キミに焦がれて恋に恋した

ふらり、姿を現せば、キミはすぐに僕を見つけ、慌てて駆け寄ってくる。

「っ、マーリン!」
「やぁ、マイロード」

呼ばれて初めて気づいたふりをして振り返る。ぐいと僕のローブを掴んだなまえが、不機嫌そうにぎろりと睨み付ける顔を見下ろしたら、ほっこりと胸が温まる心地がした。

「もう!どうしてすぐいなくなるの」
「ちゃんと召集には応じているだろう?」

などと答えてみるも、そういう意味では無いことは勿論分かっている。私が度々なまえの前から姿を消し、こうして気まぐれに現れては心をかき乱していくことを、彼女は非難しているのだ。

「……言わなくても分かってることそうやって聞くとこ本当に嫌い」

むすっとした顔でそう言われ、どきりと心臓が震えた。なまえが私を嫌うなんて無いとは思うが、あまり袖にして飽きられても困る。

「おっと。本当に嫌われるのは困るなあ。ごめんよ、寂しい思いをさせたね」

屈んでその頬に口づけると、途端に顔が真っ赤に染まり、その表情から怒りの色が消し飛んだ。慌てて頬を押さえながらなまえが周囲を見回す。誰にも見られてないことを確認すると、なまえは大きなため息を吐いた。

「……私をからかおうとするところも嫌い」
「嫌だなぁ、からかったんじゃないよ。膨れ面が可愛いものだからついね」
「そういうの良いから」

そう言いつつ、なまえの機嫌は先ほどよりよほど良い。まだ口先を尖らせてはいるけれど、その顔は彼女が拗ねたふりをするときによく僕の前で見せる表情だ。
少し触れただけでご機嫌になるのだから、可愛いったら無い。

「ふふ」
「何で笑うの?」
「困ったなぁと思って」
「え、何が……?」

ジト目で睨みながら問われた言葉に困ったと返すと、なまえは困惑して首を傾げた。ああ、本当に困る。キミの言動があまりに愛らしいものだから、また胸が熱くなって。
ジリジリと胸を焦がす感覚に、僕は小さく息を吐いた。ダメダメ。こんなことで燃えていては勿体ない。

なまえ。キミが好きだよ。
恋をしたのは二度目だけれど、恋い焦がれたのはキミが初めてだ。
胸が、身体全体が、心が。熱くて熱くて、燃えているのを感じる。
こんなに燃え盛ってしまっては――すぐに、無くなってしまうかもしれない。

だから困る。あまり僕を焚き付けないでほしい。

「キミはどうしてそんなに可愛いんだい?困ってしまうよ」
「そうやって機嫌取れば私が許すと思ってるでしょ?……可愛いと思うんだったらもう少し傍にいてよ」
「そうしたいのは山々だけど、私にも事情があってね」

僕がそう言うと、なまえはしょんぼりと眉を下げる。未だローブを握ったままの手に力を込め、行かないでくれと暗に告げられる。僕の言う「事情」が、きっと大事なものだから口を出すわけにはいかないと思っているのだろう。
だけどごめんね。実はかなり個人的な事情で、僕はキミの傍にあまり長くいられないんだ。

「そんな顔しないで。今夜は一緒にいるから」
「……朝まではいて」
「うん。今日は朝まで一緒にいよう」

そう言うと、なまえの顔が少しだけ明るんだ。思わずその頭を撫でると、心地よさそうに目を瞑られる。
胸の火が強く灯る感覚がある。ぎく、と身体が小さく震えた。

なまえの傍にいると、心が強く燃えてしまう。

誰かから拝借した感情も、僕自身の夢も、なまえへの恋心として盛んに消費されていく。
それでは困る。燃料は永遠では無い。恋は、いつか冷めてしまうものだ。きっとそれは僕も変わりない。

だけど僕は、自分の恋の期限を知らない。

熱く燃え上がるほど、この恋を失うときが近づくような気がして、恐ろしい。
僕は彼女への恋心を、まだ今は、失いたくはない。これを失うのは、なまえ自身が失われてからで良い。

だから燻る感情のまま彼女に近づいては、燃え上がる前に去るのを繰り返している。なまえに触れずにはいられないけれど、触れれば触れるほど好きで好きでたまらなくなって、ああ、減っていくと、そう感じてしまう。

恋をするのは楽しい。
出来るだけ長くこの時間を楽しんでいたい。

だから、後ろ髪引かれるくらいでちょうどいいんだ。

「また会いに来るから、いい子で待っていてくれるかい」
「……うん。ずっと待ってる」
「嬉しいよ」

頭を撫でていた手を滑らせ、顎を持ち上げると口付ける。こんな小さな感触一つに、言い知れない欲が湧く。

僕に強く出られないでいるキミの優しさを利用して、言葉にされないうちに傍を離れる。

……もしなまえが僕に、「行かないで」と声に出して告げたなら――。
この恋が燃え尽きるそのときまで、離れられなくなってしまうような、そんな気がして――そう考えたら何かとてもこそばゆい気持ちになって、なまえに口付けたままの口先から、小さく息を漏らした。

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