平行線
人の扱い方も、女の子の機嫌の取り方も、面倒を避ける誤魔化し方も、全部熟知している筈なのに、なまえ相手だと何一つまともに出来なくなってしまう。
上手くいなす事だって出来る筈なのに、うっかりして壊してしまわないかなどと、妙な気分がふと過ったりもする。そんな力加減も、得意な筈なのに。
現に交わりの最中、何度かなまえを壊しかけている。
そんな光景は見たくない筈なのに、そうなればもうなまえを遠ざける意味も無くなる、なんて本末転倒だ。破綻している。私が望む光景ではない。
それなのに何故だろう。
僕の手の届くところにキミがいる。
ただそれだけの事が、時折何よりも欲しくなるのだ。
「マーリンは私とは違うね」となまえが言う。
「私は傍にいる事を何より優先したい。触れられなきゃ意味が無いし、マーリンを独占していたい。だけどマーリンはそうじゃないんだね」
似てないね、と呟いたなまえに、私は何も言えず押し黙る。
誰かを手に入れたいと思った事が無いから、なまえの気持ちは分からなかった。
キミがとても大事だから、キミの幸せを願う。
恋の相手が私である必要は無いし、寧ろそれは避けたい。だってそんなのはキミにとって不幸でしかないから。
なのに結局私はキミを受け入れて手放しがたく思う、なんて。
まるで私の中にキミが溶けて混ざってしまったかのよう。離したくても離せない。
キミの恋心が私の身体まで熱くする。
キミを不幸にする熱だ。
誰かがキミに触れると気分が悪くなる事が増えた。
人の中で笑っているキミが好きで、そんな姿をずっと見ていたかった筈なのに、こんな感覚を覚えるのはおかしい。
傍にいると、なまえと生を共にする事は出来ないと強く思うのに、いつまでも触れていたいと支離滅裂な欲が湧く。触れられるから何だというのか。そんな欲を私は知らない。
キミが、一番輝ける未来。何よりも最優先されるのはそんな世界へキミを導く事だ。
今は恋に溺れても、キミは必ず自分の足で立ち、いずれは巣立つ。
望むことがあるとすれば一つだけ、私を覚えていてほしい。
女々しくも過去の女を追い求める愚かな男のような願いだが、それ以上は何もいらないから。
愛とはどんなものなのか、未だによく分からない。
私はキミに恋をしたと思う。
でもそれですら曖昧で、結局人間のような恋など出来ないのだという自覚だけが深まる。
欲しいのはキミではなく、キミが笑っている未来だ。
世界にキミが存在する。
それだけでもう私は満たされている。
だから幸せにおなり、なまえ。
──触れた肌の感触を思い出す。
胸が締め付けられるような心地がして、今すぐなまえに会いたくなった。
何がそんなに気に入っているのか私にも分からない。
なまえと交わるのは気持ちいいけどそれだけの事だ。
強いて言えば、私に触れられて幸せそうに目を細めるなまえは見応えがあって、夢見た未来に近い気がした。