カルシブに投稿したマーリン夢小説がバズった

昔取った杵柄――という言葉がある。
若い頃に培った技術のことを言う。

カルデアには娯楽が少ない。
人理が無事修復され、現在ではレクリエーションルームに様々なゲームが揃っているものの、まだそれが成される前は、本当に娯楽と呼べるものが殆ど無かった。
それ故に、各々が工夫して娯楽を生み出し、それを共有する空気が生まれ、そしていつの間にか――カルデア内のみで流通する、各種SNSが、気がついたら出来上がっていた。

カルデアのスタッフは全員が何かのエキスパートだと言うけれど、そんなものサクッと作れちゃうもんなんだなぁ……。
そう思いながら、私も各種SNSに登録し、日々の様々なことを更新していった。

とは言え、私はカルデア唯一のマスターである。
休日・休息も適切に与えられてはいたけれど、カルッターやカルスタグラムはともかく、カルチューブやカルシブに関しては、完全に見る専でいた。創作意欲を燃やせるだけの余裕が無かったからだ。

そんな私も、過去にはちょっとばかり物書きの真似事をしていた時期があった。

そう、私は、夢小説愛好家――所謂、夢女子だったのである。



「え、えぇ……?何、これ……」

現在私はカルシブの通知を見て震えている。
ついこの間、魔が差して投稿した小説についたブクマの数が、ちょっとよく分からない数字を示していたからだ。

カルシブには、本来の二次創作界隈にはおよそ有り得ない風潮がある。
即ち――「ナマモノ歓迎」風潮である。

何でそんなことになったのかと言うと、カルシブにスタッフたちのみならず英霊たちも投稿するようになったことが発端だ。英霊たちの殆どは、己の二次創作に物凄く寛容だった。――というか、二次創作ありきで宝具が作られたような存在も多い。
生前から人の視線を集め、良くも悪くも活躍した者たちである。彼らは、己がネタにされることに対して、まったく違和感を持たなかった。

そんな英霊たちの自由さに感化され、スタッフたちも各々が推しCP創作を投稿し始め、カルシブはナマモノ創作が多数を占める、特異な投稿サイトと化した。今ではR18創作も普通に投稿されている。先日もマスター陵辱ドエロ漫画がランキングの一位を飾っていた。マスター、即ち私であるが、正直私も別に悪い気はしなかったので、めちゃくちゃに犯される私を拝んでへぇ……とか一人で言っていた。この絵師はよく私受けエロ漫画を描いてくれていて、私は愛読者であった。愛読しすぎて、リクエスト歓迎の文字を見て、我慢出来ずに直接メッセージを送ってしまった。感想とともに、良かったらマーリンに私が犯される漫画描いてくださいと。
よく考えたらバカ正直に「私が」とか言わず「マスターが」と言えば良かったのに、何で私は本人であると言ってしまったんだろう?なんかあのときは「私受け漫画描くなら本人のお墨付きあったほうがいいよね!」とか思いこんでて、いやよく考えなくても本人は見てないという体でいた方があきらかにやりやすいよ!もう遅いが。幸い神絵師はリクエストを快く受け入れ、というか寧ろリクエストする前から描いてくれていたらしくて、最終的に最高のマーリン×私エッチ漫画を描き上げてくれた。その節はありがとうございました。

閑話休題。

現在、人理修復も終え、インターネットも復活してはいるものの、カルシブは依然盛況である。
いつものように投稿作品をぼーっと閲覧していた私は、ふと、急に思いついた。

せや。夢小説書こ。

夢小説、と一口に言っても意味は様々あるが、これは私とマーリンの恋愛小説書こ、の意味である。

急にどうした?と思われるかもしれないが、これは私にとって名案としか言いようが無かった。
だってマーリンと私の恋愛は、現実だとうまくいきっこないからだ。

マーリンに片思いすること数ヶ月、もじもじと燻らせていた思いを、私は久々に、文章として吐き出してみることにしたのである。

最初はただ私の心情を書き出し、次に実際にあった出来事を少し脚色して書き出し、調子に乗って両思いのような捏造小説も書き出し……。
そうして書いた小説を、私はカルシブの小説投稿機能を使って、秘密裏に投稿していった。

とは言え急に現れた新参の文章、それも中身はほぼ日記とポエムである。閲覧数もブクマも殆どつかない日が続き、それでも私は、燃える想いを文章に変え、叶わぬ想いを夢に託して、カルシブに投稿し続けた。

