熱に浮かされて夢を見る 3

五日ぶりに帰ってきた自宅の玄関で、なまえは荷物を放り出すと伸びをひとつ。

「やっと…やっと病院から解放されたぁ…点滴が鬱陶しくて出歩く気にもならなかったから本当に解放されたって感じ~」

う~ん、と唸りながらもその顔は開放感から嬉しげで、マーリンも本当に元気になったらしいと微笑んで応える。

「うん、無事元気になって本当に良かったよ。でもまだ完治したわけじゃないんだからくれぐれも無理は禁物だからね。全くキミが倒れてるのを見たときは心臓が止まるかと思ったよ」

なまえが放り出した荷物を拾い上げながらマーリンが忠告すると、不服そうになまえは唇を尖らせた。

「いや倒れてはないよ、寝てはいたけど…一瞬床に突っ伏しはしたけど一応起きて行動出来たし?」

いや、それを見たんだけどね。
などと言ってはなまえを困惑させるだけなので、とりあえずその部分は脇に置いておく。

「ともかく心配したよ。結局原因は分からないままだし、はぁ…」

マーリンの言うとおり、結局倒れた原因はよく分からないままだった。なまえとて全く不安がないわけではないのだが、数値の上では安定しているし、体調も本当に快復したと感じる。
そもそも、病院のベッドで寝たきりの日々はもう本当にごめん被りたい。
腰も背中も痛くて痛くて仕方なかった。正直今もまだちょっと痛い。

凝り固まった肩をぐるぐると回しながらなまえはマーリンを安心させようと軽い口調で応えた。

「マーリン気に病みすぎだよ~確かに入院沙汰になるとは思わなかったけど私基本的には健康優良児だし平気平気」
「…前から思ってたけどキミは考えが甘すぎるところがあるね?気楽なのは良いけどもう少し自分の身体の事を考えて行動するように」
「な…何!?ザ・自由人って感じのマーリンにそんな説教受ける謂われ無いんですけどぉ!」

安心させようと思ったのに、説教されてしまいなまえは再び口を尖らせる。
その姿にマーリンはこつんとなまえの頭を軽く小突くと呆れたようにため息を吐いた。

「言われたくないならちゃんと自立する事だね、全く色々とだらしないんだから」

言われた言葉になまえはうぐ、と言葉を飲み込んだ。
だらしないのは確かなので何も言い返せない。

「な、何だよ居候のくせに~!そりゃ今回は身より無い私の代わりに手続きだの入院準備だの全部やってくれて感謝してるけど…」

結局出てきたのは苦し紛れの憎まれ口で、それも今回マーリンにかけた苦労を思えば尻すぼみになってしまう。
本当に弱っていた事もあって、最大限甘えてしまった。

(もっとしっかりしないとな……)

マーリンに頼ってばかりではいけない。
これからは身を引き締めていかないと……。

なまえが心の内でそのように決意を新たにしていることを知ってか知らずか、マーリンはなまえを見つめてぽつりと呟いた。

「…そうだね、私はただの居候だ。キミのために何処まで尽くしても結局他人のまま」

反射的にマーリンを見上げると、その目は憂いを帯びていた。
どきりとなまえの胸が高鳴る。
なまえは、感情を宿したマーリンの目に弱いのだ。

「…ねぇ、そろそろ私の気持ちを受け入れてくれないかい?」
「え…」

突然言われて、なまえは咄嗟に言葉に詰まってしまった。
気持ちを受け入れる、というのは、おそらく、つまりそういうことだろう。

「病院でも関係を聞かれてどう答えたらいいのか困ったんだよ?」
「しゃあしゃあと同棲中の恋人ですって言い切っといて…」
「それが一番無難に切り抜けられるからね。居候とか言ったら胡散臭がられそうだし。ただでさえ日本人じゃないから身構えられるのにさ」
「まぁ…だから否定もしなかったけど」

実際に、関係を尋ねられてなまえ自身も困ってしまったのは確かだ。
すかさず恋人と答えたマーリンに内心では突っ込みたかったが、話がややこしくなりそうだったのでスルーしたのだった。
一緒に住んでいるのは確かだったし、もし赤の他人だと答えていたら手続きももっとややこしくなっていただろう。

