夢で逢えたら
「……ねむい」
疲れた。物凄く疲れた。
レイシフトの後は毎回こうだ。カルデアに戻ってシャワーを浴びた瞬間、張り詰めていた全てが緩んで猛烈な眠気に襲われる。
レイシフト中ずっと緊張しているというわけでも無いが、やはりマイルームは安心感が違う。
いつの間にやらすっかりここを巣として認識しているらしい自分にふにゃと口元が緩むが、そのまま身体中の何もかもが緩んで倒れそうになるのを何とか堪えて、ふらふらした足取りでベッドに向かった。
ぼすりとベッドに突っ伏し、あー髪乾かさなきゃなーとぼんやり思いながら、そのまま瞼が落ちていく。
とろりとした眠気の海に揺蕩っていたら、ふと頭を撫でる手の感触に落ちた瞼をゆっくりと持ち上げた。
「まー……りん」
「お疲れさま、マイロード」
「んぅ……」
「ああこら、ダメだよ。このまま寝ては風邪を引くし、髪も傷んでしまう」
「うー」
手の甲を頬につんと押し当てられる小さな刺激に再び瞼を持ち上げる。身体の下に入れられた手に合わせてゆっくりと起き上がると、そのままマーリンの腰あたりにもたれこんだ。
「ねむぅい……」
「髪乾かしたら寝ていいよ」
「あい……」
と言いつつまったく動く気になれず、そのままマーリンの腰に抱きついたまま眠りに入ろうとしたら、ゆっくりと引き剥がされた。
「うううう」
「ちょっと待ってておくれ」
「んー……」
こくりこくりと船をこぎながらも頷くと、マーリンが移動する気配がした。支えを失った身体を自力で支える気になれず、ぐらりと前に倒れ込むとごめん寝ポーズになる。
「ああこら。まったく」
呆れるマーリンの声がして、再び身体を持ち上げられる。案外とすぐに戻ってきたマーリンは、手にドライヤーを持っていた。
「なまえ、ほら。乾かしてあげるから、もう少し頑張って」
「ふぁ?ありぁと……」
スイッチを入れる音がして、温風が背後から頭に当てられる。マーリンの手が髪に絡められて、時折その指先が耳裏をくすぐった。
「んぅ、う」
気持ちがいい。
マーリンの手は、不思議と私を安心させる。繊細な手つきのせいだろうか、心地よくなるよう気を遣ってくれているのが分かる。
この手は私を傷つけはしないと、そう感じる。
髪を優しく撫でられて、うっとりと目を閉じる。閉じた瞼の裏に、何故か背後から髪を乾かしている筈のマーリンが映って、優しく私の頭を撫でるのが見えた。
「本当に疲れてるんだね、そんなに無防備になって」
「えぅ……ふ」
疲れた、本当に。いろいろ大変だったの、走り回ったり死にそうになったり、まともに休めなかったり。
「うーんもう半分、いやほとんど夢の中だね?夢の中で返事してるよキミ」
「むぅ…………ん……」
夢の、中?夢……優しいマーリンは、夢?
「夢じゃないよ。今こうしてキミを慈しんでるのはボク」
そう言うと、マーリンは私の耳介に指先で触れた。ぴくんと身体に小さな刺激が走って、ん、と喉の奥から声が漏れる。
「ん、もう良いかな。おいで、なまえ」
目を瞑っているのに、やはりマーリンの姿が見える。
夢の中でマーリンに抱きつきながら、現実で動けないでいる私をマーリンがそっと引き寄せ、ゆっくりとベッドに寝かせてくれた。
その衝撃で少しだけ現実に引き戻され目を開くと、ぼんやりと目の前に向かい合わせで寝ころぶマーリンの姿が見えた。
「う、ぅ」
「うん?どうしたんだい」
「ねる、の、いや……」
「さっきまで寝てたのに?」
小さく笑いながら言って、マーリンが頭を撫でる。先ほどの夢が思い出されて、瞼が自然と閉じていく。
「おはな……」
「花?」
「はな、し……ゆめでおはなし、きいて……」
「良いとも。キミとの話ならいつでも、眠っているときだって大歓迎だよ」
その言葉に安心して、ぎりぎり抗っていた眠気に身を委ねる。マーリンがそっと私の頭を引き寄せて、私もその胸板にすり寄った。
本当は起きてマーリンと話したかった。
夢でもお話出来るのは嬉しいんだけど、如何せんよく覚えていないのと、いまいちコントロールが利かなくて、マーリンに何を言っているのかわかったものじゃないから。
「おやすみ、なまえ」
「ぉや、す……」
そうして、私の意識は完全に途切れた。
◆
「キミは夢うつつだと、素直になるよね。……でもどうやら、僕もそうみたいなんだ」
なまえが夢に現れるのを待って、マーリンは吐息のような声で囁いた。
なまえが動かないのを確認して、ひっそりと口元に笑みを浮かべる。
「可愛いなまえ。どうか夢の中でいつまでも、僕と遊んでおくれ」
それこそ叶わない夢と知りながらマーリンはそう囁いて、その額に口づけゆっくりと頭を撫でた。
夢の中でなら、キミと何だって出来るのに。
最後の本音は声にせず、自分の頭の中でだけ呟くと、全意識をなまえの夢へと集中させるべく、マーリンは肉体活動を停止した。