全部きみのせい

円卓の騎士の一人、湖の騎士ランスロットは悩んでいた。

ここ数日カルデアは平和そのもので、サーヴァント達は各々自由に過ごしている。
彼のマスターであるも、平時とあって穏やかな顔を見せ、気ままにカルデア内を巡ってはサーヴァント達と言葉を交わしていた。

悩みの種とは、まさにそのマスターのことで。
ランスロットもまた、先ほどと偶然出くわし、彼女と少々世間話を交わしたばかりであった。

いや、それはいい。
世間話自体はランスロットとて望むところである。
マスターが健やかであれば、これ以上望むことなどない。
朗らかな会話、平和な日常。それはいいのだ。

問題は内容である。いや、内容に問題があるという言い方も語弊があるか。

マスターの口から出る話題が、9割がたとある男についてである、という事が、ランスロットには気がかりだった。



花の魔術師マーリン──


「ああちょっと聞いてよランスロット、この間マーリンがね」

というような文句で始まる言葉を、ランスロットは飽きるほどに聞いた。

がマーリンを召喚してからというもの、マーリンはほぼ戦闘に出ずっぱりであり、従って一緒にいる機会も他のサーヴァント達より格段に多い。
マーリンの魔術師としての力量は言うに及ばず、たとえ性格が少しばかり……でも戦闘に随行させるのは至極当然。
しかしマーリンの気性も熟知している円卓の面々にしてみれば、マスターがマーリンの愚痴を頻繁に口に出すののもまた当然であると考える。

であれば、何を悩むことがあるのかと言えば。

ランスロットの、数々の女性の悩みを聞き届けてきた(と本人は自負している)経験が警鐘を鳴らしていたのだ。



マスターは、マーリンに懸想しているのではないか?と。



「……………………いや、まさかな。」

ふ、と口から笑みを漏らし、首を振ってランスロットはその考えを打ち消した。

いやまさか、あのマスターに限ってそんな。
マーリンの困った性格にはマスターも散々困らされている。それこそ愚痴を聞かされ慣れたぐらいには。

思い過ごしだろう、マスターはただ、円卓ならマーリンのことを知っているからと、話題を選んでくださっているだけに違いない。

ランスロットは導き出した結論にうんうんと頷くと、悩むのはそれきりにして再びカルデア内を歩きだした。


「ベディヴィエール~~~!!」
「はい、マスター。ベディヴィエール、ここに」
「いやそんな畏まらないでって。いつもの愚痴~」

に拉致され食堂に連れていかれたベディヴィエールは、困った笑みを浮かべる。
愚痴の内容に心当たりがあったのだ。

「またマーリンですか?」
「そうなの。ちょっと待ってね、今お茶とお菓子を持ってくるから」
「ああマスター、そんなことは私が…」
「いいの!!ベディは座ってて」

おろおろするベディヴィエールを残しては勝手知ったるキッチンから紅茶のティーバッグと、エミヤの作り置きお菓子を拝借する。
ベディは一瞬迷いながら、食堂に用意されている机の一席に座った。
まばらにサーヴァントやスタッフがいるものの、広い食堂の中は閑散としており、飯時の賑やかさが嘘のようだ。

「お、今日クッキーだ。やった」
「それは私がいただいていいものなのでしょうか…」
「エミヤがマシュと私にっていつもお菓子作ってくれてるんだ。でも今日マシュは管制室で会議しててさ~、食べられそうにないから先輩が食べてくださいって言われちゃって。でもちょうどベディがいたからさ。二人で食べようぜ~。マシュには後からお詫びも兼ねて何か作るよ」
「それは……そうなのですか……」

ベディヴィエールはマシュに申し訳ないと思いながら、マスターの手作りお菓子を食せる光栄を羨ましく思ってしまった自分を恥じ、咳ばらいをして誤魔化しながら口を開いた。

「んんっ。ええとそれでは、遠慮なくご相伴にあずからせていただきます」
「どうぞどうぞ。エミヤは料理も美味しいけどお菓子も美味しいんだよ~」

クッキーと紅茶を2人分机に置くと、はベディの向かいに腰かけた。



「それで、マスター。愚痴とは、またマーリンのことですか?」

ひとしきりクッキーの感想を述べた後で、ベディはおもむろに口を開いた。
は紅茶をごくりと飲み下すと勢い込んで言った。

「そう!そうなの!聞いてよもう!!この間マーリンてばついに人の夢にまで侵入してきて」
「ああ……またそのような無遠慮な真似を……同郷のものとして謝罪します……」

本気で申し訳なさそうなベディヴィエールに、は眉根を寄せん~~~と唸ると「ベディ何も悪くないけど~」とベディヴィエールの頭を撫でた。

「……マスター、私は小さな子供ではありませんよ」
「そうなんだけど、ベディはいい子だな~って……あ、これ別に舐めてるとか子ども扱いとかそういう意味じゃなくてね……」
「……ふふっ、光栄です、マスター。でもマスターの方が、いい子、ですよ」

