タイトル・ロール 妖精王

食堂付近にいた何人かのサーヴァントたちが、僕も私もとなまえに抱きつきにかかるのを廊下の隅で見送ると、踵を返す。

お優しいマスター様は、百人単位で存在するサーヴァントたちみんなから好かれているらしかった。

なんて出来た主人公だろうか。反吐が出るとはこのことだ。

一番イラつくのは、あれだけ選択肢がある中で、選ばれたのがあの男・・・という点だ。

――旅の道中、死ぬほどどうでもいい会話の中で、なまえに「好きな人がいる」という話は聞いていた。勿論それが誰でどんなヤツかなんてのには興味などある筈も無く、その詳細を知らないまま召喚されたのだが、その相手が誰なのかは、割とすぐに思い至ることとなった。

「マスターの前でマーリンの話はしない方がいい。何故なら喜んで語り出して、止まらなくなるからだ」――

そんな偏った忠告をまず受けて、二人の様子を目の当たりにして。気づかないヤツはよっぽどの間抜けだろう。

――吐き気がする。

カルデアの奴らは揃いも揃ってどうかしている。

マスターが好きだと臆面もなく口にする。
言えずに燻っているバカもいる。

その中でも、あの男の卑劣さには卑王呼ばわりの俺でさえ頭が下がる。
なんてったって、振っておいて好きでいさせようとするんだから。

あんな二人をそのまま放置しているなんて、悍ましさに怖気が走る。
行き着く先はどう足掻いたって悲劇的な終幕だろうに、誰も行く末の筋書きに文句を言わないのかと嘆きたくもなる。

――「でもね。私が勝手に好きなだけで、マーリンは悪くないんだよ」

趣味が悪いとかもう一生分言われてるからね、と茶化しながら笑ってみせた姿が強がりなのは明白で、よりいっそう寒気がした。

自分の片思いなのだとなまえは言ったが、あれだけ花の匂いを擦られておいて気づかないのもバカバカしい。言ってやる義理も無ければそもそも教えたからと言って結末は変わらないから、俺がやることと言えば、道ならぬ恋に酔う様を嘲ってやることだけだった。

――両想いになろうが、片恋で終わろうが、あの夢魔にとっては美しい思い出になるのだろう。

とっておきの一冊のように、時折読み返してはため息を吐いて、心の棚にそっと飾っておくのだろう。

「めでたしめでたし」のその先に、彼女の人生は続いていくのに。

「……クソ野郎」

吐き捨てて、なまえの顔を思い返す。

この眼がなまえの痛みを見逃してくれないのだ。
そして――その痛みの先に、もっと大きな熱を持つことも。

――「誰も手に出来ないひとだから、思い続けられるのかも。……マーリンが夢魔で良かったと思うよ」

そうしてきみは、手に入らない星の為に、終焉へ向かい走り抜ける。

ピリオドの先の虚無に怯えながらも、たったひとりの読者の為に。

――「でもそうだな、私が主人公の物語って考えたら……マーリンはもう傍観者なんかじゃないよ。役者としては、ずいぶん大根かもしれないけど」

「――は」

こみ上げるような吐き気が、少しだけおさまる心地がする。

いつか聞いたその言葉は、気休めにもならない戯れ言ではあったけれど、自信満々にそう言った姿は、少しだけ――清々しかった。

「私が主人公の物語」なんてことを、あっさりと言い切ってしまえるきみだから――まだ少し。我慢してやってもいいだろう。

「それはそれとして、ムカつくものはムカつくけどね!」

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