思い返して納得していると、マーリンがおもむろに言い放った。

「ねぇもう家族になろうよ」

……一瞬、言われた言葉の意味が分からず、なまえは暫し固まった。

「…は?か、家族?」
「そう、僕と結婚しよう?」
「は!?」

付き合うを通り越していきなり結婚の話を出され、驚きのあまり返す言葉を持たないなまえ。

結婚って、え?本気で?いや、まさか。
いつものからかいだろう、全くマーリンは本当にどうしようもない。

口を開けたり閉じたりしながらそんな事を考えていると、見透かしたようにマーリンが言う。

「…本気で言ってるからね?」
「っ!いや、待って何で急に!?てか結婚って…!」

あまりにぶっ飛んだ発言になまえの思考が乱れる。
そこは付き合うからじゃないのかとか、一緒に住んでるから結婚もあんまり変わらないなとか、いや全然違うだろうとか言いたいことが頭を駆け抜けていくが一つも言葉になることは無く、結局口を閉じてしまった。
そんななまえの様子を見ながら、す、と表情を無くしたマーリンがややもあって口を開いた。

「キミにとって何でもない男でいるのが嫌だと強く思ったからだよ。出来ることなら今すぐここから連れ去ってしまいたい」
「つ、連れ去る!?」

何処に!?イギリスに!?
私英語はちょっと!語学留学から始めなきゃ!
などと混乱も極まりうっかり具体的な生活の妄想をしてしまったなまえをさておいて、マーリンは目を逸らしてぽつりと呟く。

「…ボクは、この世界が好きだけど」
「…は?」

世界?……何で突然世界?

先刻からマーリンの話は突飛すぎて着いていけない事ばかりだが、突然の大スケールについになまえの思考が止まった。

「この世界はキミにとって危険がいっぱいだ。病魔もそうだし、事故や事件に巻き込まれる可能性だって大いにある。他の男の毒牙にかかるかもしれない。明日、キミはいなくなってしまうかもしれない…」

世界というスケールの大きさはともかく、マーリンの言う話は理解出来てなまえは少し落ち着きを取り戻す。
確かに、いつまでも共にいられるわけはない。この生活にもいつかは終わりがやってくる。

(……それは、ちょっと……嫌だな……)

マーリンとの別れを想像すると、胸の奥が締め付けられるように苦しい。

(そうだ、マーリンは一緒に住んでいるだけの赤の他人、なんだ……)

そう自覚してしまったら、とても寂しく思えて眉根を寄せきゅっと唇を引き結ぶ。
明日終わりを告げても不思議はない関係だ。
そんな不安定な関係に、こんなにも自分は依存してしまっている……。

そう思い至り、なまえは改めてマーリンを見上げる。
真剣な眼差しのマーリンと視線がぶつかった。

「…もう、キミを二度と手放したくない」

その言葉に、どくんとなまえの胸が高鳴る。
と同時に疑問がわき上がってくる。

二度と、とは、どういう意味なのか。
なまえは怪訝な顔を浮かべるが、マーリンはそれには応えず二の句を告げる。

「だから本当は…ここから連れ去ってしまいたいんだけど。キミがこの生活を捨ててまで僕を選ぶとは思えないから、それはまだいい」

まだって何だ、まだって。
やっぱりマーリンは自分を英国に連れて行くつもりなのか。

追及したかったが、マーリンの熱のこもった視線に咎められてなまえは口を閉ざした。

「でも、このままでいるのも嫌だ。だから結婚しよう、なまえ」

もう一度はっきりと言われて息を飲む。
突然のプロポーズ、これが愛しい恋人からのものだったら、二つ返事で涙ぐみながらはいと答えたかもしれないが、生憎となまえとマーリンはまだただの同居人で、そういった関係ではない。

再び戸惑いを表に出しながらなまえは迷いつつ口を開いた。

「…急に、言われても…色々段階があるでしょ…いきなり結婚って」
「キミの心の準備が整うまでいくらでも待つつもりだったんだけど、待ってるうちにキミを失うくらいなら段階なんてすっ飛ばすよ。受け入れられないって言うならそれでもいい、僕は明日にでもここを去る」

なまえの目が驚きに見開かれる。
今、彼は何と言ったのか。
ここを出て行く?

