役者が違う
「あれ?マーリン?」
「おや。……これは失礼。客がいたんだね」
新たに召喚したサーヴァント――オベロンを連れてマイルームに入ったら、マーリンが私のベッドの上に座っていた。
別にそれ自体は珍しいことでも何でも無いのだが、タイミングが珍しかったので、思わず声をかけてしまったのだ。
新たにサーヴァントを召喚したら、カルデアを案内した後、マイルームに寄っていろんな話をする。それがいつものことで、そういうとき、マーリンはそれを見越して部屋からは去るか、そもそも入室していないのがいつものことだった。
「――マーリン?」
私の後ろで、オベロンがマーリンの名に反応した。え、と思って振り返ると、オベロンは一瞬とてつもなく冷めた目を向けた後、にこりと柔和な笑みを浮かべ直したのだった。
「やぁ、これはこれは。かの有名なマーリンか。そんなのまでいるなんて、やっぱりカルデアはすごいところだ!」
ニコニコして言ってるがどう聞いても皮肉だ。おいおいと思いながらオベロンに声をかけようとしたら、マーリンがベッドから立ち上がって私たちに近づいた。
「見ない顔だが、いつの間に召喚したんだい?」
「え?ちょっと前……多分十分くらい前だよ」
「ふうん……?」
マーリンが訝しげに首を傾げる。けれどすぐさまいつも通りに笑ってみせると、オベロンに対してにこやかに話しかけた。
「挨拶が遅れたね。私はマーリン。人呼んで花の魔術師、もちろんクラスはキャスターだ。マスターとはそれなりに付き合いが長い方で、たいていのクエストには私がいる。一緒に編成されることもあるだろうし、よろしくお願いするよ」
「……ああ、よろしく。……」
マーリンの挨拶に対して、にっこりと笑いかけながらも、それ以降特に挨拶もしないオベロンに、「オベロン?」と声をかけると、「何かな」と返されて困った。
「いや、何って……」
自分は名乗らないつもりかと小突こうとしたら、マーリンが「オベロン?古妖精の?」と声を上げた。……古妖精?
「――いや。僕は妖精王オベロン。ウィリアム・シェイクスピアが書いた戯曲、夏の夜の夢の性質が強く出たものさ」
「ほう、妖精王?いつの間に縁を結んだんだい、マイロード」
「え?……何言ってんの?」
「え?」
妖精國の旅路だって覗いていたと、マーリンは私にそう言った。というか、じゃないとあんなタイミングよく現れられないだろう。
ならばオベロンのことだって知らなきゃおかしいのに、マーリンはまるでオベロンのことなど初めて知ったかのようだった。
「はは!」
急にオベロンが声を上げて笑った。びっくりしてそちらを見ると、爽やかな笑顔を向けられる。
「マスター、二人で話すんじゃなかったのかい?いつまでもこうしていろって?」
「え、あ、いや、ごめん。……まぁいっか。マーリン、ちょっと部屋空けてくれる?」
「……」
「マーリン?」
ゆっくりと私に視線を合わせたマーリンが、少しだけ――嫌そうに顔を顰めた。
珍しい表情にぎょっとして、思わず口をぽかんと開いたら、マーリンが私の頭にぽんと手を置いた。
「後でね、マイロード」
「っ、う、うん」
そう言うと、ひらひらと手を振ってマーリンは部屋を出た。マイルームの扉が、ぷしゅっと音を立てて閉まる。
「……」
「マスター?僕はどこに座ればいいのかな」
「あ、うん。好きに座って」
「好きにって……適当すぎないか?」
多大に呆れを含んだ声でそう言って、オベロンが冷たい目を向ける。オベロンに今更気を使うことも無いから、と言うと、私はベッドの前に置かれた椅子に座った。それを見て、オベロンがベッドに腰掛ける。
「きみさぁ。いつも新しいサーヴァントに自分のベッドに腰掛けさせてるわけ?」
「人による。オベロンは別にどこでもいいでしょ」
「特別扱いか~、嬉しいな~。それで?そんな特別な僕と今更どんな話をしたいのかな?」
「いや、今からするのは全サーヴァントに絶対する質問だからそこは特別でも何でもありません。でも、その前にまず聞きたいんだけど。……マーリンに何かした?」
ログ保存用に、ベッド脇に置かれたタブレットを操りがてら、ちらりとオベロンの方を向いて問う。
「何かって何?随分抽象的な質問だなぁ」
目を細めて笑うオベロンを見て、確信した。さっきのマーリンの態度には何かある。
「マスターには、サーヴァントのステータスが見えるって知ってる?」
「そういう知識はあるね。どう見えてるかは知らないけど」
「人によるらしいんだけど、私にはスキルとランクが説明付きで見えてるんだよね。意識しないと見えないから、今気づいたんだけど……この対人理ってナニ?」
胡乱げに目を細め、じとりと睨みながら聞いてみると、オベロンは肩を竦めた。
「そのまんま、きみが見えてる通りのスキルだよ」
「……私、スキルの説明で親類とかでもない一人を名指ししてるの、初めて見たんだけど……」
何だこの、マーリン拒否スキルは。
とりあえず手元のタブレットに情報として記入しておくが、これめちゃくちゃ厄介だな。
大嘘吐きなのは分かってたし、何もかもが気に食わないというのも知っていたが、……マーリンをここまで拒絶しているとは、流石に思わなかった。
「いやぁ、だってほら。遠くから覗かれてるとか、怖気が走るだろう?」
「…………。……あぁ、はい。なるほど」
「何?」
「気にくわないんだ。マーリンが物語の消費者だから」
合点が行って、頷きながらそう言うと、オベロンは不機嫌そうに押し黙った。
「他人事みたいに言うけど、自分が消費されてる側って自覚ある?」
「うーん。……まぁ、そう言われれば、そうかも」
マーリンの見たい景色に向かって走っている自覚はある。……そのゴールにマーリンはいないから、走れば走るほど、足が重くなるのだけど。
「でもそうだな、私が主人公の物語って考えたら……マーリンはもう傍観者なんかじゃないよ。役者としては、ずいぶん大根かもしれないけど」
ニッコリ笑ってそう言うと、オベロンが何かを答える前に「さて、じゃあ質問していくね」と話を切り上げた。
舞台を鑑賞するだけだったマーリンを、ステージに引きずり出したという自負だけはある。
この物語を一番消費しているのは、私なのだ。