sugar & spice
マーリンの有能さについては、今更私が語るまでもなくこのカルデアの誰もが理解しているところだと思う。それは私がどこに行くにも連れ回している事からも明白であり、それなりに毎度結果も出しているのだから、これに異を唱える者はよほどのひねくれ者か、攻撃に全振りのサポート要らない派くらいだろう。
……私がマーリンを連れ回している件については、些か私情が混じっていることも否定はしない。が、有能なのは間違いない。
さてそんな有能なマーリン、流石に連れ回しすぎて「似たような戦闘を何度も繰り返されると、流石の私も辟易してしまうね。退屈は夢魔に毒だ」などと言われてしまい、私も私で、流石にマーリンに何でもかんでも頼りすぎて、戦闘がワンパターンに陥っている自覚もあり。
ならば今回はマーリンを休ませてあげよう、とパーティ編成を変えて、いつもとは少し違う面子で戦闘へと赴いたのであった。
閑話休題。
「……あの、マーリン?」
「何だいなまえ」
「なに、どうしたの?」
「うん」
うん、と答えたままそれに続く言葉は言わずに、マーリンは私に巻き付けた腕を再度深く巻き付け直すと、足まで巻き付けて身体全体で抱きついてきた。なん、何これ。
「マーリン?疲れてるの?」
「まさか。キミがくれた休みのおかげで体力は十分有り余っているよ。動かないのもそれはそれで疲れるが、塔の中よりはよほど快適だったとも」
「あ、そう……。……なに?寂しかったの?」
「ん」
………………ん?
今「ん」って言った?
「……寂しかったの?」
「ん」
同じ質問をまったく同じ言葉で返した私に、マーリンもまた同じ言葉を返してきた。
「ん」って…………「うん」って事だよね?
……私の思ってる意味での寂しさ、で、あっているのだろうか。いやきっと違う。でも確かにこの言動は、置いて行かれたことに拗ねて甘える子供そのもので。
こうして全身をぎゅうぎゅう抱き締められて「寂しかった」なんて言われて、……その意味がどうとか、今はそんなことはどうでもいいことだ。
マーリンがかわいい。
きゅんと胸が高鳴って、たまらなくなりマーリンの頬に自分の頬を擦り付ける。マーリンもまたすりすりと私の頬にすり寄って、更に身体をぎゅうぎゅうと締め付けてきた。ちょっと苦しいけど、問題はない。
「今回はお休みだよって言ったら、あんなに喜んでたのに」
胸の内がくすぐったくて、ついくすくすと笑いながらそう言ったら、マーリンが今度は頭をぐりぐりと押しつけてきて「いたたた」と思わず声に出してしまった。
「代わり映えのない戦闘に飽きていたのは確かだし、面倒がなくて良いと確かに思っていた。だから喜んでみせたのは嘘じゃないよ。でも……」
「でも?」
普段は、あまりマーリンの言葉に期待しないように気をつけているつもりなのだけど。でも、この流れで期待するなという方が難しい。だから私は、期待を込めて笑って尋ねた。
「……代わり映えの無い戦闘を、キミが続けているのを見続ける方がしんどかった。最初の試行錯誤は私もサイリウム両手に楽しく見ていたんだけどね」
「はぁ?」
「本当に退屈だった。せめて毎回パーティを変えてほしかった」
「無茶言わないでよ……」
……何だそれ。見ていた
「ねぇマイロード、退屈は夢魔を殺すよ」
すりすりと私の頬に自らの頬を擦り付けながら、マーリンが言った。
「毒って言ってなかった?」
「毒なのだから、過ぎれば勿論死ぬとも」
「変なプレッシャーかけないでよ、そんな面白いイベントそうそう起こせないよ」
「ああ、いや、良いんだよ。キミはキミのままで。そうじゃなくてね」
くいと私の顎を掴むと自身へと上向けさせ、その端正な顔立ちを存分にマーリンが見せつける。うっ、と美しさに怯んだ拍子にマーリンは薄く目を伏せると、耳元に唇を寄せて夢のように甘い声で囁いた。
「キミといるから退屈でも良かったのだと気づいて、隣が恋しくなったのさ」