意味を理解した途端、わき上がる衝動のままなまえはマーリンにしがみついて焦燥を露わにした。

「ま、待ってよ!そんな、そんな急に…!」
「いつまでも此処にいたら、僕はキミを傷つけてでも手に入れたくなってしまうから」
「…!」

しがみつくなまえの頬を愛しげに撫でながら、マーリンは哀切のこもった声で囁いた。

「だから、振るなら振るではっきり言ってほしい。…覚悟は出来てるつもりだから」
「ま、待ってってば!せめてもう少し考えさせて!」

マーリンの手が離れて行き、ぐいと身体も引き離され焦って声を荒げて言う。
目頭が熱くなるのを感じた。
本当に、明日、マーリンがいなくなってしまう。

そんなのは嫌だ。そんなのは、耐えられない。

「ダメだ、もう待てない。僕の気持ちは何度も伝えた筈だよ」

マーリンの言葉に、なまえは唇を戦慄かせて俯く。

確かに、マーリンの言うとおりだ。
マーリンはいつも、何度も、なまえに思いを告げていた。
それがあまりに頻繁で、理由も分からなくて、とても信じられなくて、今の今まで受け流してきていたけれど。

今、答えを出すことを迫られている。

「…本当にいなくなっちゃうの?」
「キミが僕を見ないというなら、大人しくいるべきところへ帰るよ」
「…もう会えなくなるって事?」
「うん、二度と。絶対に会えない」

マーリンの言ういるべきところとは、もちろんアヴァロンの事だ。
通常人間には決してたどり着けず、ましてたどり着いたとしても大気中のマナに身体が耐えきれず死亡してしまう。

そんな事を知る由も無いなまえは、瞳を潤ませながら控えめに問いかけた。

「……私から会いに行っても……会えないの……?」

不安げな顔で見上げてくるなまえにマーリンは苦笑する。
その台詞は、もう自分と離れるのは嫌だと言っているようなものなのに。
それでもまだ、この子は僕を受け入れることが出来ないのか。

全く自分に信用が無い事を再認識し落胆するが、同時に嬉しくもあった。
きっとなまえは、自分を受け入れてくれる。

「来れないよ。だから無理なんだ」

首を振ってなまえの希望を打ち砕く。
もうなまえはマーリンの手の中だ。

あとほんの一押しで、きっと彼女は僕を受け入れる。

戸惑いと絶望に顔を青く染めて、なまえはゆるゆると首を振って言葉を発した。

「…そんな、いきなり、今生の別れなんて…困るよ…」
「…なら、僕を受け入れてくれる?」

一押し。

問われた言葉に、頭では既に答えが出ていた。

……マーリンと離れたくない。

突然のプロポーズに、正直まだなまえの頭は着いていけていない。
今までに男性経験の一つも無いまま、結婚を申し込まれてしまったのだ。嬉しさよりも、困惑や不安の方が大きい。

それでも、マーリンが離れて行くのは嫌だった。
だから、素直な言葉を口にする。

「…結婚、は、まだ考えられない…けど、マーリンがいなくなるのは…嫌だ…」

反応が怖くて、目を伏せる。
そんななまえをじっと見下ろしてマーリンは言う。

「…そう。…なら、恋人ならいい?」

恋人。
結婚よりはよっぽど現実的な言葉だ。
明確に言葉にされて、なまえの胸が高鳴る。

マーリンの、恋人に、なる。

……考えれば考えるほど、恥ずかしさと不安が膨れ上がっていくけれど、ここで頷かなければマーリンは永久に目の前から消えてしまう。

なまえは目を伏せたまま、自分なりに覚悟を持って頷いた。

「…、…うん」

小さく呟かれた言葉は、それでもマーリンの耳にしっかりと届いた。
分かり切った答えではあったけれど、やはり嬉しくて口元が緩む。
ともすれば声が上擦りそうになるのを内心必死に押さえ込んで、マーリンはなまえに再度問いかけた。

