ホワイトアウト
カルデアという閉鎖空間に強く望まれたからという理由で来てしまったことを、最初は少し後悔していたのだけど、住めば都と言えばいいのか、幾日も過ごしてみれば、私は徐々に順応していった。
とは言え、苦手なものが急に平気になったりはしない。
私は私なりに、上手く苦手なものと距離を置いて、自然に、だけど徐々に壁を作ることに成功していた。
だというのに、その壁をものともせず彼は私に対峙する。
「なまえみーつけた」
「ヒィッ!?」
一人廊下を歩いていたら、背後から突然抱き着かれて死ぬほど驚いた。
ここで私にそんな真似をしてくるのは一人しかいない。
「ま、マーリン、さ……」
「やぁ。今日も可愛いね、私の天使。よく顔を見せておくれ」
「ひっ……」
私に抱き着いたままマーリンさんはぐいと私の顎を上向ける。
綺麗すぎる顔がすぐ間近にあって、血の気が降りたのが分かった。
「普通ここは顔を赤らめる場面だよ、なまえ」
にこりと笑ってマーリンさんはそういうけど、ときめきよりも恐怖心の方が勝る。
私は、男性というものが苦手だ。
このカルデアでその事実を知る者は少ない。
とは言えサーヴァントたちには洞察力の鋭い者も多いから、彼らを含めればそれなりの人数に知られてはいると思うが、少なくとも私自身は表に出していないつもりでいる。
それとなくさりげなく、男性とは距離を置いて生きてきた。
このカルデアでも、それは上手くいっていたと思うのだけど、何故かこのマーリンさんだけは、どんなにかわそうとしてもグイグイ迫っては私を捕まえてしまう。
最初は他の男性同様やんわりと拒否しようとしていたのだけど、埒が明かないため、結構はっきりと「迷惑なのでやめてください」って言ったはずなんだけど。
それも物凄く、それはもう物凄く勇気を出して言ったのに、全然まったくマーリンさんは引いてくれない。
「……あの……はな……し……」
「話?しようしようお茶しよう!いやぁキミからデートに誘われるなんて今日は良い日だなぁ」
「ち、ちが……!」
マーリンさんはそう言って腕を掴むとズルズルと私を引きずって歩き出す。
慌てて止めようとするも全然話を聞いてくれない。
このままでは済し崩し的にお茶会タイムに突入させられてしまう。ただでさえ苦手なマーリンさんと向かい合ってお茶とか地獄の時間でしかない……!
おろおろわたわたしながらどうやって逃げようか考えようとするが、どうしようどうしようという言葉以外何も出てこない。
「ま、待って、お願いします……………あの…………っ」
「その話はお茶の場で聞くよ。なまえは紅茶は好きかい?それともコーヒー派?」
「ぇ、ぁ……、えっと……………」
困り果てて涙目になる。
そんな私にマーリンさんはにっこりと微笑みかけて、「ねぇ」と返事を促した。
そんな話をしたいわけじゃないのに。
足が震えて上手く歩けなくて、転びそうになる。
でもマーリンさんはそれすら許してくれなくて、転びそうになった私を支えたかと思うと、そのまま私の腰に手を回した。
「危なっかしいなぁ。キミは意外とおっちょこちょいなんだね。こうしていれば安心だよ」
そういって優しく微笑むマーリンさんは凄く絵になるんだけど、距離が近すぎて私はそれどころじゃない。
内心パニックになりながら震えていると、不意に誰かがマーリンさんの肩に手を置いた。
「マーリン。貴方という人はまた強引に女性に迫って」
「やぁベディ。男女の逢瀬に横やりを入れるなんてなかなか呆れた事をするじゃないか」
「呆れたはこっちの台詞です」
──ベディヴィエールさん!
