タイトル・ロール 花の魔術師

マイロードが一人で楽しそう・・・・・・・にしているときほど要警戒だ。
食堂で何やら独り言を言っている様子のマイロードの元へ訪れてみれば、案の定、そこには少し前に召喚されたという、妖精王オベロンがいた。

「楽しそうだね。私も入れてくれるかい?」
「マーリン!」

驚きに目をぱちくりと瞬かせるマイロードの愛らしさとは対照的に、向かいでメロンをつまんでいた妖精王は剣呑に目を細めた。最初の印象とは随分と裏返った、暗色の髪が揺れるほど荒々しく椅子から立ち上がると、彼の王は「何だか気分が悪いな、お先に失礼するよ」とその場を立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっとオベロン!メロン残ってるよ!」
「君が食べたら?僕には甘すぎた」
「美味しそうに食べてたくせに!もうちょっと取り繕うとかしてよ、もう!」

ごめんねマーリン、となぜかなまえが私に謝る。別にキミのせいではないし、どんな悪意を向けられようと堪えるコトも無いので、気にしなくていいのに。

そもそも、こんなやりとりはもう数回目だ。

彼が来たばかりの頃は、まだ上辺の爽やかさを崩すようなことは無かったのだが……最近はなまえの言うとおり、取り繕う気も無いらしく、私が現れると彼は不機嫌そうにどこかへ消えてしまう。

彼が残したメロンに目をやり、はぁとため息を吐いてなまえがまた腰掛ける。先ほどまでオベロン君が座っていた椅子に私も腰掛けると、なまえがメロンの皿を自分に寄せた。

「マーリン、なんか最近私によく話しかけてくれるね?」
「そう?」
「そうだよ。前は私が話しかけないと、そっちから声かけてくるのは珍しかったのに。……外での話だけど」

外、というのはマイルームの外、という意味である。
外でも、私からちょっかいをかけることもそれなりにしているつもりだったが、どうやらそういうことを言いたいのでは無いらしく、「そうじゃなくてさぁ」と、メロンにフォークを突き刺しながらなまえは首を傾げた。

「誰かと話してるとこに入ってくるのが珍しい。あんまり輪の中に加わろうとするタイプじゃないのに」
「そうかな?自覚無いなぁ」
「白々し~」

じとりと目を細めて睨まれる。フォークに刺したメロンを持ち上げてふりふりと左右に振りながら、なまえがおもむろに口を開く。

「……オベロンを煽ろうとしてるの?」

突きつけられたメロンにぱくりと食いついて、もぐもぐと咀嚼する。何の感慨も無く飲み下すと、いいや、と静かにその言葉を否定した。

彼が私を嫌っている――というのは、ああまで態度に出されては気づくも気づかないもないのだが――なまえから聞いてもいた。それがどうやら、スタンスの違いからなる断絶であるらしいことも。

僕に言わせれば、至極どうでもいい話である。

というより、関係ないと言うべきか。

彼の主張に理解は示せる。そうあれかしと望まれ創られた「だけ」の存在でも、そこに存在してしまったのなら、そういう価値観を抱くこともあるかもしれない。

でも僕にとってはそれも「絵空事」だ。

へぇ、そうなんだ。――で、終わる話で、僕にとって大事なのは、彼らを取り巻く紋様がどういう形におさまるのか、その一点のみなのだ。

だから、彼がいくら私を嫌おうと、煽り返す動機が私には無かった。面白そうだと思えばいじりはするけど。

「じゃ、何でオベロンと私がいると現れるの?」

メロンにまたフォークを刺しながらなまえが問う。

言わなくても分かってほしいなぁとぼんやり思いながら、フォークを持つ腕ごと掴んで、メロンをもう一切れ口に含んだ。汁気が多いなぁ。

「だって、彼は人理の敵だろう」

頬杖をついて、なまえから視線を逸らしながらそう漏らす。視界の端でなまえが体を揺らした。おそらく――腑に落ちないという顔をしている。

「そういうサーヴァントは他にもいるけど」

ごもっとも。
でも、他のサーヴァントと彼は違う。

彼は、見えないのだ。

私とて、24時間なまえを監視しているわけではない。わけではないけども、いつ何時でも、見ようと思えばどこだって見られる、というのが私にとっての「普通」だった。

だけど、彼だけは違う。
彼のいる空間を、私の千里眼は正しく認識出来ない。

――見えないだけならまだ良かった。
だが、どうも彼の擬態能力は、私の認識そのものにすら機能しているようで――

それが、僕には、…………少し、恐ろしいのだ。

「オベロンが来てから、マーリン変だよ。……新しいクラスだから?やっぱり、あのクラススキルが気になる?」
「うーん。……まぁ、そうだねぇ。味方にああも拒絶されているとなると、今後支障をきたしかねないし。かといって、絶対仲良くは出来ないし。私はともかく、向こうがね」

と、建前を述べながらも、実情は少し違う。
このカルデアには神霊サーヴァントも大勢いることだし、私の千里眼が常に十全に機能しているかといえば、そんなことは無いのだが――私に悪意を持つ者が、私に好意的ななまえをどう扱うのか――私が、好意的に思うなまえを、どう扱うのか。

ああ、まったく。私はこういうの、向いてないっていうのに。

「……上辺だけ取り繕っても無駄な相手だ。妖精眼とか、卑怯じゃないか?」
「それマーリンが言う?やっぱオベロンのこと意識してない??」

呆れたようになまえが言う。その手からフォークを奪い取ると、最後の一切れを突き刺して口に含んだ。結局一切れも食べられなかったにも関わらず、なまえは何も言わずに空の皿を持つと立ち上がった。私も立ち上がり、フォークを皿の上に返す。

「僕は心配しているんだよ。だってああも相性が悪いと、同じパーティにはしづらいだろう?目の届かないところでどうにかなっちゃわないか……あぁ!とても心配だ」
「ほんとに白々しい。大丈夫だよ、オベロンに始まったことでもなし……こら!お皿持ってて危ないんだからそんなくっつくな!」

背中から回り込んで抱きつくと、なまえが避けるような仕草をする。それでも抱きついたままでいると、「もう!」とか何とか言いながら、返却口まで私をずるずると引きずりながら歩くのだった。

皿を返し終わると、なまえが私を引っ剥がす。「軽率にくっつくなって言ってるでしょうが!」と、目をつり上げてお説教するなまえの語尾がうわずっているのに、はてこの場にいる何人が気づいているのやら。

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