一刻も早い終焉を
最初に恋した人には、自分のモノにしたいなんて感情はわかなかった。
最後におぞましい契約に手を伸ばしてしまったのには、少しばかり責任のようなものを感じないことも無かったけど。たとえそのまま傍で彼女を導いたところで、きっと僕では何も変わらなかった。
エンディングに僕という存在は余計だ。
目的の為に、一番都合のよい役を、効率的に行う為の駒。
僕はそういうキャラクターだ。
ハッピーエンドの為なら自身をも駒にする――いや。何の感情も伴わず、目的に向かって動かせるという意味では、最も動かしやすいのが僕というキャラクターだ。
目的の為の存在でしかないから、結末に至るまでにしか存在意義がない。
美しい人に恋をした。美しい魂のカタチに恋をした。
彼女が救われた瞬間に、美しいものを見いだした。
これ以上ない絵を手に入れた。
それこそが、僕の求めた
なのにどうして、僕は今、絵の中にいるのだろう。
失われた紋様を取り戻したかったから?
違う。二度と同じものは現れない。
それでも世界は美しいから?
人間の作る紋様を、まだ見ていたかったから?
正しい。だから僕は手を貸した。
終わりは美しい方がいい。
人類を、美しい終わりに導く駒。
もう一度同じ役割を繰り返すだけ。
だけどそうはならなかった。
そんな風には、出来なくなってしまった。
なまえは困ったマスターだ。
弱いし、バカだし、人類の危機よりも僕との関係を気にするし、世界を守ることよりも己が生き延びる今の為に足掻いている。
未来を夢見る私とは違う。
彼女は今が精一杯で、泥にまみれてもがき続けている様は、率直に言って見苦しい。
その泥から引き揚げてやろうと彼女に手をさしのべて、
……引きずり込まれてしまったのだから、手に負えない。
泥まみれの生き様が、
泣いて怒って、僕の言葉一つできらきらと輝く感情が、
触れた肌の、柔らかさが。
鮮烈に焼き付いて離れない。
彼女は、駒にはなれなかった。
僕と同じ、物語を動かす為の装置だと、そう思っていたのにな。
気がつけば、世界は彼女の為にあるかのよう。
艱難辛苦を乗り越えて、それでも待ち受ける苦難の数々は、まるで活躍を期待しているみたいじゃないか。
それでも、終わりは来る。
僕に出来ることは、より美しいエンドの為に道を作る手伝いをすることだけ。
なまえが最後に悲しもうが、そんなことは本質的にはどうでもいい。
ただ世界が彼女を祝福し、報われた人生を送れたら、そんな悲しみも思い出になる。
――誰かに、
多くの人に、
笑いかける、彼女は
美しい
それだけに
(苦しい)
あの熱が他の誰かに注がれるのは
(苦しい)
もう二度と、触れられないのは
(苦しい)
「まだ、こんな罰が残っていたとはね」
あれ以上に苦しいことなんて、もう無いと思っていたのにな。
こんな喪失感を抱えて、生きていかなきゃならないなんて。
(早く。早く、終わってくれ)
こんな時間がずっと続くのは、耐えられない。
だから、
(一刻も早い、終焉を)
恋は盲目とはよく言ったものだ。
嗚呼――
(視界が狭まる)
何も見えなくなって――
ただ、この肌の柔らかさと暖かさだけを、求めてしまう前に。