言いながらベディはの頭を撫で返した。

「……これ照れるね」
「でしょう?でも、不思議と嬉しいものです」
「ああもう騎士はこれだから……」

赤くなって顔を背けるに思わずベディヴィエールはくすくすと笑みをこぼした。
そんなベディの様子を見て慌てて紅茶を飲み干すにまた笑みを深める。

愚痴と言いながら楽しそうに話すに、ベディヴィエールは微笑ましく思いながらもの話に耳を傾けた。

「あ、もうこんな時間か。そろそろお開きにしようか……」
「はい、ありがとうございましたマスター。とても楽しかったです」

ふとが食堂の時計に目を向けてそう言えば、ベディヴィエールは優雅に立ち上がり礼を述べた。

「私こそ。いつも愚痴ばかりでごめんね」
「滅相もない。マスターとのお話は本当に楽しい。また機会がありましたら、いつでもこのベディヴィエールを呼んでください」

丁寧に一礼し、ベディヴィエールは食堂を後にする。
マスターは食堂に残ってマシュのために何かを作るらしい。

(今度、私もマスターの手料理が食べてみたいなどと言ってはご迷惑だろうか?)

むず痒い気持ちを抱えたままあてがわれた自室へと戻るベディヴィエール。
その顔からは抑えきれない微笑みがこぼれていた。

ふと廊下の向かいから、ランスロットが歩いてくるのが見え、立ち止まるとベディヴィエールは一礼した。

「おや、サー・ランスロット。奇遇ですね。食堂へ向われるのですか?」
「サー・ベディヴィエール。まぁそんなところだ。サーヴァントの身でと思われるかもしれないが、何だか喉が渇いてね」
「こう毎日が平和では、そのような日常的な感覚になるのも分かります。私も先ほどマスターとお茶をいただいてきました」
「マスターと?」
「ええ。どうやらまたマーリンがやらかしたらしく──ランスロット?」

ベディヴィエールからマーリンのが飛び出した瞬間難しい顔になるランスロットに、ベディは怪訝そうに問いかけた。
暫く逡巡した後、ランスロットは口を開いた。

「……ベディヴィエール。君はマスターからその……いつもマーリンの話ばかり聞かされているのか?」
「……?そうですね、確かにマーリンの話題が多い……というか殆どそうですね、言われてみれば。まったくマスターに迷惑ばかりかけて……」
「……やはりそうなのか……」
「……ランスロット?」

黙り込むランスロットに戸惑うベディヴィエール。
悩みに悩んだ末、意を決してランスロットはベディヴィエールに問うてみた。





「……君は、マスターがマーリンに懸想していると思うか?」


「……………………………………………………」
「……………………………………………………」

「……………………………………………………は?」

「………………気持ちは分かる」

たっぷりと十秒は間を開けてからベディはようやくその言葉だけを発した。

「…………何を言うんですかサー・ランスロット。マスターに限って、そんな。」
「いや私も思い過ごしだとは思ったんだ、だがその、あまりにも頻度が高いので、つい」
「頻度、などと、そんなことで、まさかそんな」
「落ち着くんだベディヴィエール」

あからさまに狼狽えているベディヴィエールにランスロットも動揺する。
同じ円卓の騎士、それも円卓一の良心とも言われるベディヴィエールにならと信頼から口にした言葉だったが、判断を誤ったか。

「私は何も、2人が恋仲だと言ったわけではないのだし」
「恋仲!?二人が!!?!?」
「頼むから落ち着いてくれ」

ベディヴィエールの肩に手を置き言い聞かせるように言うもベディヴィエールは絶賛大パニック中で、ランスロットの言葉は届いていないように見受けられた。

「ベディヴィエール卿?聞いているかベディヴィエール、私はそこまで言っていない」
「しかし!マスターが懸想などと!!」
「そういう可能性があるようなないようなというだけのことを言ったのだ」
「マスターに確認せねば、恋仲などとそんなことにでもなればマスターは、ああ!」
「ベディヴィエール?ベディヴィエール!!」

突然雷に打たれたように飛び上がると食堂へと向かって駆けだしていくベディヴィエールを、まずいと思って止めるべく追いかけたランスロットであったが、いかに敏捷Bのランスロットでも敏捷A+のベディヴィエールには流石に追いつけない。

ああ、マスター!!本当に申し訳ありません!!