そしたらある日、急に自作がバズった。

「……何が起きたの?」

とりあえずいったん通知から目を逸らすことにして、私はカルッターを立ち上げた。すると折りよくDMにメッセージが飛んできたのが目に入る。見てみるとおっきーからで、「マーちゃん受けのめちゃエモ小説がバズってて姫も見たけどマジで良かった!!」という文章とともに、私の小説作品のURLが添えられていた。
オタク故に、何かを人に勧める際は慎重なおっきーらしくない直メッセージというやり方に、私は戦きながら返信した。

「これ私も前に読んだよ。何でバズってるんだろ?」
「マーちゃん知ってたなら教えてよ~!これアルファカルッタラーのマリー王妃がツイートでお勧めしてたんだよ」
「あ~なるほど……」

マリーかぁ~……!なるほどね……。
マリーは恋愛小説も好んで読むし、カルシブの投稿作品も、ブクマの数によらずに閲覧しているらしいと聞く。流石にあまりにもあんまりなもの……R18な内容だとか……はサロンのメンバーによってがっつりブロックされているらしいが、今のところ私の投稿作品は、ちょっと悲恋に寄り気味なものの、すべて全年齢対応である。

「おっきーまでそんな刺さったんだ?」
「刺さるよ!マーちゃんの心情めちゃくちゃ緻密に書かれてて姫めちゃくちゃ泣いちゃったもん」

泣いちゃったんだ……ごめん……でもそれ書いたとき私も泣いてたから嬉しいよ。

「この人の他の小説も全部神だった!マーリンさんとの話しか書いてないみたいだけど」
「マーリンと私のCP流行ってんのかな?」
「それは流行ってないけど」

何でや。流行れよ。

「マーちゃんのCP、細分化激しいし。でもこれを機に流行るかもね」
「へ~、楽しみだな~」

文字だけ見るとふんわりしているが、ガチ本心である。マーマス流行れ。

「姫の推しはマスマシュなんだけどね」
「おっきーのマスマシュも楽しみにしてるよ!」
「いや~姫は本人見てるの分かっててナマモノは描けないよ」

そうだね……普通はそうだよね……。
思わぬ方から過去の行いを殴られ、私は一人静かに呻いた。

「気が向いたらいつでも描いてね♡」というメッセージを送信し、おっきーとのDMを終わらせ、再びカルシブに移る。
メッセージも何件か来ていて、そのどれもが絶賛コメントだった。

何か……

これ…………

何か…………

めちゃくちゃ恥ずかしい!!!!!

「全部消したい……ッ!」

顔を押さえながらぷるぷると震える。
自作品を褒められるのはシンプルに嬉しい。
しかしだ、これは私の、ある作品は実情を赤裸々に、ある作品は願望をありのままに描いた、いわば己の恥部である。
それをカルデア中の人間に見られているのだ。

貰ったメッセージを見ると、先ほどおっきーに言われたように「マスターの心情描写が丁寧で……」というものが多い。

そりゃそうだよ!!そのまま書いてるんだもん!!

誰よりもマスターの心の機微に詳しい自信がある。
しかしそう返信するわけにもいかない。
どうしたものだろうか。

込み上げる羞恥を抑え込みながら、メッセージをチェックしていく。すると、中には私が書いたマーリンの(勝手に捏造した)言動や心情に対する感想などもあった。

ムカつくとか腹が立つという言葉もある一方、ときめいた、かっこいい、愛を感じるなどの言葉もあり、思わずにんまりと口角があがる。

でしょ?マーリンめちゃくちゃかっこいいでしょ?
めっちゃ私愛されてるっしょ??

マーリンの魅力が伝わっているらしいことに気づき、私はご満悦になった。よしよし。さすが私。

あまりの恥ずかしさに、一瞬全部消したいという考えが過ったが、考えてみればこれは好機だ。何ってマーマスを流行らせる為の。

実を言うと、書き始めたら止まらなくなり、しかしあまり連投したら新着投稿を埋め尽くしてしまい訪問者をビビらせてしまうという考えから、投稿出来ていない小説が手元にたくさんある。

