代償

「やぁ、随分とよく眠っていたね」

目を覚ましたなまえの頬を撫でながら語り掛けると、重そうな瞼を懸命に持ち上げ起き上がろうとしたので、良いよと声をかけ再び寝台へとそっと身体を押し戻す。
緩慢に首を動かし僕を見上げるその瞳は重く濁って見えて、こちらを正しく認識出来ているかも定かではない。

「まだ眠い?」
「……ぅん……」
「眠っていていいよ。心配しないで」
「……わたし……でも……」
「大丈夫」

優しく言い聞かせるようにそう言って、隣に寝転ぶと身体を抱き寄せ腕の中に閉じ込める。
こうして僕の体温と匂いを感じると、安心するのかなまえはすぐに寝入ってしまう。起きなければと焦る心を落ち着けるようにそっと頭を撫でれば、なまえはもぞもと動くのをやめて、またすぐに夢の中へと戻っていった。

「やれやれ。どうしてそう抵抗するかな」

完全に寝入ってしまったのを確認すると、その頭に頬を摺り寄せる。
つむじに口づけを落とし、充分にその感触を味わうと、己の意識もまた夢へと切り替えた。

なまえが望んだのだ。僕と共にいたいと。

だからキミを夢の中に縛った。

ここなら誰の邪魔も入らないし、僕も何の制約無く、キミと過ごすことが出来る。
肉体の方はちょっと時間がかかってしまっているけど、それももうじき、一時的に目を覚ますことすら無くなるだろう。
そうなれば、肉体ごとアヴァロンへ連れ出して、本当の意味でずっと共にいることが出来る。

なまえの、現実に起きて生きていたいという未練もこれで立ち消える。
夢から覚めなければ、そんなことは過りもしなくなるだろう。

ふふ、と息を漏らし忍び笑う。
手間暇かけて導いた未来へと現実が収束していくとき、胸が躍るという感覚を、僕は覚える。

それがなまえと僕との未来なら、喜びもひとしおだ。
現実を知れば彼女は悲しむだろうから、この喜びを共有出来ないのがちょっと寂しいけれど。

この世界でキミと僕は、どこまでも自由だ。

「マーリン」
「うん」
「私、マーリンのこと好きよ」

そう言って微笑んだなまえが、表情を変えないまま、言った。

「絶対に、許さないからね」

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