「レディ・なまえ。大丈夫ですか?マーリンが申し訳ありません。同郷の者として謝罪します」
申し訳なさそうな顔でベディヴィエールさんが私に謝る。
いや貴方は何も悪くないです、そう言おうとして、上手く言葉が出てこない。
「私を悪漢みたいに言わないでおくれよ。デートしてただけなのに野暮だなぁベディは。ねぇなまえ?」
「いっ、え、ぁ」
「平然と嘘を吐かないでください。貴方が無理に迫って彼女を困らせているという噂は私も聞いています」
「事実無根だ」
「そうなのですか、レディ」
問われて私は咄嗟に頭をぶんぶんと横に振る。
「違うと仰っていますが」
「その噂が間違っているという意味さ。そうだろうなまえ?」
「ちっ、が、やめ、てください」
「やっぱり嫌がっているじゃないですか!離れなさいマーリン」
そう言うとベディヴィエールさんは私をマーリンさんから引き剥がしてくれた。
すっと私を背中に庇うと、マーリンさんを睨み付ける。
背の高いベディヴィエールさんに前に立たれて、私の視界から殆どマーリンさんは消えてしまう。
そこでようやく私は少しだけ安心して、密かにため息を吐いた。
「マーリン!貴方が何人の女性と浮き名を流そうがそれは個人の自由ですから口を出すものではないと見過ごしてきましたが、嫌がる女性に無体を働くというのなら騎士として黙ってはいられません。貴方も円卓の一員ならその自覚を持ってください。我が王の沽券に関わります」
「私は騎士じゃなくて魔術師だし」
「そういう言い訳はいりません。早々に立ち去りなさい」
「えぇ……まだなまえと全然話してないのになぁ」
いつも殆ど何の話も出来てないじゃないですか!
そう言いたいけどやっぱり怖くて言えない。マーリンさんが暴力を振るうとか、そんな風に考えているわけではないけれど、どうしても生理的な恐怖感というのが拭えない。
別にそれ自体はマーリンさんが悪いわけではなく、男の人をいっしょくたに見てしまう私が悪いのだと思う。けど、マーリンさんの強引さには本当に困らされているのは確かで……。
嫌なら嫌と、毎回はっきりと言えない私が悪いのかな。
そう考えたら、更に気分が落ち込む。あぁ、最近気弱になってばかりでいけない。
「……ま、今日は仕方ないか。焦らなくてもチャンスはあるし」
「また強引な真似をするつもりですか?」
「さあて、押してダメなら引いてみろという言葉もあるし、それは分からないけどね」
「マーリン!」
怒ったように声を上げるベディヴィエールさんを意に介さず、マーリンさんはひらひらと手を振り「またね」と呟くとさっさと踵を返してしまった。
嵐のよう、という言葉が似合う人だと改めて思う。
他の人に言わせると、草原に吹く爽やかな風のよう、らしいのだけど、残念ながら私にとっては暴風以外の何者でもない。
呆然と彼が去った廊下を眺めていると、ベディヴィエールさんがくるりとこちらを見て心配そうに顔を覗き込んできたので、反射的に一歩退いてしまった。
「あっ、す、すみませ……!び、びっくりして!」
「あ、ああ、いや。すみません、私もいきなり顔を覗き込むなど不躾な真似を……。レディ・なまえ。改めて謝罪を。マーリンが申し訳ないことをしました」
「いっ、いえ、ベディヴィエールさんが謝ることでは……!」
真摯に頭を下げるベディヴィエールさんに必死に言い募る。
そっと顔をあげたベディヴィエールさんがくすりと苦笑をもらし、「レディの優しさに感謝します」と答えた。……その、レディと言うの、かなり恥ずかしいのでやめてほしい。
「また何か困ったことがあれば、いつでも言ってくださいね。騎士として、ご婦人が困っているのを見過ごすことは出来ませんから」
そう言ってにこりと微笑んだベディヴィエールさんの顔は本当に綺麗で、思わず見とれてしまう。
さらさらした銀色の髪が、きらきらと光って見えた。
