でもやっぱり服は変えた方が良いと思う

普段から制服ばかり着ている私だが、サーヴァントのシミュレーター訓練に付き合う際は、たまにそのサーヴァント向きの礼装に着替えたりもする。
どちらかというと長期戦向きな為、あまりカルデア内で着る機会の無かったアトラス院礼装を珍しく着ていたら、眼鏡の話になった。
その話の流れで言ってしまったのだ、「普段つけてない人がつけてる眼鏡にときめく」と。

だからって早速眼鏡つけて私の前に現れるマーリン、何なの?私のこと好きなの??

「やぁ、お帰りなまえ」
「……はい、ただいま」

制服に着替えようとマイルームに寄ったのが悪かったのか、いやどこに行こうが私の行動などマーリンには文字通りお見通しなのだから早いか遅いかの違いでしか無い。
眼鏡に突っ込まず、勝手に人の部屋に入っていることに関しても今更すぎるので何も言わず、無言でクローゼットに近寄って制服を取り出そうとしたら、後ろからマーリンに抱えられ、そのままベッドに座らされた。

「ちょ、っと、何すんの」
「もう着替えてしまうのかい?勿体ない」
「勿体ないてなに?」
「私その服好きなんだよね」
「……何で?」
「えっちだから」
「んっ!」

私を膝に乗せ抱えたまま、マーリンが股の間に手を割り入れて、内股を撫で上げる。ぞわりとした感覚が走って、素直に声が漏れてしまった。

「何すんのもぉ!」
「タイトスカートに生足ニーソって最高だなって。ここのスリットとか何の為にあるんだろうね?」
「や、ちょ、ずりあげないでっ」

スカートをずりあげようとするマーリンに抗うよう裾を押さえつける。
くいくいとわざとらしく引っ張っていたマーリンが突然手を離したかと思うと、スカートの中に手を突っ込まれた。

「ひゃあ!?」
「この格好のときに普通のパンツだとシルエットに響くよ?」
「脱がさないでバカ!制服に着替えるって言ってるでしょ!」
「じゃ、スカートの方を」
「いらないって、っ!」
「ん?」

後ろから覗き込んでいたマーリンの顔を睨みつけたら、その顔に眼鏡がまだ着いていて驚いて言葉を失う。
白々しく首を傾げるマーリンから目を逸らす。
くそ。忘れてた。

「どうしたんだいなまえ」
「…………」
「キミに素っ気なくされるととても寂しいよ、こっちを見ておくれ」
「どの口が……」
「と言いつつこっちを見てくれるから可愛いね本当」
「く……ッ!」

にこりと眼鏡のマーリンが微笑んで言う。
正直に言おう。とてもかっこいい。似合っている。

「そ……」

その服に眼鏡って合わないでしょ、と負け惜しみを言おうとして、慌てて口を噤んだ。
じゃあ服も変えよう、とその場で着替えられかねない。
眼鏡マーリンを至近距離で見ただけで心臓バクバクしてるのに、ここで服装を変えられたら死んでしまう。
あまつさえ白衣とか着られたらどうしたらいいんだ。いつか覚悟が出来たとき着替えてもらおう。

「そ?何だい?」
「何でもない。何で眼鏡なんてつけてるの」

出来る限り目線を逸らしながら問い掛ける。
相変わらず背後から私を抱えたままのマーリンが、どや顔で眼鏡のつるに手をかけて言った。

「キミが眼鏡姿の私にときめくと言ったから」
「眼鏡姿のマーリンとは言ってませんが!?」
「でもあのとき私を思い浮かべていただろう?」
「ぅ……っ、あっ、そ、そもそも見るな!」
「今更つれないことを言わないでおくれよ」

いや私が規格外に優しいから許してるのであって本来なら許されないからね!?幼気な少女の生活を監視して許される道理とか無いからね普通は!
ホントマーリンはすぐ調子に乗るんだから!!

「それで、どう?想像でなく実際に見た眼鏡姿のボクは、キミのお眼鏡にかなうかな?眼鏡だけに」
「その親父ギャグのせいで老眼鏡疑惑が降って沸いたよ」
「余計なイメージは捨てて見たままの感想を答えてくれたまえ」
「顔の良い男は何でも似合って羨ましいね!」
「ふふ、ありがとう。知的で良いだろう?賢者の二つ名で語られる際はこのイメージで行こうかな」
「今更カルデア内で賢者が通ると思うな」

褒められてご満悦のマーリンに呆れて言うと「眼鏡姿の私を見て見直す者もいるかもだろう」と反論された。
そんな単純なことで今までのちゃらんぽらんイメージが覆ってたまるか。
そう思ったのだが、次に言われた台詞で完全否定は難しくなった。

「キミだって「頭良さそうに見える」って言われていたじゃないか」
「う。確かに言われた」

スカートの短さはともかくとして、眼鏡に帽子にベストにネクタイと、メイン礼装の中では一番かしこまったスタイルなせいか、それを着ていると頭が良さそうに見えるよ、と何人かに言われた。
よくよく考えたら褒め言葉では無い気がするが、イメージが変わると言われたのはその通りだ。この場合服装のおかげもあると思うけど、これを言うとやっぱりマーリンも着替えてしまいそうなので黙っておく。
うん、確かに今日の私はちょっと賢いかもだ。危機意識が高い。

「眼鏡姿も可愛いよ」
「顔隠れるのに?」
「そこが良いんじゃないか。きっちりした格好なのにスカートが短すぎるところも含めて、乱れた姿を見てみたくなる」
「それ、どんな格好だって一緒でしょ……、……」

眼鏡の奥でマーリンが目を細め、顔を近づける。
憎まれ口を返しながらも、そうやって「キスしたい」と態度に出されると、身体は勝手に応えるように動いてしまう。
ゆっくりと目を閉じて、唇が触れる。

かつん

「っ、と」
「!」
「はは、これは要練習だな。眼鏡でキスしたのは初めてだから、失敗してしまった」
「……――」

目を開くと苦笑したマーリンが眼鏡のブリッジに指をかけて、ずれた眼鏡を直す姿が目に入る。
自分も眼鏡を直しながら、初めてと言われた嬉しさににやけてしまう口元を内心叱りつけ、ぽそりと小さく呟いた。

「……へたくそ」
「上手くなるまで付き合ってくれるかい?」
「上手くなるまでなの?」
「ふふ、キミが望むなら何度でも」
「ん……」

そう言って再び目を閉じる。
別に、下手なままだって良いのに。
私以外に眼鏡でキスする機会なんて、この先訪れてほしくないもの。

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