その中でも、渾身の出来ではあるが、全編マーリン視点で書いてしまったが為に投稿を躊躇っていた作品があった。

私が如何にマーリンに愛されまくっているか、その願望のすべてを解き放った、結構な大作である。

載せるなら今ではないか。

「いやっ……でもな……………いくら何でも…………私の願望が出過ぎかな…………」

迷うこと五秒。

「投稿すっか!」

結局、自CP流行れの気持ちが圧倒的に打ち勝ち、軽やかにそう決定して、私は渾身の出来であったその小説を投稿した。



「いや素晴らしい出来だったよ。マイロードにこんな特技があったとは知らなかった」
「殺してください」
「なんてこと言うんだい」

マイルームのベッドの上に正座して、ベッド脇のデスクに置かれたPCを楽しそうに覗き込むマーリンに懇願する。
別に私も、マーリンに見られることを想定していなかったわけではないし、そもそもマーリンなら私がこういう小説を書きまくってること自体、知っているだろうなとは思っていた。

思っていたけど目の前で読みながら感想を述べられるとは思っていなかった。人の心が無いやつはこれだから。

「殺してください」
「褒めたつもりだったんだけど、何か気に障ったかな?」
「言葉の内容とかじゃなくてこの状況がもう地獄なんです!!」

ただでさえナマモノを本人に読まれている現状がいたたまれないのに、その内容が更に自分との恋愛小説なのである。
それに、今マーリンが容赦なく閲覧しているその小説は、私がマーリン私のことこう思ってたら良いなぁという願望一億%の捏造マーリン視点私救済小説なのだ。

本人の思考を捏造した文章を本人に読まれるって、めちゃくちゃ死にたい。如何にマーリンに心が無いと言ったって、それで納得するにも限度がある。

「そう言わずに。なかなかどうして大したものだよ。ここの台詞とか、実に美しいじゃないか。心の応酬も見事に描けているし」
「おかげさまでブクマも過去一いただきました、ありがとうございます死にます」
「キミに今死なれたら困るなぁ」

ははは、と軽い調子で笑いながら、マーリンはコメント欄にカーソルを合わせた。
貰った感想までマーリンが読んでると思うと、マジでいたたまれない。何かコメントくれた人に申し訳ない。

「美しい恋物語だという感想がいくつも届いてるよ。良かったね」
「こんな現実があったらなァーッ!!」
「夢は現実より美しいからこそ夢なんだよね」
「どうせ私の書いてる話は徹頭徹尾夢物語だよ!!」
「いいじゃないか、夢物語」

夢魔らしい軽薄さでフォローにもなってないようなことを言い、マーリンは席を立つとベッドに腰掛け、私の隣に座った。思わず仰け反ると、微妙に体を寄せられる。

「なまえが私にどんな風に愛されたいのかよく分かって、実に参考になったよ」
「さっ、参考にするつもりなんかないくせに……」
「その方が良いのかい?」
「良い!良い!無理しなくて!私には私のイマジナリーマーリンがいるので!」
「むっ。何だいそれ。本物の私より幻想の私が好きだとでも?」
「本物のマーリンも実は私が書いたようなこと思ってるなら好き」
「ははは、そんな私は解釈違いだね」
「公式と解釈違い地雷です!!」

ていうか解釈違いとか言うな、泣くぞ。

「うわーんこの流れでマーマス爆流行り間違いなしとか思って調子乗ってうpるんじゃなかった~!!」
「流行ってほしかったんだ」
「流行ってほしいよ!!!!」

羞恥も限界に達し、ベッドにうつ伏せておいおいと泣く(ふりをする)。こうなりゃ自棄である。

「個人的に依頼したマーマス陵辱漫画が結構好評みたいだったからCP需要あるとか思って、応援してくれる人とか刺さる人が少しでもいたら嬉しいなとか思って……しくしく……実際まだバズる前にもコメントくれる人、いたし……」
「あ~キミと二人でマーマス書き合ってた子」
「そう、私が投稿したら自分もって投稿してくれてて、それがもうホント最高で……」
「あれ私も読んだよ、感想も送った。陵辱漫画の方も感想したためて送ったよ」
「何でそんなチェックしてんの?」
「なまえ関連のCPは全部見てるよ」
「何でだよ」
「え?だって気になるじゃないか?」
「自分のCPじゃなく?」
「自分のは別に。どれ読んでも解釈違いだし」
「解釈違いとか言うなよマジで」

夢魔を正しく書ける人間がいたら私が紹介してほしいよ。

「解釈違いなら私の書いた小説だって読まなくていいのに……」
「キミの紡いだ物語以上に興味深いものがあるかい?」
「そういうこと言うから愛され捏造書かれるんだからな」
「それでキミが救われているなら私は何も言うことは無いとも」

己は私を泣かせまくっといて……!!