「本当に?僕のこと、好き?」

マーリンが覗き込むと、なまえは顔を真っ赤にしてあちこちに目線をうろつかせる。
受け入れてくれただけでも僥倖なのに、それでもなまえの口からはっきりと気持ちを聞きたいと思うのは、男心と言うやつだ。マーリンにまともな男心などあるはずも無かったのだが。なまえに対してだけは自分がただの男になってしまうのを、不思議に思いながらもマーリンは嬉しく思う。

こんなにも求めてやまない女の子は、キミだけなんだよ。

叫び出したい思いを心の内で密かに零す。
そんなマーリンの葛藤や歓喜など露知らず、ただただ翻弄されるままに、なまえはマーリンを怖ず怖ずと見上げるとたどたどしく答えた。

「…ぅ、…マーリンが、すき…今まで、素直になれなくてごめんなさい…いなくならないで」

それは、マーリンには十分すぎる答えで。

(ちょっと、可愛すぎやしないか?)

今すぐ寝室に攫ってしまいたい衝動とマーリンは戦う羽目になる。
そんな事は日常茶飯事ではあったのだが、今までは関係性に名前が付かなかった故に我慢も出来ていたのである。

(とは言え……いきなり迫ったら、きっとまた怯えさせてしまうね)

内心で溜息を吐きながら、マーリンは改めてなまえに向き直った。
恥ずかしそうに佇むなまえはやはり愛らしくて、せっかくの我慢が再び吹っ飛びそうになる。

(……このくらいなら、大丈夫か)

ぐらぐらと揺れる脳髄に突き動かされ、マーリンはなまえを抱き寄せた。

「……っ!」

びくりとなまえが肩を揺らして固まる。
腕の中でカチコチになっているなまえについ笑いそうになるのを堪え、改めて腕に力を入れれば、なまえが所在なさげに腕の中で身じろいだ。

「ありがとう…僕もキミが好きだよ」

マーリンとしては、出来るだけ衝動を抑えきったつもりであったが、その声音には抑えきれない熱が混じる。
そんなマーリンの言葉に、なまえはようやく本当に、マーリンは自分を確かに好いているのだと信じることが出来た。

(あんなに、何回も言われて…一度も本気と思えなかったのに…)

ドキドキと胸が高鳴り、反射的に身体を固くしてしまったけれど、嫌悪感はまるでない。
それどころか、ほっと安心出来るような、そんな温もりをなまえは感じていた。

マーリンが好きだと認めてしまえば、あまりにも簡単な事だった。

私はマーリンと離れたくない。
マーリンに抱き締められると嬉しいし、好きだと言われるだけであっという間に浮上出来てしまう。
いなくなるなんて絶対に嫌だ。
この温もりからは逃れられない。いつまでも、こうしていたい…。

「ああ、ごめんねいきなり…やっと両思いになれたから嬉しくてつい。まだ完治したわけじゃないんだし、無理させてはいけないね」

やんわりとマーリンに身体を離される。
なまえがそっとマーリンを見上げると、優しげな瞳と視線がかち合った。
再びなまえの顔が朱に染まる。

「ごめんよ、動揺させてしまって…つい不安になってしまったんだ。…受け入れてくれて良かった」

真っ赤に熟れたなまえの頬を指先で撫でながら、マーリンは穏やかな口調でなまえを気遣う言葉を吐いた。マーリンが優しいのはいつもの事だが、いつもいつもドギマギさせられているのに今更である。そんないつも通りの可愛くない台詞が脳内に浮かぶが、それは口には出さない事に決めて、マーリンの思いやりを素直に受け入れる事にする。


