マーリンを召喚する
ありったけ集めた石を震える手で掲げ、祈る思いで召喚陣の前に立つ。
前回玉砕してから今日で一週間、残された時間と石は少ない。今日が、本当に最後のチャンスだ。
「つ、告げる――」
召喚呪文を詠唱し、強く来てほしいと念じてみる。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者。
汝 三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚システムが起動し、ぐるぐると光輪が回転する。
三つの輪を形成した光が、強い瞬きを放った瞬間、耐えきれず目を閉じた私が次に目を開いたとき、目の前には夢にまで見た姿があった。
「こんにちは、カルデアのマスター君。私はマーリン。人呼んで花の魔術師。気さくにマーリンさんと呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」
召喚陣を降りると彼――マーリンはそう言って、気さくに微笑んだ。
「なんてね。この夏を共にしたキミと私の仲だ、今更さん付けも堅苦しいかな、なまえ君」
「……全然来てくれないから、この夏で終わるのかと思ったよ……。来るのが遅い!」
「こいつは失礼。でも会いたくなかったわけじゃないんだよ?――会えて嬉しいとも、マスター君。今後はキミの為に働こう!」
「もう、調子が良いんだから……」
などと言いつつ、やっとの思いで召喚出来たのだから、嬉しくないわけがない。
喜びのままに「よろしく」と言って手を差し出すと、マーリンがその手を取ってぎゅっと握りしめる。にこりと微笑まれて、私もふにゃりと笑い返した。
「ところで……せっかく召喚に応じたわけだが、マスター君」
「うん?なに?」
マーリンが私に向き直って改めて話しかけてくる。
どうしたのかと尋ねると、マーリンはつつつ、と私に近寄り、くいと制服のエンブレムに指を引っかけると引っ張った。
「っ、ちょ!」
「この服の下に着ているそれは、ちゃんと直に見せてくれるんだよね?」
「えっ」
言われて、ぼっと顔に火が灯る。
何故って「服の下に着ているそれ」に物凄く心当たりがあったからだ。
あまりにもマーリンが来てくれないので、一体何がいけないんだと考えた挙句、マーリンは女好きだから、私に女としての魅力が足りないせいかもしれないと凹みまくった末、その……自棄になって、……エッチな下着(小声)……を着ていたからだ。
「みっ、み、みみみみみみてたの……!?」
「たまたま目に入っちゃったんだ、ごめんよ。でもこれって私のためだよね?」
「いやっ、その……」
「マスター君がエッチなのは知ってたけど、私のためにこんな下着を着けてくれたなんて知っちゃったら、そりゃあアヴァロンからだって駆けつけるとも」
普通に駆けつけてよ!!!!この淫乱ドスケベ大魔王め!!!!
数々の触媒を試してきた私だけど、えっちな下着が本当に効くとは流石に……いや、ちょっと……思ったけど……でも本当に半分以上やけっぱちだったから、み、みみっ、見せるまでは、流石に想定外だった。
「い、いやこれはっ……ま、マーリンが来た時点でもう用は無いのでダストシュートします!!」
「お~っと、そんな勿体ない真似いけないよ?ただでさえ資源は常に不足しているのだからね。それにほら、何事にも花は必要ってね」
「きゃあ!?」
突然マーリンにひょいと肩に担がれ、思わず大きな声が出てしまう。
驚いて暴れる私をしっかりと抱え直すと、そろりとスカートの中に手を滑らされる。
「ひ、ぁっ!?」
変な声が出て咄嗟に口をふさぐ。やりたい放題のマーリンを睨みつけるも、担がれているので後頭部しか見えない。
マーリンは鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な様子で召喚ルームの出口へと向かって軽快に歩き出した。
「ちょっ、ど、どこに行っ」
「ここを出て左に曲がった先を更に右に曲がった奥のベッドルームへ。そこが一番近いから」
何で今来たばっかりなのにカルデアのルーム事情に詳しいの!?
突っ込みたいがそれどころではない。マーリンを止めなければいけない。
「まままままま待って私本当にそんなつもりは無くって」
「……そんなつもりもなく、夢魔を挑発したのかい?いけないねなまえ君」
マーリンが私の方を振り向いて、にやりと歪んだ顔が見える。
どくっと胸が高鳴って、カッと顔が熱くなったのが分かった。
「キミが召喚した男がどういう存在なのか、まずは自己紹介といこうじゃないか。ね?」
やたらに穏やかな声でそう言うと、マーリンは再び歩き出した。
……本当に、そんなつもり、無かったんだけど……。
……でも、仕様が無いよね。
やっぱりやめたって言って帰られても困るし、うん、仕様が無い。
自分にそう言い聞かせると、黙ってマーリンのローブを掴む。
大人しく肩の上で揺られながら、私は密かに生唾を飲み込んだ。