僕の為のキミ
数週間ぶりのデートだった。
家から出たところで、マーリンにすぐ左手を取られ握られる。嬉しくってぎゅっと握り返したら、マーリンも握り返してくれた。
と思ったら、その指がするりと手の甲を撫で、薬指の付け根をとんとんと指先で叩かれる。
そこで気づいた。
指輪、つけてくるの忘れた。
前回のデートで、マーリンがペアリングを買ってくれた。
今まで左手薬指に指輪をつけたことは無く、買った指輪を恭しくはめられたときは照れ臭くて、はめてる間ずっと指輪の存在が気になったのを覚えている。
マーリンは家の中でもずっと指輪をつけてくれていたのだけど、私は指輪をつけずにいた。何かの拍子に落としたり流したりしたらショックすぎる。それにからかわれるのも嫌だったから職場にもつけていかずにいた結果、自室に置いて時々はめたり眺めたりするものになってしまっていたから、つけて外に出るという発想自体が無かった。
「ご、ごめん、あの……忘れちゃった……」
マーリンはいつもつけてくれていたから、余計に申し訳ない。折角お揃いなんだから、デートのときこそつけるべきなのに。
「なまえはいつも指輪をつけないよね」
「失くしたら嫌だから……」
「失くしてもまた買ってあげるって言ったのに」
マーリンがくれたものは何一つ失くしたくないんだよ。
そう言うのは恥ずかしかったので「そういうことじゃない」と言うにとどめた。しかし失くしたくないからと言って使わないのもマーリンに悪いし、やっぱり折角なら二人で揃えたかった。
「今すぐ取ってくるから待っててくれる?」
尋ねるとマーリンが首を横に振った。
そもそも私が準備に時間をかけすぎて予定時間ギリギリになってしまったから、断るのも分かる。しょぼくれながらも「そうだよね、ごめん」と謝ると、マーリンが左手を離し、ポケットから私の指輪を取り出した。
「へ」
「忘れると思ってちゃんと持ってきているよ。どうだい、私は出来た恋人だろう」
えへん、とマーリンは得意げに胸を張ってみせた。
ぽかんとしたままの私の左手を再び取ると、やはり恭しく指輪をはめてみせる。
薬指につけられた指輪をまじまじと見つめる。
マーリンと一緒に選んだ、マーリンとお揃いの指輪。
こんなのつけてたら女の子に敬遠されちゃうよって冗談めかして言ったら、僕の女の子はなまえだけだよ、などと言われて激しく照れたのを思い出し、赤くなった顔を隠すように俯いた。
「指輪……やっぱり普段からつけてた方がいい?」
普段つけないでいることを許可されてはいるけれど、もう一度尋ねてみる。
本人曰く結構独占欲が強い、らしいので、むしろ普段からつけるよう言われないことが不思議だった。
「嫌なら構わないよ。もちろんつけてくれたら嬉しいけど」
あっさり言うと、マーリンが再び私の左手を握る。
今度は指ではなく、そこにはめられた指輪を指先で撫でると、満足げに笑った。
「私のそばでだけきらめくキミというのも、それはそれで嬉しいものさ」
「……っ」
毎度の事ながら、マーリンの愛情表現は本当に大袈裟で、私はいつもその殺し文句にやられてしまう。
何も言えずに言葉に詰まる私の耳元にさっと唇を寄せると、ダメ押しとばかりに囁かれる。
「この指輪をつけているときのなまえは、僕専用だよ」
何それ、と苦し紛れに呟いた私に、マーリンがくすくすと楽しそうに笑った。