メルト
ノッブといると、よく分からない時空に急に飛ばされるというか、ノッブに会いに来たら別の時空にいる、ということはよくあるのだけど。
今わたしは、水着ノッブと夏の海にいる。
「やっぱ夏の海と言えばこれじゃろ!」
「そうなんだけど、これは一体」
海の家、と書かれた建物の前でノッブが嬉々として言った。あまりまともな答えは期待せずに問いかけると、海の家じゃが?といやそれは分かってる、という答えが返ってくる。
「よぉ大殿にマスター!よく来たな!」
「森くん?」
「海の家驚くほど似合うとるの」
「ははっ、あんがとよ!で、何食うんだ?」
何か食べる流れになってる。いや、そもそもノッブに小腹が空いたから何ぞ食わんか、と誘われるまま着いて行ったらいつの間にかここにいたんだけども。
海の家の看板に書かれたメニューを見る。焼きそば、ラーメン、カレー、お好み焼き……。森くんが作るのだろうか。ご相伴に与りたいのはやまやまだが、一品料理を食べきれるほどお腹が減っているわけではない。
悩みながらメニューの下方へ視線をやる。うん、やっぱり夏といえばこれかな。
「かき氷」
「何じゃ、そんなんでいいのか?」
「かき氷美味しいじゃん」
古き良き、氷にシロップをぶっかけただけのかき氷メニュー。最近流行りのふわふわ氷にホイップ添えでパフェみたいなかき氷も良いけど、海の家ならこれだろう。
「ま、なまえが良いなら良いがの。わしもそうするか」
「わたしはこれ。ノッブ何味にするの?」
「そうじゃのー……むっ、宇治金時が無いではないか」
「あんこは茶々様が全部持ってっちまったからな!」
ヒャハハハハ、と森くんが豪快に笑い、ノッブがむぅと口を尖らせる。しかしメニューを眺めながらある一転に目を止めると、ニィと笑ってそれを指さした。
「ではわしはこれにしよう」
「おう!」
「えっ、何で?」
「そなた好きじゃろ」
好きだけど……わたしが好きなものを何でノッブが?確かにそれと私が頼んだものとでちょっと悩んだんだけども。
「ヘイお待ち!」
「おう、ほれお代じゃ」
「毎度あり!」
QPを受け取った森くんが元気よく答える。かき氷を手に取ると、海の家の中にある適当な机に二人して座った。
「これ、もそっと近うよらんか」
「え、うん」
言われてノッブににじり寄る。
上機嫌のノッブはうむうむと頷くと、先がスプーンになったストローをかき氷に刺して、一口目を口に運んだ。
「んむ!美味い」
「わたしもいただきます」
さくり、かき氷にストロースプーンを差し込み、シロップのたくさんかかった氷をすくいとる。
森くんが山盛り氷とシロップをかけてくれたので、崩れてしまいそうだ。
「んむむ、おいし~」
「うむうむ、なかなかどうしていけるのコレ」
ノッブがばくばくとかき氷を食べていく。
うん、急に謎の海に連れてこられてびっくりしたけど、たまにはこういうのも良いかもしれない。
「うぉっ」
「?大丈夫?」
「キーンてなりよった……」
「急いで食べるからだよ」
「む。確かにそなたはなっとらんの」
「ゆっくり食べてるもん」
とはいえ冷たいものは冷たいし、舌も冷えてきた。口の中が寒い。
べっと空気中に舌を出して、冷えた口内を暖めようと試みる。
「お、もう色ついとるの」
「ノッブは?」
「ほれ」
べ、とノッブも舌を出してみせる。
確かに色づいているのを確認して、「なってるなってる」と言うと、ムフーッと満足げに息を吐いてノッブが笑った。
「これも夏の海の醍醐味よの!」
「そうだねぇ」
何でノッブ、現代の夏の海の醍醐味知ってるんだろ……と一瞬過ったが、ぐだぐだ面子に関しては深く考えたら負けなのでスルーすることにする。
「なまえー、わしにも一口」
「えー?仕方ないなぁ、はいどうぞ」
「あむっ」
差し出したストローをノッブが口に含む。
むぐむぐ咀嚼した後、べっと舌を出したノッブが、「どうじゃ!?色変わっとるか!?」と期待に目を輝かせて尋ねてきた。
「一口じゃあんまり……」
「ぬぅ!ではもう一口!」
「え~!これわたしのなのに」
「わしのも食えばよい」
「あーさては最初からそれ目当てだったでしょ」
抜け目ないなー第六天魔王、と呟くと、そうじゃろそうじゃろ、とノッブは機嫌よさそうに笑った。
その笑顔が素敵だったので、仕方なく交換に応じることにする。
「ノッブもあーんしてよ」
「何じゃ甘えおって、愛いやつめ」
「ノッブにもしてあげたじゃん」
そりゃわしじゃもの、とか何とか言いながら、ノッブも自分のかき氷をすくってよこす。
あむ、とそれを口に含むと、わたしのとは違った甘さが口に広がって、うん、確かにこれも美味しい。かき氷のシロップって全部同じ味とかいう話もあるけど、絶対違うよね。
「ほれ、わしにも」
「え、自分で食べないの?」
「べ、べつにそなたに食べさせられたいってわけじゃないんじゃからねっ」
「あざとい。でも可愛い」
わざとらしいツンデレムーヴに呆れながらも、言われたとおりにまた差し出す。
するとノッブも差し出して、二人してお互いのストローを口にくわえた。
そうやってきゃっきゃと笑いながらかき氷を食べ進める。
「そろそろ色変わったかの?」
「どれどれ」
べ、と出された舌を見てみると、確かに黄色くなっていた。
「うんうんなってる。お揃いだね」
べっとわたしも舌を出してそういうと、ノッブは急に眼を細めて、わたしに顔を寄せた。
そのまま唇が合わさって、舌を絡め取られる。
「……うむ。まことに、お揃いであるな」
ふ、と微笑んだノッブの顔が離れていく。ぼたりとスプーンからかき氷が零れ落ちた。
「溶けとるぞ、氷」
「あわっ!」
言われて急いで氷をかき集めるのに集中する。頬が熱い。
冷たかった舌は、ぬるくなっていた。