この後訪れるであろう騒動を予期して、ランスロットは心の中で誠心誠意謝った。



「なんだかいいにおいがすると思ったら、珍しいじゃないマスター」
「マルタ姐さん」

一方、はキッチンでレシピとにらめっこしながらお菓子作りに励んでいた。

「何を作っているのかしら。これは…………ゼリー?」
「琥珀糖ですよ!マシュにあげようと思って」
「琥珀糖?まぁ、綺麗ですね」

レシピ本の写真には色とりどりの宝石のようなお菓子が載っている。

「そうなんです。きっと喜ぶと思って作ったはいいんですけど」
「何か問題が?」
「これ出来上がるのに3日はかかるんですよね……今日あげたかったのに……」
「……どうしてそれを確認する前に作り出しちゃったのよ……」
「きれいだなって……思って……」

しょんぼりするにマルタは苦笑すると、肩をポンと叩き徐に法衣のケープを脱ぎ手を洗う。

「今から作れる簡単なものを教えてあげるわよ、一緒に作れば終わるのも早いし。これは出来上がったらまたあげればいいでしょう?」
「……!ありがとうマルタ姐さん!」

まったく手がかかるったら、とどこか嬉しそうに言うマルタに、もまた嬉しそうにごめんなさい、と返す。
ほのぼの和気藹々としたオーラが漂い、食堂で穏やかに過ごしていたスタッフや他のサーヴァント達も微笑ましそうに二人を眺めていた。

と。

「マスター!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

全速力で駆け付けたことによるものと思われる轟音をひっさげながら、ベディヴィエールが参上した。

「えっベディ!?ど、どうしたの」
「マスター!!!!!!!」
「な、なにほんとどうしたの」

つかつかとキッチンまで歩み寄りの両肩を真正面から掴むと、鬼気迫った形相でベディヴィエールは宣った。

「マーリンと恋仲になったというのは本当ですか!!!!!!!!」
「!!?!?!?!??!?」

ベディヴィエール卿、私はそこまで言ってない。

全力でベディヴィエールを追いかけてきたランスロットが、食堂の入り口で崩れ落ちながら心の中で口にした。



あっという間とはこのことだろう、即座に身をひるがえしたマルタがどこかへと駆け出した。
続いて食堂内にぽつぽつといたサーヴァント達もそのあとに続き、残った数人が固唾をのんで現場を見守る。

「……誰からそんなホラ吹き込まれたの?」
「ホラ!?ホラということは嘘なのですねマスター?マスターはマーリンに懸想などしていませんよね!?」
「ちょ、ちょベディ本当落ち着いて!!何!?どうしてそんな話になってるの!?もう!!」

視線とベディの揺さぶり行為に耐え切れずもキッチンを出て食堂を後にする。

「とにかくそれはホラだから!!あ!ランスロットベディ落ち着かせといてねお願い!!」
「あ、いやマスター実は」
「私はちょっとマーリンをボコってくる!!」
「マスッ……」

よっぽどいたたまれなかったのだろう、何も聞かずには去っていってしまう。
ランスロットは途方に暮れながらも、まずは主の命が第一とベディヴィエールを落ち着かせるために一歩踏み出した。



「マーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーリン!!!!ってうわっ」

マーリンを漸く遠目に見つけ、勢い込んで駆けつけると、ボコボコにされたうえで正座させられたマーリンがいた。

「け、ケツァ姐さん、マルタ姐さん、これは」
「あらマスター、ごきげんよう❤この色魔は私たちが制裁しておきましたからネ❤後程去勢もしてしまいまショウ!」
「悪魔かキミは!?人生の数少ない楽しみを何の権利があって取り上げようというんだい!?」
「私の可愛いマスターに手を出す色魔は極刑に値しマース!命だけは見逃してあげマスから地獄で反省してくだサイ!!」
「それ死んでるよね私!?」
「命だけはなど甘いこと、地獄の業火も生ぬるい。何もかもすべて、魂ごと燃やしてしまったほうがいいのではありません?」

突如背後から聞こえた声に思わずは「ヒッ」と声を上げた。

「日課のますたぁのお背中を守る活動の最中だったのですが、これは捨て置けません。私を差し置いてこのような、いえ、許しがたい行いです」
「きよひー……」

惚れ惚れするような微笑みの中に底冷えするような怒りがにじみ出ている清姫に、真っ青になる。

いかんこのままじゃマーリンが殺されてしまう。

「マスター!助けておくれ~~~」
「うう……二人ともその辺で……」

怒り心頭でマーリンに詰め寄るケツァル・コアトルと清姫を必死に宥めるが、二人は聞く耳を持たずマーリンににじり寄る。

キレてるこの二人止めるとか無理じゃない!?

