したさきさんすん
「…、ま、りん」
「ん…分かってる、大丈夫…」
ふらふらと足下のおぼつかないなまえをベッドに座らせるとゆっくりとその唇に口付ける。
甘く柔らかなその小さな唇が遠慮がちに開いたのを確認すると、そっと舌を差し込みその口内へと自身の体液を送り込んだ。
「は…ぁ」
こうなったなまえは半ば飢餓状態で意識がはっきりしていない。だからこそ、恋人でも何でもない男にこうして口内を蹂躙されても平気なのだろうが。
…それどころか無意識に舌を自ら絡ませてくるんだから、時々これが何のための行為か忘れそうになってしまう。
悪い、癖だな。
サーヴァントの退去が決まり、カルデアの魔力炉心が止まって一ヶ月は経つだろうか。
本来ならばサーヴァント達は即刻退去せねばならなかった。しかし、なまえはそれを拒んだ。
魔力炉心が止まった以上、カルデアに存在する100騎を超えるサーヴァントの魔力は、全てなまえが一人で補わなければならない。
端的に言って、それは不可能だ。なのになまえはそれを選んだ。その行為によって強いられる犠牲よりも、最後まですべてのサーヴァントと共に過ごす事を選んだのだ。
「マーリンお願い、それが出来る方法があるなら教えて」
真剣な顔で強請られて、渋々私は首を縦に振った。ふとその記憶が脳裏によぎる。
「んむっ、ふっ…ぁ…はぁ…っ」
朦朧とした意識の中で、なまえが必死に私の体液を求めて舌を絡める。正確にはその中に含まれる魔力を。
100騎を超えるサーヴァントの魔力供給を確立するために私が提案した方法が、これだった。
肉体接触による魔力供給──程度では追いつかない。
なまえの体内へ直接体液を送り込むことによる、より濃度の高い魔力供給。
方法は色々ある。もっと効率のいいやり方も。
けれども思春期の少女に最大限配慮して、ぎりぎり許されるのはここが限界だろう。
なまえの息が顔にかかる。呼吸と魔力を求めてなまえが喘ぐ。
僕の服の裾をぎゅっと掴み、貪るように唇を求めるなまえの姿に、脳髄がぐらぐらと揺れるのを感じた。
身体の奥底から熱がのぼってくる。
「ふ…、…ぅ…」
「…っ、なまえ、こら…」
あぐあぐと唇を甘噛みされて、なまえの頬を優しく包んでそっと唇を離せば、目をとろりと蕩けさせたなまえが焦点の合わない瞳で見上げてくる。
まだまだ魔力が足りていないようだ。
ぐいぐいと裾を引っ張られて、包み込んだ手をそのままに頬を引き寄せその小さな唇に噛みついた。
「んぐっ、ふぁ」
驚いたように息を漏らし、一瞬身じろいだものの、すぐに本能に従って再び唇を貪りだす。
ただただ空腹を満たすかのような拙いそれを誘導するように、舌先で口内を執拗に責め立てた。
「は…、そんなにがっついて…」
「ぅ…っは、ぁ…」
咎めるように囁くが、なまえは意に介さず離れてしまった唇を求めて自らの唇からだらしなく舌を出して息を吐く。
なまえの眼には何も映っていない。まぁ、極端な魔力不足はイコール生気が無いという事だから、これは死にかけているのと同じなのだ。
定期的にこうして魔力を送り込んでも、度々何かと騒動の起こるカルデアでは、いつ魔力切れが起きるとも限らない。
下手をすれば本当に死んでしまうというのに、それでもなまえはこうして無理矢理に皆を繋ぎ止めることを選んだ。
別れを寂しがるのは、普通の感性であると言える。
しかし自らの死をも厭わないのは、この戦いが彼女を変えてしまったからだろう。
死をも厭わないというのは語弊があるか。死んでもいいというわけではないと思う。
なまえは生きたいと願ったからここにたどり着いたのだから。
だから今もこうして、生を求めて必死に僕に縋ってくるのだ。
「まだ、足りないみたいだね…。いくらでもキミに魔力をあげるよ…だから、早くいつもの姿を見せておくれ」
「…ぅ…」
「ん…」
飢餓状態から回復させるためにはそれ相応の魔力量が必要になる。
肉体接触よりは効率がいいとは言え、まだまだなまえが回復するには、そしてこの先暫く保たせるには、この程度では全く足りない。
不意に身じろいだなまえが、僕の首へと腕を回したかと思うと、薄く開いた唇から一言、そっと囁くように言葉を漏らした。
「…ま、…」
一語だけ、放たれたその言葉は、僕の名前を呼ぶものか。
意識はまだ回復していないだろうに、ただただ魔力を求めて貪るばかりでなく、キミは、僕そのものを求めていると言うのだろうか?
