色乞

もう言い訳は出来ないな。
そう思いながらも従順に私の下で震えているなまえに口づける。

「……はっ、……んぅ……っ」

相変わらずキスが下手くそななまえは、呼吸を求めてあぐあぐと口を開く。隙間から漏れる喘ぎはわざとやっているのかと聞きたくなるほど甘い響きを持っていて、口内を貪りながら私は胸中で苦笑した。

口づけたまま制服のベルトを外す。
胸元ギリギリまで制服を開いて、徐々に顔の下へと口づけていく。
首もとに顔を埋めると、その華奢な首筋にそっと吸いついた。

「…っ…、今、キスマーク付けた…?」
「うん」

問いかけられて素直に頷けば、なまえが顔を赤くしながら眉尻を下げる。二人きりだとよく見る顔だ。
困ったような顔をして、実は嬉しいときの顔。
こういう顔が本当にずるいというか、天性の魔性というか。
いやもしかしたらわざとかもしれない。この私を煽ろうとはまったく大した器だ。
わざとにしろ天然にしろ、私としては恩恵に与れて良い思いをしているので構わないのだが、こんな関係になるつもりは無かったので複雑なところだ。
……いや、途中アリだなと思ったりもしたんだけど、今となってはというか……。

脳内で言い訳していると、なまえが目を伏せて先ほど口づけたあたりを指先でなぞりながら、もごもごと口を開く。

「…見えるとこはダメだよ?この前首のとこギリギリでヒヤヒヤしたんだから…」

ジト目で睨みつけられて、抱いた感想は「可愛い」だ。
そんな顔されたらもっと意地悪したくなっちゃうんだけど、先ほどの言い訳を思い出し、あまり深追いしてはいけないと自己を戒めて、今回は素直に謝る事にする。

「ごめんね、つい考え無しに沢山付けちゃって。気を付けるよ」
「…た、沢山付けるのは、全然良いけど…」

ンンンン可愛い。何だいその顔は全くもう!
そこで素直になられちゃったら私も遠慮しづらいじゃないか。いやあんまりしてないけども。

「可愛いなぁもう……」
「……ニヤニヤしやがって」
「キミのせいだよ」

ぎゅっと抱きしめると下からなまえも抱きしめ返してきた。
と思ったら、ぐいぐいと私を引っ張ってひっくり返される。

「うん?何だい、上で頑張ってくれるのかい」
「何をだ!?違うよ!」

何をって言われると、うーん、確かに何だろう。だって私たち一応魔力供給してるって事になってるんだもんね。
一応、まだ一線は越えてないし。ほんと、まだ、一応。いやいや、これからもするつもりは無いんだけど。

しかし、下からの眺めも良いものだ。
胸とかほら、重力に従って私の身体にむにっとした感触を与えてくれるし。真正ド受けのなまえが上っていうのも新鮮だ。

なまえは少し恥ずかしそうにしながらも楽しそうに頬を緩めて、私の顔を覗き込んでくる。

「ね、……私もマーリンに付けていい?」

はにかみながら言われた台詞にくすりと笑う。
「ちょっと待って」と言うと身体をなまえごと起こす。
膝になまえを乗せたまま、着ていたローブとインナーを脱ぐとベッド脇に放った。

「どうぞ、ほら」

上半身裸の状態で、改めて膝の上のなまえに言う。
もぞもぞと所在なさげにしながらも、意を決したように向かい合うとそっとなまえが顔を近づけてきた。

「し、失礼します…」

妙に他人行儀な挨拶をすると、ちゅうと私の鎖骨のあたりに吸いつく。くすぐったくてつい肩をすくめてしまった。
暫く吸いついて、そっと唇を離される。
なまえが痕を確認するように首筋を見つめ、むぅと眉根を寄せると首を傾げた。

「ん~?……つかない……」
「もっと強く吸わないと無理だよ」

むむっと唇を尖らせると、なまえがもう一度私の首筋に吸いつく。今度はもっと強めにちゅうちゅうと。
思わずぞくりと背筋が震えた。

「……付いた!……なんか歪だけど……」
「あはは、キミキス下手だもんね」
「ぐっ」

今度はきちんと痕がついたらしく、顔を離すと嬉しそうになまえが言った。
しかし思ったようにはならなかったらしい。まぁそうだろうね。痕が付いただけマシって感じの吸い付き方だったし。
笑って下手だと指摘すると、なまえが悔しそうに喉を鳴らした。