「……レディ?」
「あっ、は、はい!よ、よろしくお願いします!」
ぼーっとしてしまっていて、うっかりとよく分からない返事をしてしまった。何だろうよろしくお願いしますって。
しかしベディヴィエールさんはそれを笑うこともなく、再びにこりと綺麗に微笑むと「はい」と答えてくれた。
背の高いベディヴィエールさんは間違いなく男の人で、やっぱり少し怖いのだけど、笑った顔が本当に優しくて、何となく私はほっとして息を吐いていた。
◆
ぼんやりと道を照らす誘導灯以外照明が落ちた廊下を、私は眠気と戦いながらのろのろと歩く。
こんな時間になるなんて、少し根を詰めすぎてしまった。
疲れて身体が物凄く重い。部屋がとても遠く感じる。
「…………だめ、やすも………………」
壁一面をくり抜いたような、大きな出窓のあたりに差し掛かって、私は突発的にそこへ腰掛ける。
ずるずると窓に背中を預けて、ほうと息を吐くと目を閉じた。
窓が冷たくて気持ちがいい。
ひんやりとした冷気に少しだけ頭が冴えたような気がした。
……部屋に戻ろう。
暫しそうして背中を預けていたけど、いい感じに冷気に身体が引き締まった感じがして、再びぱちりと目を開ける。
「はっ!?、ったぁ!!」
そのまま窓辺から降りようとして、目の前の光景に反射的に身体を逸らしてしまい窓に頭を激突させてしまった。
……び、びっくりした、本当に、物凄くびっくりした!!
激突させた頭を抱えながら内心で叫ぶ。
突然私の眼前に現れたマーリンさんが、心配げな声を装うでもなく、普通に声をかけてきた。
「大丈夫かい、なまえ」
「っ、な、に、してるん、ですか…………」
「キミがこんなところで寝ているものだから、王子のキスをご所望かなと思ってね」
私の顔を覗き込んでいたと思ったら、そんなことを企まれていたのか。あ、危なかった……!
「残念。もう少しで姫に目覚めのキスを施せたのにね」
そう言いながらマーリンさんは当然のように私の隣に腰掛ける。
いや、あの、私、部屋に帰ろうと思ってたのに……。
そう言いたくて口を開こうとするも、やっぱりうまく言えなくてもごもごと口ごもる。
そんな私を気にすることなく、マーリンさんは腰を据えると「こんな時間までお疲れ様」と私に話しかけてきた。
「…………あ、ありがとう、ございます……」
「部屋まで運んであげようか?勿論お姫様だっこで」
「い、良いですそんな……」
「良い?なら遠慮なく……」
「ち、ちがいますっ!やめてください……!」
腕を突っ張ってマーリンさんを拒絶する。
するとマーリンさんはあっさりと身を退いてくれた。拍子抜けしてきょとんと見つめてしまう。
「はっきり言えたねぇ、ほんと、最初の頃に比べたら大進歩だ」
「え?」
はは、とマーリンさんは笑みを漏らしながらそう言った。
意味が分からず私は首を傾げる。
「キミ、男が苦手なんだろう?」
「っ!わ、分かってて絡んできたんですか……!?」
「うん。ごめんね、キミに怖い思いをさせて」
大して悪いと思ってなさそうにさらりと謝罪を告げるマーリンさんに、思わず眉根を寄せてしまう。
そんな私の顔を見ると、マーリンさんはふっと笑みを漏らした。
「釈然としなさそうだね。悪いとは本当に思ってるんだよ?ただ、別に怖がってもいいやと思っていたから、後悔や自責の念とかそういうのは無い」
「……はぁ」
それは悪いと思っていると言うのだろうか。
男の人が何を考えているのか、全く何も分からないけど、マーリンさんは輪をかけて謎だ。
「あの日からベディと仲がいいんだね」
ぽつりとマーリンさんが呟く。
ちらりとその横顔に目をやると、視線に気づいて微笑みかけられ慌てて目を逸らした。
「なか、は、べつに……ふつうです。でも、親切にしてくださるので…………」