困り果てながら何とかマーリンを庇うため二人の眼前に滑り込むと、今まで黙っていたマルタが口を挟んだ。

「アンタね、自分が何されたか分かってんの?マスターに手を出すなんてまったく何考えてんのかしらこの淫魔は、夢魔ってだけで許しがたい存在だってーのに、ああもう封印してた拳がうずくじゃない!」
「うう……誤解だよぅ……私には何が何だか……」

食堂で話を聞いていたはずのマルタまで飛躍した発言をするので流石には頭痛を感じて頭に手の甲をぐりぐりと押し付ける。
情けなく釈明するマーリンにため息を吐くと、再び口を開いてマーリンに同調した。

「あの、本当に誤解だから。大丈夫だから、手とか出されてないから……」
「マスター?こんな奴庇って嘘つくことないんデスヨー?」
「嘘……?旦那様は、嘘を吐かれたのですか……?」

嘘という言葉に反応して目を光らせる清姫にゾッと背筋に寒気が走る。
落ち着いて話すとかどう考えても無理だ、とにかく勢いで畳みかけるしかない。
そう判断すると一気に真実のみをまくし立てた。

「嘘じゃないから!!なんでそういう話になったのか私も分かんないけど手を出されてないのは確かだから!!マーリンが何をやらかしたのかは私が尋問するから、3人とももうその辺で!!」

ヤケクソ気味にズイッと令呪を押し出しながら言えば、3人は不服そうにしながらも納得したようで、各々マーリンを睨みつけながら去って行った。




「──でっ!!今度は何したのマーリン」

去って行く3人を見届け、くるりと振り返り問いかければ、マーリンはきょとんとした後顔を覆ってさめざめと泣き出した。
胡散臭いことこの上ない、この時点で既にげんなりである。

「ううっ!マイロードまで疑うのかい、私は何もしていないと言っているのに!」
「息するように嘘つくやつが何言ってんの」

即答で吐き捨ててやれば更においおいと泣き出したがその眼に涙が一切浮かんでいないのは見えなくとも承知である。
というか果たして泣くことが出来るのか、泣いたことがあるのかさえ謎だ。

「冷たい……!今回は本当に覚えがないんだッ!つかの間の平穏を引っ掻き回すのもどうかと思って自重していたと言うのに…」
「自重は永遠にしていただくとして、それが本当なら何でそんな話になったんだろう……」

むむむ、と考え込むに納得させられたと安心したのか、コロッと泣き真似をやめると立ち上がりながらマーリンは言った。

「さぁ、経緯は不明だが、ベディヴィエールに聞いてみるのがいいんじゃないかい」
「あ、見てはいたんだね……」
「いつでもキミを見ている」
「キメ顔とイケボで言っても君今顔面ボコボコだからな」

突っ込むと同時に廊下の端からバタバタガッシャガッシャと甲冑サーヴァント特有の走行音が聞こえ、そちらを振り返れば、タイミングよくベディヴィエールとランスロットがやってくるところだった。

「マスター!ああ、マーリンも一緒だったのですね」
「マーリンその顔は……」
「ああ……男の勲章というやつかな?」
「そういう言動が誤解を招いてんじゃないかなマーリン」

フッと誇らしげに笑いながら青あざをさするマーリンに、は呆れて再び突っ込んだ。

「ちょうどよかったベディ、さっき何であんなこと言ったの。今頃カルデア中に噂が広まってると思うと…」

頭を抱えるにベディヴィエールは憔悴しきった顔で申し訳ありませんと告げ、実は、と口を開いた。

「ランスロットがですね、マスターとマーリンは恋仲なのではと……」
「ベディヴィエール卿!私はそこまでは言っていないと何度も言ったはずだが!?」
「ランスロット……?」