無責任な言葉に、ぐぬぬと歯を食いしばる。身体を起こすとマーリンをぎろりと睨みつけた。

「人の書いた話に頼らないで、マーリン自身が救ってくれない?」
「それが出来ないからキミが自分で自分を慰めてるんだろう?」
「その言い方はやめろ」

何か違う意味に聞こえるだろうが!いややってることは自慰で間違いないんだけども!!

「あれだけ書き綴るほど私が好きなくせに、なまえは私本人に文句ばっかりだなぁ」

呆れたように笑いながらマーリンが言う。うるせー。乙女の私生活覗き見してるやつが存在を許されてるだけありがたいと思いやがれ。

「マーリンも……」

マーリンも私のこと割と好きじゃん、と言おうとして、ふと思いついた。

「マーリンも私の夢小説書いてよ」
「夢小説?」

はて?と小首を傾げるマーリンに、あっ、と声が出る。
そうだ、私の中で私の書いた話は夢小説なのだが、夢小説の概念を説明するのも面倒くさいし、名前変換機能も無いので、ただのCP小説として投稿してたんだった。

「えっ、ていうか夢小説知らないの?夢男子なのに!?」
「え?いや夢魔だけど……」
「いや夢魔なのは分かってるけども」

まぁ夢女子夢男子と言ってもこれも諸説ある感じなのでアレだが……「好んで読んでいた物語に介入したくなり手を貸した」という、マーリンが駆けつけてくれた理由、夢男子でしか無いでしょ。
ネット文化に染まりきってるマーリンのことだから夢文化も知ってると思ってた。クソ。まだまだ知名度低いな!

とりあえず私は掻い摘まんでマーリンに夢文化について説明をした。ふむふむと頷きながら聞いていたマーリンが、つまり、と結論を口にする。

「私もキミに抱いた願望を描けば良いと言うことかな?」
「大体そんな感じ!」

だいぶざっくりしたまとめだが、まぁ良いか。

「う~ん。想像はともかく妄想を出力するのって、私は苦手なんだが……人の望むものを出すのは得意な方だと思うけど、己の願望となるとね」
「何かこう、私とこうなりたいとか私の見たい一面とか無いの!?」

私はありまくる故に書きまくっているのだが!!
マーリンにだってそういう願望くらい……何か……あるでしょ!?仮にも導き手を名乗ってるんだし、見たい景色があるんでしょ!?

「見たい一面……うーん……無いな」
「無いの!?」
「知らない部分は見てみたいよ。ただ、知らないから書けない」
「じゃ、じゃあ!私の好きな……あの、気に入ってるとことか……」
「それを書くのかい?」
「う、うん……」

言っててめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。私の好きな面って何よ。めちゃくちゃ自意識過剰みたいじゃん。いやマーリン私のこと大好きだよね?と一緒にいて思わされるからこんな……拗らせすぎて夢小説書くハメになってんだけどさ……。

「それなら……まぁ。書けるかな」
「え!?あるの!?」
「あるって?」
「わわわ、私の……す、好きなところ?」
「あるとも」

今すぐ教えてほし~!!けど書いてくれると言うなら書いてほしい!!ジレンマ!!

「じゃ、じゃあ、書いて!是非書いて!私の小説読んだお詫びとして!!」
「公開されてる文章を読んだことにお詫びを要求するのかい?」
「じゃあ頑張っていっぱい書いたご褒美!!」
「まぁキミのそういう強欲さも嫌いではないよ」

ははは、と軽く笑ってマーリンが言い、私の頭をぽむぽむする。強欲にもなるよ、推しが私の夢小説書いてくれるんだぞ。

さっきまでの、死にたいくらいの羞恥は吹っ飛んで、今はウキウキするばかりだ。いったいマーリンはどんな話を書いてくれるのだろうか。

「じゃあ早速書いてほしいから今日は帰って!」
「やっぱり生身の私より幻想の私の方が良いのかい?」

そんなツッコミを受けつつも、私は「マーリンが書いた私の夢小説」が気になりすぎて、部屋からマーリンを追い出した。

後日。
書けたよ、とマーリンが提出してくれた小説が、10万字近くあり、白目を剥くことになるのは、また別の話である。





次回

カルシブ、マスター救済恋愛小説が流行
なまえ、満を持してうpったR18小説のSM要素が物議を醸す
マーリン、これ冒険小説じゃない?

以上三本です。お楽しみに(嘘)

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