「そんなたどたどしいところが可愛いよ」

言いながら額にキスを一つ。
再びなまえが不服そうに「ぐぅ」と唸った。照れ隠しだ。

「マーリンが上手すぎるだけだよ!素人だぞ私は!」
「そうだね、沢山キスして上手くなろう」
「…う、うん」

……あ~ここで素直になるのが本当に可愛い、何だろうねこの子は本当に、これだから構うのをやめられないんだよなぁ。
なまえもやっぱり女の子だったんだなぁとこういうときしみじみ思う。
女の子は大好きだ。なまえの女の子の部分も、……好きだ。

「……じゃ、次は私の番だね」

おもむろにそう言うとなまえを捕まえて反転する。

「ぅ、あっ…んっ…!」

片手で制服を開きながら、胸元にどんどん痕を付けていく。

……正直今までは付けたら女の子が喜ぶから付けてただけなんだけど、……なまえの肌によく映えるなぁ……。
……何でこんなに付けちゃうんだろう。

なまえを前にすると思考に靄がかかる。

「ぁ…マーリン…」

なまえが甘い声をあげる。されるがままのなまえに気をよくして、だんだんと唇を胸の下まで下ろしていく。
「ひゃ、」となまえが声を漏らして脚をすり合わせた。

「…嬉しそうだね、なまえ」

顔を上げて囁くと、なまえが恥ずかしそうに肩をすくめる。
小さく口を開くと束の間逡巡したようだったが、そっと口から吐息を零すと、こくりと頷いて答えてくれた。

「…ぅ、うん…嬉しい。…これ…消えなきゃいいのにな…お互いに…」

健気な事を言う。こんなものいつだって付けてあげるのに。
何一つキミに与える事の出来ないボクだけど、このくらいならお安い御用だ。

「消える前にまた付ければいいさ」

だから当然のようにそう言って、なまえに笑いかけてみせた。

なまえは控えめに頷くと、切なげに笑って言った。

「…うん…そう、だね…ずっと…そう出来ればいいな」
「……」

なまえの言葉に何も言えず、黙って唇を押し付ける。

「んぅっ」

くぐもったなまえの声が吐息となって唇をかすめた。
なまえはやっぱり従順に、私の下でされるがままになっている。

……なまえは馬鹿ではあるけど愚かではない。ちゃんとこの関係に終わりがあることを理解している。
口先だけの睦言は傷つけるだけだと分かっているのに、こんなやり方しか出来ない。

いや……終わりがあるというのは語弊がある。
そもそもこんな関係は、始まってすらいない。こんなのは、一瞬の夢みたいなものだ。……そうあってほしい。
だけど今は……その夢から覚める瞬間が、もう少し先であればいいと思う。
手遅れになる前に手放せられれば、それでいい。

「……っは、……ん……っ」

制服を完全に開いて、なまえの胸に手を這わせる。なまえから熱い吐息が漏れた。
すっかりとその気になってしまったらしいなまえに、私は困った顔になる。

……全くボクは最低だ。本当に。

「可愛い」が「欲しい」に変わる。
身体の奥底から発生するのは、愛しいという感情などではなく、単なる欲だ。
キミを、食べてしまいたい。

「……なまえ」

名を呼ぶと、なまえが愛しげに微笑む。まるで恋人のような顔をして。

……始まってもいない、始めてはいけない。
なのに、あぁ、なまえの全てがボクを煽ってくる。なまえが欲しい。全身がキミを求めてる。貪り尽くしてしまいたい。

──でもダメだ。キミを消費するなんて出来ないよ。

「……マーリン……」

なまえが色のこもった瞳でボクを見上げてくる。
そんな目で見つめないでほしい。付け込んでしまいそうになる。

……いや。

……もしかして、これが、この気持ちが恋だったりするのかな。
──なんて、そんなわけ、ないか。

脳裏を過った考えを瞬時に否定し、なまえの脚を掴み上げると乱暴に股の間に顔をうずめた。

早く終わらせて、いつものキミに戻ってもらわなければ。

「ひゃあ」となまえが甲高い声をあげる。
もうキミの身体の殆どを知ってしまった。一番大事な部分以外は。

……別に本当は、初めてとかどうでもいいと私も思う。
だけどそれを貰ってしまっても何も感じないからこそ、そこには触れないでいた。

私が嫌なのは、キミが私のせいで傷つく事だ。
……それはもう、どうしたって避けられないんだけど。
今のこの行為だって、きっと将来キミにとってのきずになってしまう。

──分かっているのに、キミを食せずにいられない。

「……っ、ま、……りん…………」

荒い呼吸でキミがボクの名を呼ぶ。だけどその声に応える余裕などない。
名を呼ばれても、愛を囁かれても、ボクには何も響かない。

ただボクの本能が、キミという性を貪ろうとしているに過ぎない。

最後の理性を頭の隅に繋ぎ止めながら、ふと頭をかすめた願いがあった。

……キミに恋が出来たらよかったのに。
キミと、恋がしたかったよ、なまえ。

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