何言ってくれてんだオメーという気持ちを込めてランスロットを睨めば、ランスロットはたじろぎながらも慌てて説明を始めた。

「そのですね、私は常日頃から、マスターはマーリンの話ばかりなさると、そう思っていて」
「……えっ」

隣でしょぼくれていたベディも同意とばかりに頷く。

「私も言われて気づいたのですが、確かにマスターから聞かされる話の大半はマーリンの愚痴でした。ですが、マスター!だからといってマーリンに懸想しているなど、ありませんよね……!?」
「……………………な、なっ」

言われた言葉の意味を理解し、顔を真っ赤に染め上げる。

「ほう……へえ……」

マーリンは顔をにやけさせるとそう呟き、の顔を覗き込んだ。

「ぎゃー!!違う!!見るなバカ!!!!」
「ぶっ」

顔面を思い切りしばかれながらもニマニマとだらしなく頬を緩めるマーリンに、ランスロットが呆れて「マーリン」と咎めると、マーリンは肩をすくめて姿勢を正した。

「いやっ、それはマーリンがいつもいつも困ったことをするからで……!分かってるでしょ二人とも!?」
「そうですよね、ええ、私はそう思っていましたとも」

ほっとした様子で納得した顔を見せるベディに分かってくれたかとため息を吐き、次いでランスロットの顔を見れば、すべてを察した顔で告げられた。

「そうですね、きっとそうでしょうとも……」
「ランスっ!!」
「マスター、この男に泣かされるようなことがあれば、このランスロット、かつての盟友と言えど切り捨てることに躊躇いはありません。忘れないでください、私はいつでも貴女の味方であると」
「ひどくないかい」

慈愛の顔でランスロットは告げる。わなわなと震えるは、今日一番の大声をあげて抗議した。


「だーかーらー!!違うんだからね!!!!!!!」




……円卓の二人に「騒動を起こした責任を取れ」と、噂の火消しという名目で追い返した後、二人きりになった廊下でマーリンが口を開いた。

「」
「……違うからね」
「まだ言っているのかい?」

くつくつと喉の奥で笑うマーリンをキッと睨みつけるが、顔が真っ赤でちっとも恐くない。
いや、マーリンにとってはのどんな顔もすべて好ましいものにしか映らないのだが。

「う……でも……ごめん、今回はマーリン何も悪くなかった……、私のせいで、その……」
「んん?これかい?まぁ痛かったけど、大したことはないさ、夢魔だし」

からからと笑うマーリンに、この男は本当にどこまでが本音なのかさっぱり分からないとは軽く口を尖らせる。
珍しく素直に謝ったというのに(いや、そもそも普段マーリンがひどい目に遭っているのは本人の自業自得でありが謝る必要はないのだが)さらりと流されてしまった。食えないやつ。
こちらの気持ちなど露知らず、何が楽しいんだかニコニコとマーリンは笑う。

「実は前にモードレッドに文句を言われたことがあるんだ。マスターがマーリンマーリンうるせえからあんまり問題起こすな、とね」
「……ぐっ……モーさんまで……っ」

にしてみれば、ただ円卓ならマーリンのアレさが伝わって同情を得やすいだろうとただそう考えただけなのだ。
別に毎日毎日マーリンの話しかしなかったわけでもないし、いや、確かに思い返せばいつもマーリンの話をしていたような気はするが、誤解。誤解だ。

懸想、とか。そんなわけがないじゃないか。

「ふふ……でもたまには自重してみるものだ。まぁ、あまりにも暇で先日は夢の中にお邪魔してしまったが」
「そうじゃん!!ちっとも自重してないじゃん!!だから愚痴ったんじゃん!!」

ああもうやっぱり全部マーリンが悪い!!

モヤモヤした気持ちを全部ぶつけてそう声を荒げれば、マーリンの影がす、と動いた。
自分よりずいぶん低い位置にあるの顔を至近距離で覗き込むと、微笑んで囁く。

「全部私が悪くていいよ。でも次から僕の話をするときは、直接聞かせてほしいな」
「…………!!!!」

が何か口を開く前に、マーリンはスイッと身を離すと、何事もなかったかのようにいつもの微笑みを浮かべた。

「そろそろ夕飯の時間だね、共に食堂に向かおうじゃないか。きっと質問責めにあうけれど、何、私が上手く言いくるめてあげよう」
「……っ、も、余計なこと言わなくていいから……!!」

先を歩くマーリンの後ろについて歩きながら、食堂に着くまではこの紅潮がどうか収まりますようにと、は必死で夕飯のことを考えるのだった。

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