――その声が、あまりに美しく流麗で、声というよりは、音のようで。
現実感を喪失するほどの声音に、私はマーリンが何と言ったのか、理解することが出来なかった。
「……っ、え、な、なに?なんて……」
「今度は私を必ず連れて行って、マイロード」
私の言葉を遮って、マーリンがちゅ、とこめかみに唇を落とす。
それに頷きながら、何て言ったのともう一度問うてみるも、マーリンはにこやかに笑ってはぐらかした。私の頬が膨らむ。
「何で教えてくれないの」
「何、他愛ない戯れ言さ。大したことは言っていない。日本語で話したのだから、よく思い出せば分かる言葉だよ」
「思い出せって言われても……」
思い出そうとしても、美しい声音が脳裏を蘇るばかりで、その意味はまったくはかれない。知らない歌の歌詞を聞き取ることが出来ないようなモヤモヤが晴れず、私の眉間のしわは深まっていく。
「なまえってば、そんな難しい顔をするより先に、私を労ってくれても良いじゃないか。死にかけていたんだよ私は」
「いや、リアルに戦闘戦闘で死にそうだったのはこっちだったんだけども……」
ぷんぷんと擬音がつきそうなわざとらしい怒り方に呆れつつ、そんな様を可愛らしいと思ってしまうのは避けられず、わしゃわしゃとマーリンの頭を撫でてやる。
ふふ、と微笑んだマーリンの顔は、本当に嬉しそうなように思われて、どきりと胸が高鳴った。
そういう顔をされると、寂しいと言ったのも本音なのかなぁとか、やっぱり期待してしまうからダメなんだ、もう。
「なに、甘えん坊」
「たまには良いだろう?」
「疲れてるのは私のほうなのになぁ」
「んー?甘えたい?」
「……ううん。今日はマーリンを甘やかしてあげる」
手でマーリンの髪を梳かすように頭を撫でてやると、マーリンが再びぐりぐりと頭を私のこめかみあたりに擦り付けてくる。ちょっと痛いしくすぐったい、けど、ああ、やっぱりかわいい。
きゅんきゅん内心で悶える私に気づいたのか、普段より幾分高い声のまま、マーリンは少し顔を上げると楽しそうに言った。
「意外とこういうのも好きなんだね」
「……そうみたい。知らなかった」
「……ふふ、つまり私がキミに甘えた初めての男というわけだ」
「いや、他にも色々初めて持ってかれてますけどね?」
私のツッコミには答えず、マーリンが私をぐいぐいと引っ張る。
されるがままになり、マーリンに身体を引き倒され、マーリンの隣に寝ころぶ形になったところで、マーリンが私の胸元に顔を埋めて、ぎゅうぎゅうと抱きついてきた。
「うん、見ているだけの方が退屈とは言え、やっぱり戦闘は得意じゃないからしんどいのには変わりないし。毎回付き合う報酬に、キミに枕になってもらおうかな」
「……べつに、それは良いけど……何で制服脱がせてるの?」
「柔らかさが足りないから」
「もー……変な触り方しないでよ?」
「んー」
胸元でごそごそと私の制服を開きながら、マーリンは頷いているんだかどうなのか分からない曖昧な返事を返してきた。もう、と言いつつ、止める気も怒る気も勿論なくて、マーリンの好きなようにさせてやる。
私の顔より低い位置にマーリンの顔があるのはかなり珍しくて、それを思うときゅんきゅん胸が締め付けられるのを止められなかった。衝動のままマーリンの頭を撫でてやり、その頭に頬を擦り寄せ何度も口付ける。
そんな私の愛玩行動をよそに、マーリンは制服を左右に開くと、私の胸元にもう一度顔を埋めて、すうはあと深呼吸し始めた。
……ちょっと、恥ずかしい。
レイシフト後に大浴場で清めてきたので、汗くさいなんてことは無いはずだけど、さっきからドキドキして体温が上がっているので、万が一ということもある。……汗のにおいをマーリンに嫌がられたことなんて無いけども。
「に、におい、する?」
「キミからはいつも良いにおいがするよ」
「そ、そうなの……?」
「ん」
ねえさっきからその「ん」っていうの何なの?可愛すぎるんだけど!?
