花が散る世界

「っぐ、ぁ……」

廃ビルの柱の陰に身を隠し、ずりずりと背を預けながら座り込む。
ぼたぼたと腹から血が漏れて、そう長くは保たないだろうことが察せられた。

……長いようで、短い人生だったなぁ。
でも、とても充実した人生ではあった。

だけど……

悔いが無いかと言われたら、たくさんあった。

別に、こうなった事を恨んではいない。
カルデアで過ごした時間は、私にとって掛け替えのない時間だった。
その代償に人としての幸福を手放さざるを得なくなったとしても、私は、それを後悔することだけは出来ない。

でも、

「……マー……リン」

こんなときでも、頭に浮かぶのはそればっかりだ。
……私は本当は、ずっとマーリンの傍にいたかった。

我慢して、いいこのふりなんてするんじゃなかった。

「マーリン……まだ、私のこと、見てて、くれてる…………?」

ずっと私の一生を見届けるって、そう言ってくれたよね。
確かめるすべは無いけれど、私は信じてる。マーリンは、ちゃんと私を見ていてくれる。

「…………やくそく、まもれなくて、ごめん……」

どろどろと血が際限なく身体から流れ出ていく。手足の先が冷たい。
もう一歩も動けそうになかった。ここで、私の命は終わる。

きっと幸せになるって、そうマーリンと約束した。
別れた後も、ちゃんと生きてくって。

だけど、それはかなわなかった。

「ど……せ、むり、なら、アヴァロンに…………行きたかったな………………」

これでも足掻いたのだ。
この世界で生きていく事が許されないなら、マーリンのところに行こうって。

だけど、そんな簡単にたどり着けるわけもなく。
結局、何の苦労も報われないまま、私はこんなところで一人で終わってしまう。

「…………ぅ、……」

悲しかった。怖かった。死にたくない。
マーリンに会いたい。最期に、一度くらいは。

けれど、それは無理な話だ。アヴァロンは、永久に閉ざされたまま。

「ね……マーリン…………す、き、だよ……」

それでも、マーリンに私の最期を見届けてもらえるなら。
今伝えられる全てを、マーリンに伝えたかった。

「これで……わかっ、た、でしょ…………わたし、マーリン、がいないと…………しあわせに、なんて…………なれない…………んだよ………………」

ちょっとだけ、マーリンへの恨み言を漏らす。
そら見たことか、私を手放してしまったこと、存分に後悔すればいいんだ。

「……も、し。つぎ、のこが、いたら…………」

薄れる意識の中、考えたくもなかった事を、自然と口にする。
私の後に、また気に入った子がいたとしたら。

「こんどは…………マーリンが……しあわせに、して…………あげ…………………て」

私はここで終わる。いや、もう終わっているようなものだ。
ずっと、永遠に覚えていてほしいけど、でも、もし。私の後に誰かがいたなら。

次こそは、マーリンの手で幸せにしてあげてね。

「…………はは」

結局、いい子ぶってそんな事言って。本当に、私は強がりだ。
本当はとてもとても弱い、ちっぽけなただの女なのに。

勿論、本当はずっと、私だけを愛していてほしいけど。
けれど私は、間違えてしまったから。

どうせ私はここで終わる。けれど、マーリンの生は続いていく。
それなら、もしかしたら。
次の機会も、あるかもしれない。

もし、そうなら。次の子には、私のような後悔を抱いてほしくはない。

せめて、愛してるって。
そのくらいは、言ってあげてほしい。

私は、出来なかった。それが悔しい。だからこそ次の子には、失敗しないでほしかった。

意識が遠ざかる。強烈な睡魔に襲われたかのように、死の淵に落ちていく。

「わたし…………」

必死で最期の言葉を吐き出す。
もう、最後だから、せめて、これだけは、言っておかなくちゃ。

「マーリンを好きになって…………よかった………………」

幸せだったよ。
本当に、私、幸せだったよ。マーリン。

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