「…っ」
ぐいと腰を引き寄せると身体を密着させ、勢い込んでその唇を貪った。
「ふっ…ぁ…!ん…」
「…っ」
なまえが身をよじり身体を押し付けてくる。
より魔力を求めて接触面積を増やしたかったのか、それとも。
頭の奥が熱くなる感覚に身体が震えた。柔らかななまえの身体を乱暴に押し倒して馬乗りになる。
「ぁ…!…っ、ふ…、…っ!…ぅっ」
「は、…っ、なまえ…」
身体を撫でさすりながら手を這わせ、胸をそっと包み込めば、なまえがぴくりと身体を震わせた。
「んっ…!」
「…ねぇ?直接触った方が、効率が良いって知ってるかい…?」
「…え…?」
まだ焦点の定まらない瞳でぼんやりと僕を見上げるなまえに薄く微笑むと、その顔にキスの雨を降らせた。
胸部のベルトを外し上着を開くとそっと服の中に手を入れる。
「……なまえ」
「ぅんっ……!ぁ……!」
「……身体、熱いね……」
「は……ま、り……ん」
つつ、と指先を滑らせればすぐになだらかな感触へとたどり着く。
下着をずらして柔く揉みしだけば、なまえは素直に反応を返してきた。
「……ぁ……っ」
「……はぁ、……かわいい」
「まーり、ぁっ……」
なまえは段々と意識がはっきりとしてきたようで、その顔に徐々に戸惑いの色が浮かんでくる。
火照り切った身体はそんななまえの戸惑いをよそに、少しの刺激にもびくびくと身体を震わせる。
まるで寝ている間に悪戯をしてしまったような気分だ。
これはお互い仕方なく行っている行為であり、そこには一切の感情など介在する余地もないのに。
「いけない子だね……なまえ。これは魔力供給なんだよ?そんな物欲しそうな顔をして……」
「……っ!」
辱めるように耳元で囁けば、面白いようになまえの顔に赤みが差す。じんわりと目が潤んで羞恥に唇を震わせる。
我知らず目を細めてなまえのそんな顔に見入っていたら、そっと所在なさげになまえが顔をそらした。
「……やめ、て」
小さくか細い声だった。もっと怒るかと思ったのに、その表情には怒りも悲しみも浮かんではいない。
顔に浮かぶのは羞恥と戸惑い。
そして夢魔である僕にのみ感じられる、なまえから放射される感情は、じんわりとした熱を持って僕の胸を熱く焦がした。
未だなまえの胸の曲線を堪能していた手を抜き取ると、優しく頭を撫でてやる。
一瞬びくりと震え恐る恐る僕を見上げるなまえに、優しく微笑みを返すと、なまえは気が抜けたようにため息を吐いた。
「……魔力、足りた?」
「……」
いつもの調子で声をかければ、なまえは押し黙って再び顔を背ける。
今になってなまえの顔には怒りの色が浮かんでいた。
「?どうしたんだい?」
「……何でも……ない……」
拗ねたような声で言うなまえに、何でもなくないだろうと心の中で唱えつつ、僕は「そう」とだけ返してその頭を再び撫でる。
しっかりと意識は回復したようで、そうなればなまえはいつも通りの仮面を被る。
聞いたところで素直に言ったりはしないだろうし、言われたところで僕に
頭を撫でていた手を何とはなしになまえの髪に滑らせて、その毛先をつまんで弄ぶ。
するすると指先から抜けていくその感触を暫く楽しんで、僕はおもむろに口を開いた。
「……ねぇ」
「……な、に」
まだ少し口先に怒りを含ませるなまえの隣に無遠慮に寝転んで、無防備なその身体を引き寄せた。
なまえの身体がぎくりと固まる。抱きしめられる事なんて日常茶飯事のくせに、先刻までの行為がなまえの心を強張らせているようだ。
そっと腕の中のなまえの顔を覗き込めば、真っ赤な顔をして固まっていた。
そこにはやっぱり、怒りの色も悲しみの色も滲んではいない。
……茶化すのはやめておこう。
自然とそう思って、もう一度ぎゅっとなまえを抱きしめる。
一瞬身じろいだなまえが、ぎゅむと僕の服の裾を掴んだのが分かって、何だかくすぐったい気分になった。
「……もう少し、こうしていようか。まだ本調子では無いだろう?」
こうして抱き合っているだけでも、魔力の受け渡しは可能だ。
そんな言い訳を思い浮かべながら、それを口にはせずなまえの頭を抱き込むとそっと撫でる。
「……っ、……う、ん……」
静かに頷いたなまえが、裾を掴んでいた手を放して僕の身体に腕を回す。
ぎゅ、と抱きしめられたと感じた瞬間、ざわりと身体の芯が波打つ感覚がして、身体の震えを誤魔化すようになまえを強く抱き締めた。
何だろう、これは。
どういう気分なのだろうか。
大人しく流されるなまえが可愛い、そう思う。
だけどこの、強く胸の内を叩かれるような、くすぐったさの中に感じる針のような熱は、きっとそれだけでは無いと思う。
そわそわと落ち着かないのを誤魔化すように、なまえの頭に額をこすりつける。
くぐもった声を上げたなまえが抗議するように背中の服を引っ張った。
身体を少しだけ離して、なまえの頬に片手を添えるとそっとその顔を覗き込む。
不貞腐れたような顔をしたなまえが、その頬を真っ赤に染めて、小さな声で呟いた。
「マーリンの、ばか」
魔力供給など一切関係ないキスを、僕は自分の都合だけでなまえに押し付けた。