「ベディは円卓の中でも貴重な良心枠だからねえ。一癖も二癖もあるのが円卓の面白いところなんだが、キミにとっちゃ闇鍋のようなものなんだろう。円卓に限らずサーヴァントはそういうのばかりだし、ベディがキミにとって清涼剤なのは理解出来る」
からからと笑いながらマーリンさんは言う。
闇鍋とか失礼な表現ではあるが、実際円卓の騎士たちというのは私にしてみれば混沌としていて近寄りがたい者たちだ。
ベディヴィエールさんも含めて、男の人の集団という認識だったから、最初はベディヴィエールさんも怖かった。
だけどいざベディヴィエールさん個人と接してみると、これが非常に細やかな気遣いの出来る人で、流石は王の執事役だっただけはある。これしか取り柄が無いのでと謙遜していたけれど、私のような者からすれば、その気遣いに救われていると言っても過言ではなくて、数少ない気を許せる男性としてカウントさせてもらっていたのは確かだ。
マーリンさんはおもむろに背中を窓に預けてどこか遠くを見やった。
私は何も言えずそれを隣からちらちらと眺める。
「だけどね」
ぽつりとマーリンさんが呟く。
細められた瞳が私の方へと向けられて、ぎくりと身体が固まった。
「キミがベディに靡くのは嫌だなって思って、そこで初めて後悔したよ。もっとキミを懐柔する努力をするべきだった」
「か……」
懐柔って。何やら不穏な言い回しだ。
……今更の事だが、マーリンさんは何故私なんかに執着するのだろうか。マーリンさんならもっと素直で可愛らしい女の子(このカルデアにも勿論いる)と楽しく恋愛出来るだろうに。
それにマーリンさんが私を恋愛的な意味で好きだとはとても思えないし、いつももごもごとして何も話せない女なんて、面白味にも欠けると思うのだけど、何がそんなに楽しくて私に構うのか、理解出来ない。男嫌いだと知っているのなら、なおさら。
私が嫌がる様を楽しんでいるのだろうか……。
「どうせ分かり合えないのだから、私が良ければそれで良いんだと思っていたんだよ」
事も無げにマーリンさんが言う。
世間話をするようなトーンで、ひどく冷血な言葉を吐く。
やっぱりマーリンさんは怖い人だ。
男の人はみんな怖いけど、マーリンさんはもっと怖い。円卓の騎士が闇鍋というなら、マーリンさんは底の見えない真っ黒な箱の中を覗くような怖さがあった。
「ねぇなまえ。ベディが好き?」
「っ、ぁ」
優しげに目を細めて微笑みながら、マーリンさんが問いかけてくる。
何故だかぞっと背筋に寒さが走って、私は言葉を発する事が出来ないまま必死に首を横に振る。
ベディヴィエールさんは良い人だと思う。likeという意味なら勿論好きな部類に入るが、恋愛的な意味で聞かれたら、そういうのとは違うのだ。……本当言うと、まともに恋をした事が無いから、自分でもよく分からないんだけど。
「そう、良かった。キミは誰も好きになっちゃダメだよ」
「ぅ、は……い」
空気が怖くて震えながら頷いてしまった。
どうしてそんな事言われなきゃならないのだろうか。
私はマーリンさんのものではないのに。
マーリンさんが背中を窓から離して身を屈めながら私の顔を覗き込む。
その顔は楽しそうで、ニヤニヤしていると形容するのが一番近い。
出来るだけマーリンさんから逃れるように身体を傾けたら、肩に手を回されてしまった。
びくりと震えて俯く。どうしよう、こんな誰もいない時間なのに、マーリンさんは今日も私に容赦する気は無いようだ。
「怖がらないで、お話するだけだよ。そうだな、今日はなまえの話を聞きたい」
「わた、しの?」
「そう。キミの好きなものを教えてほしい」
好きなもの?今更そんな事を聞いてどうするというのだろう。
「懐柔するべき」という言葉通り、今更私を好きなもので釣ろうと言うのだろうか。