心なしか、というか確実に、普段より語彙も声音も蕩けていて、何とも甘ったるくて仕方ない。でもそれが本当に心地よくて、どうやら私は、確かにこういうのも好きらしい。
だって、いつも私の優位に立ってニヤニヤしてるマーリンが、私なんかに甘えているんだもの。
誰もが認める、有能なキャスターのマーリンが。
私を見守り育てる者なのだと、自らを称したマーリンが。
寂しいのだと嘯いて、私にくっついて離れない、なんて。
こんなの嬉しくないわけがない。
「や、ちょ……こらぁ」
「ふふ、ごめんね」
「んんっ、くすぐっ、たい」
着ていたインナーをずりあげると、マーリンは案の定私の胸に触れ、先端を指先でかすめた。
またも胸元に潜り込み、ちゅ、ちゅ、と肉の柔さを堪能するように口づけられる。
「ぁ、ね、マーリン」
「ん?」
「ふふ、かわいー」
「そう?」
「うん、ふふふ」
素直に可愛いと言った私に、マーリンが不思議そうに首を傾げる。もうそれが可愛い。この仕草も全部わざとなんだろうけども。
まったくマーリンの女を蕩かせる手管には驚かされる。甘やかして丸め込むだけじゃなくて、こんな引き出しもあったなんて。
「えい」
「ぁ、んっ、こらぁ」
「可愛い悪戯だよ」
「すぐ調子に乗るんだから」
「甘えてるだけさ」
「ん……っ」
言いながらマーリンが胸の先端に吸い付いて、舌先で転がして遊ぶ。
ああもう、ずるい。そうやって全部蕩かせていくんだから。変な気分になってしまうじゃないか。
でもこのままえっちなことになったら、多分私はすぐマーリンに負けてしまうから、何だかそれはちょっと惜しい。
「私も疲れてるって忘れないでね?」
「んー?……仕方ないなぁなまえは」
「なんで私が我儘みたいに言われてるんだ……」
「だって今は僕が甘える番なのに」
「そこで僕って言うのずるくない?」
ずるくない、とやはり甘えた声音で言われて、やっぱりずるいと呟いてその頭を抱え込む。
胸の谷間にぎゅうぎゅう頭を押し込むと、苦しいよーとマーリンが胸元でばたばた暴れた。
おかしくなって、くすくすと笑みを漏らすと、何を笑っているんだい、とマーリンが拗ねたように言った。わざとらしい。ホント、ずるいやつ。
いつもいつも、好きでたまらないって思うけれど、どうしてこう、また新しく好きになってしまうんだろうか。
これじゃ、いつまで経っても他の人を見る余裕なんて生まれっこない。
「ずるいなぁ……」
「キミはそればっかりだね」
「だって」
だって、私ばっかり惚れ直して、マーリンは一回も好きになってくれないとか、ずるい以外に無いでしょ。
こうして誰かを甘やかすのも、甘やかされるのも、キスも、エッチなことも、こんなに好きになったのも、私はマーリンが初めてなのに。
きっとそのすべてが、マーリンにとっては数多のうちの一つでしか無いのも、ずるい。
「ずるいと言うなら、キミだってずるいけどね」
「えー、何で」
少し不貞腐れながら言った私に、マーリンは珍しく口ごもるように声を落として言った。
「だって、誰かを待ったことなんて無かったんだよ、僕は」
さっきは何を言われたかまったくわからなかったのに、もごもごと曖昧な発音でつづられたその言葉はしっかりと耳に届いて。
「……っ」
からかう言葉の一つも言ってやりたかったのに何の台詞も出てこなくって、もう一度強くマーリンの頭を抱き締めて胸に閉じ込めると、溢れる感情をこめてマーリンをげしげしと蹴飛ばしてやった。