喪い続ける物語

「ごめん……ごめんね……マーリン、私……」
「分かってる……いいんだよ。最初から、こうなることは知っていた」

無限にも等しい、悠久のときを愛しいひとと過ごせる幸福の中、何度目かのやりとりに苦笑を漏らす。
何度繰り返しても慣れない痛みだ。そして、これが一度目でないことを知っているのは、私だけだった。

アヴァロンでなまえと共に過ごすことを選んだときから、いつかは訪れることを知っていた。だからなまえが悲しむ必要も、後ろめたく思う必要も無い。むしろ思っていた以上に長くもった。――最初も、その次も、今、このときだって。

長く、永く、二人でいて――終わらない筈が無いのだ。長命種ではない、人間の恋心なんて、刹那の煌めきに過ぎない。一生に何度も繰り返す筈のものを、それでもなまえは、何度だって・・・・・、私だけに捧げてくれた。長く、永く。いつまでも、たとえどんなに、細くすり切れても――。

だけど、いつかは限界がくる。

惰性で共にい続けることは出来る。緩やかにすり減る感情の機微の中、なまえは最後まで、私への情だけは喪ったことが無かった。

喜びも悲しみも怒りも、愛も。何もかも衰えていく中で、なまえはそれでも恐れていた。私を好きでは無くなることを。

いつだって、最後まで。なまえの後悔はそればかりだ。
好きでい続けられなくてごめんなさい、と。

泣けなくなった空っぽの心で、それでも罪悪感と憐憫から、いつもなまえは悲しそうに目を伏せて、声を震わせた。

「ごめんね」

一緒にいたい。マーリンが好き。
本当なの、嘘じゃないの。

「だから、お願い」

もう一度、マーリンに恋をしたい。マーリンを好きな私を、取り戻したい。

――いつも、そうだ。いつだってキミは、その選択を取る。
積み上げた思い出も、情だけの安定もかなぐり捨てて、「恋愛感情を取り戻す」ことを選んだ。

そっと抱き寄せ、髪を撫でる。抵抗はされない。嫌われたわけではない。
なまえの精神はずっと安定している。……いや、低迷している、というべきなのだろう。

永い時の中で、あの射すような熱が喪われていくのは、確かに寂しい。
私が好きでたまらなくて、どうしうよもなく高鳴る胸に頬を染めるなまえの愛しさと言ったらない。

だから、……どうせ、喪うのなら。
得るものなんか、どうせ無いのだから。

緩やかに喪う感情と遠い記憶よりも、何度でも恋することを、キミが選ぶというのなら。

僕だけが覚えているよ。僕だけは、キミと過ごしたすべてを知っておく。
だからキミは、何度でも生まれ変わって。そしてまた、僕に恋をすればいい。

「なまえ……愛してる」
「………マーリン……」

腕の中のなまえにそっと口づける。寂しそうに名を呼んだのを最後に、なまえの意識は薄れ、永遠にその記憶の輪を閉じた。

「……次は、どう愛そうかなぁ。どんな風に出会っても、キミはいつでも僕を好きになってくれる」

それが分かっているから、いいんだ。

退屈に心を殺してしまったキミが、虚無に微睡む姿まで、僕は愛している。遠い記憶が薄れてしまっても、積み上げた絆を愛しく思う。

それでもキミが、恋を取るなら僕はそれに殉ずる。

本当ならもう、とっくに失くしている筈の恋を、こうして無理につなぎ止めて、どのくらい経つのだろう。
なまえはずっとずっと、何度も熱を喪いながら、それでもまだ、僕を愛してくれている。

とっくの昔に、キミが世界を救った事実も、共に歩んだ軌跡も無かったことになってしまったけど。

僕は覚えている。僕は忘れない。
キミがいつでも、どの最期でも、僕への恋の終わりに新生を願うことも。

痛みだけがある筈だった終わりに比べて、どれだけ幸福なことだろう。キミは確かに僕を愛していた。終わってもなお。
喪失の空虚さも、キミのいない未来への不安も必要ない、甘い終焉。

ただ。

キミに話せない思い出が増えていくこと――

……その蓄積喪失にだけは、いつまで経っても、慣れることが出来ないでいる。

LIST