眉根を寄せて黙り込む私に、マーリンさんが苦笑する。「別に何も企んでないよ」と言いながら、肩に回した手を解くとぽすりと私の頭に手を置いた。
またしても身体が震えてしまう。そう気軽に触らないでほしい、怖くなってしまうから。
「キミの、美しいと思うものが知りたいなと思ったんだ。キミから見る世界は、どんな風に見えているのか。キミのこと、分かりたいなって、今ようやく思えたんだよ」
微笑を浮かべたマーリンさんが、そっと私の頭から手を放す。
身体を解放された安心感から、私は小さくため息を吐いた。
「別に……ふつう、ですよ。趣味も、好みも、何も変わったところなんて、そんなに無いですけど……」
「そう思ってたから興味は無かったんだけどね。キミの瞳が美しいのは、キミが見ている世界が美しいからかと思って今更興味がわいたのさ」
マーリンさんはよくよくそんな風に気障な言い回しで私を褒めるけれど、何一つそれを本心と思えたことは無かった。
けれど今日の言い分は、あまりに明け透けで、気障な台詞が変に浮いている。
──どういうつもりなのか、本当にさっぱり分からない。
私にしてみれば、世界は怖いものだらけだ。
だって世の人間の半分は男性なのだから。気を許せる男性が皆無というわけでは無いけれど、それでも大半の男が私は怖い。
怯えて世界を眺める私の目のどこが、美しいと言うのだろうか。
「怯え、惑いながらも世界から目を逸らさない、そんなキミの目が僕は好きなんだよ」
「……逸らさない、です、か?」
男性と距離を置き、極力関わらないようにしていた私の、どこを見てそう言っているのだろうか。
マーリンさんの感覚はなんだか妙にズレている。
少なくとも私の価値観とは全く相容れないもののように思う。なるほどマーリンさんの言うように、「どうせ分かり合えない」のは確かなように思われた。
「怖くて、怯え震え、角が立たないようにそれらを遠ざけ、自分の身を守るキミは、ちっぽけで取るに足らない存在だ。だけどね──それでも世界を救おうと前を見据える、そんなキミの目に私は心捕らわれている。尤も、元々まともに機能していない心だから、キミの感情は踏みにじってしまっているけれど」
優しげな目をして残酷な事をけろりと吐くマーリンさんは、それだけでもう異質だ。おかしな人、怖い人だとやっぱり思う。
世界を救おうともがいているのはみんな一緒のはずなのに、私だけがその中でも違うと言うのだろうか。
「信じられない?」
問われて、戸惑いながらこくりと頷く。
「まぁそうだろうね」とマーリンさんは気にした風もなく答えた。
「でも僕は、本当にキミの目が好きなんだ。キミを失った世界なら、そのまま消えても構わないと思うくらいには」
さらりと放たれた言葉に驚愕して目を見開く。
それは、何というか、すごく──
──重い。
「…………」
「あはは、驚いた?そんなわけだから、命は大事にしておくれ。何があっても、私がキミを守るけどね」
人好きのする笑顔でマーリンさんが私にウインクを送る。
さっきから言葉の重さと動作が乖離しすぎている。
「さぁて、そんなわけで──教えておくれ。キミの、好きなもの。まずはそうだな──好きな色は?なまえ」
「…………」
にこにこと笑いながらマーリンさんが問いかけてくる。
何だか現実感が無くて、急に全ての感覚が遠ざかるような心地がした。
マーリンさんを怖いと思う筈なのに、異次元すぎてそんな感覚すら今は遠い。
ああこの人は夢魔なんだと、唐突に理解する。
男性とか女性とか、そういう一般的なカテゴライズではかれるような人では無かった。
マーリンさんの手が伸びてきて、私の髪をさらりと指先ではらった。その様子を他人事のように目の端で捉えながら、私はされるがままになる。
目の前のマーリンさんをぼんやりと眺めながら、白が好きですと、無意識に答えていた。
「私の色だね」と、マーリンさんが嬉しそうに笑った。