったのだろうか。

「なまえは優しいねぇ」

読んでもいなかった本を置いて、抱き寄せ頬をすり寄せる。
見も知らぬ誰かを同情してしまうほど彼のことが心に残っているのだと思うと、今すぐ私でなまえを満たしてしまいたくなった。
鬱陶しがるでも無くされるがままになりなが、なまえは私の腕の中でこてんと首を傾げた。

「優しいかな?アイドル当人からすれば鬱陶しいかもしんないよ」
「キミから好かれて誰のものにもならないで!って言われて鬱陶しいと思う人間がいるのかい?不思議だな」
「相変わらず言い分が大げさだなぁ」

いつだって私は本心を語っているつもりだけれど。
都合の悪い部分は誤魔化したりもするけれど、なまえへの思いは私の中から湧いて出た数少ない心の叫びだ。
もっと真剣に捉えてもらいたいものだな。

「マーリンは、私が他の誰かと結婚します!って言ったらどうする?」

突然なまえがそんな質問を私にする。
きょとんと目を瞬いて、そのおかしな質問に問い返す。

「私が好きなのに何で他の男と結婚するんだい?あ、政略結婚かな?だとしたらそんな婚姻は全力で破談にするよ」
「前提が何で私がマーリン好きなままなの?何でそこ揺るがないの」

呆れて問い掛けられるが、私は逆にその質問が不思議だった。
キミが私を好きでいることは決まったことで、この先キミを好きでいさせ続けるのは私の義務だから。そうじゃなくなることなんて有り得ないし、あったら、そうだな。

「僕を好きじゃないなまえなんてなまえじゃないよ」

だからもしそんなことになったら、最初からやり直すよ。

「本当に自信家なんだから、もう」
「でも実際キミは私が好きだろう?」
「……好きにさせられたんですぅ」

恨みがましく言うなまえに、ふっと笑みが漏れる。
……好きにさせられた、は、僕の台詞なんだけどね。

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