「…心配かけてごめんなさい」
「ふふ、急に素直になったね。可愛い」
「ぅ…!」

指摘されると恥ずかしいのでやめてほしい……。
だがもうなまえはマーリンの恋人である。可愛いと言われて嬉しくないわけもなく、否定も出来ず、どくどくと心臓を高鳴らせて呻く以外に何も出来ない。
ここで憎まれ口を叩いてしまったら、いろいろと台無しだろう。
それ以前に、そんな気にもなれなかった。

「顔が真っ赤だよ?熱があがるといけない、もう休みなさい。荷物は僕が片づけておくから」
「で、でも」
「良いから甘えておくれ、僕はキミの恋人なんだからさ」

恋人、と言われてまたもなまえの心臓がどくりと高鳴る。
頬が熱くてたまらない。言われなくてもはっきりと分かる、今自分は顔が真っ赤であると。
入院中よりよっぽど体温が上がっていそうな感覚に、なまえは静かに息を吐いて熱を逃がそうとつとめた。

「さぁ」

促されて、寝室へ向かう階段に足を向ける。
階段を一歩登ろうとして──なまえは唐突に不安になってマーリンを振り向いた。

マーリンは放り投げた荷物をまとめて、其処にいる。

「──ねぇ」
「うん?」

いつも通りの、紫水晶の瞳に射抜かれる。
いつもいつでも穏やかな、マーリンの瞳だ。

「…寝てる間にいなくならない?」

マーリンとは対照的に、不安げに揺れる瞳。
何だ、もうキミはボクにぞっこんじゃないか。内心そう考えて笑ってしまいそうになったけど、マーリンが消えてしまうと不安に思っているらしいなまえに、マーリンは安心させるように微笑む。

「…ならないよ。さっきはああ言ったけど、僕だってキミと会えなくなるなんてごめんだもの。両思いになったんなら尚更ね…だから僕はずっと此処にいるつもりだ、キミが許す限りはね。そして、いつかは結婚しよう」

にこりと微笑んで言えば、忽ちなまえの顔から不安の色は消え失せる。その代わり現れたのは、もう限界というまでに赤く熟れたりんごのような頬の熱で。

「…っ、き、気が早いんだからもう…」
「僕にしてみれば漸く恋が実ったんだから先走りもするよ。…まぁでも、暫くは結婚を急かしたりはしないから。二人で思い出を作っていこう?」

結局荷物を再び放り出すと、マーリンはなまえに歩み寄りそっとその額にキスを送った。

「っ!」
「…ほんとウブだね」
「うるさいっ!」

ついに堪えきれず憎まれ口を放つなまえ。
けれども其処には一切の余裕なんか無くて、瞳は恥ずかしさで潤んでいるし、身体も何だか汗ばんでいる。

「…可愛い」

ぼそりと呟くと今度は頬に一つ。
再び唇を落とすと、なまえは面白いくらいに肩をびくりと震わせた。

「ま、マーリン…!」
「本当に熱があがったら困るから、この辺にしておこう。じゃ、僕は荷物を片づけてくるよ」

あっさりとなまえを手放すと、マーリンは廊下へと踵を返した。
何だか結局弄ばれただけのような気がしてきたが、先刻までのマーリンを思い返して、なまえはため息を吐くと階段をのろのろと登り始める。

ため息は呆れて出たものでも、諦めて出したものでもない。
真剣に対峙してくれたマーリンを、好きだと思えば口から零れ出たものだった。

そう。そうか。私はマーリンが好きなんだ。

今更自覚したかのように心中で頷くなまえ。
本当はもうずっと、気付いていた筈なのに。

「……マーリン、が、好き……」

たどり着いた寝室で、扉をぱたりと閉めてからひっそりとそう呟くと、むくむくと心の内から好きが溢れてくるような感覚に陥り、なまえはベッドへとダイブしぎゅっと枕を握りしめた。

好き、好きだ、マーリンが。

額と頬に送られたキスと、優しい抱擁を思い出して布団をかき抱く。

「あああぁ……うう、好きだー……」

もうどうしようもない。
こんな気持ち止められるわけがない。

熱暴走を起こしてしまいそうな頭を枕に擦り付けながら、なまえは暫しマーリンとのやり取りを思い返しては悶えるのだった。

LIST