スペースオペラはお呼びじゃない!終
発進する宇宙船を見届けた後。
即座にマーリンが私を抱えてカルデアに転移し、私たちは一瞬で自室へと舞い戻っていた。
「っわ、もう、ほんとに余韻のかけらも許してくれないんだから……」
そう文句を言いつつも、無事に戻れたことに安堵を覚えて息を吐く。ベッドの上に腰掛けると、やけに静かなマーリンも、私の隣にゆっくりと腰掛けた。
「立香たちは平気かな……」
「大丈夫。マスターには帰るあてがちゃんとある。おそらくそう時差も無く、数分もすれば帰ってくるだろう」
「え、こっちそんなに時間経ってない感じ?」
「ああ。キミが消えて、私があちらに行くまで10分、今はその10分後といったところだ――」
「じゃあ全然時間は経ってない、っぅお」
話しながらマーリンが私に寄りかかる。同じく寄り添おうとしたら、いきなり全体重をかけてのしかかられたせいで、身体を支えきれず、倒れてベッド脇に頭を打った。
「いっ……た!ちょっと……えっ!?」
流石に文句を言おうと起き上がるも、マーリンは私の身体の上に伏したまま動かない。慌てて身体を持ち上げようとしたら、首に腕を回され抱きつかれる。ぐったりともたれかかるようにして私を抱き締めるマーリンに、戸惑いながら背中に手を回してゆっくりと撫でた。
「……マーリン……?どうしたの?」
「……ちょっと、ね。やせ我慢をしていた」
「我慢?まだ胸が痛いとか?」
「いや……そっちが治ったら、気力が切れてしまったみたいだ」
「え、え?大丈夫なの?」
「あんまり、大丈夫ではないな」
「や、やだ、ちょっと、変なこと言わないで」
不穏な発言に慌ててベッドに寝かせようと腕を回すと、マーリンは平気だからとでも言うように頭をこすりつけてきた。
「このまま、で」
「で、でも」
「良いから」
「……うん」
戸惑いながらも、とりあえずそのままで、マーリンの背中に腕を回して抱き締める。
ほぅ、とマーリンが息を吐いた気配がして、そのままゆっくりと話し始めた。
「実は、キミがいなくなってすぐ
「え……!?」
声音は辛そうでは無いけれど、内容から察するに相当のダメージを受けたのだろう。
驚いて、思わず背中に回した手でマーリンのローブをぎゅうと掴む。
「それって、じゃあ、今帰ってきたのも……」
「うん、ちょっと無理しすぎちゃったな。もう少ししたら、いったん引っ込むよ」
「もう少しなんて言ってないで、今すぐ休んだ方が」
「嫌、だ。もう、少しだけだから」
「……」
縋るように、私の服をマーリンの指がくしゃりと掴む。マーリンのことを考えるなら、無理矢理にでも休ませるべきなのかもしれないけど、そんな風に言われたら、何も言えなくなる。
私が黙ると、マーリンはまた軽く息を吐いて、再び喋り出した。
「その間も、魔力の許す限りキミのことは垣間見ていて――僕に向けられる筈の顔を、彼にも見せるものだから。どうにも、胸がかきむしられるように苦しくて……頭が沸騰するかと思うほど熱くなって、ギシギシ軋んでたまらなかった。……ごめんね。怖がらせて」
「っ、いいよ、そんなの……ごめんね、ぜんぜん……全然わたし、きづかなくて、そんな……そんな、嫌がること、してごめんね」
知らなかった。マーリンが見ているなんて思いもしなかったし、見ていると知ってたら、流石にもう少し宇宙オニイサンと距離を取っていただろう。
そう思うと、私がしたことは明白に裏切りの一種だ。だって、見られていたらやめるということは、後ろめたいということだから。
マーリンはきっと気にしないだろうから、まぁ良いか、とか甘く考えてもいたけれど。
それこそ命懸けで私を探しに来てくれたのに、私は……大して役にも立たないのに、何かしてるつもりになって、ただ宇宙オニイサンとの旅を楽しんでいただけだ。
私、最低だ。
「ごめんね……」
泣く資格も無いのに、じわりと目に涙が浮かぶ。私の肩口に額を埋めたまま、マーリンは緩やかに首を振った。
「あれは、僕だったもの。なまえが惹かれるのは当然だ。……だから、だから怖かったんだ。……そうか、そうだ。僕は怖かった、キミを奪われてしまわないかと」
「っ、マーリン、」
「いなくならないで」
「マーリン……っ」
「いなくならないで、なまえ」
以前にも言われたような台詞が、以前よりももっと切実な響きを持って発せられる。
目の届かないところに行かないでほしいと告げられた日のことを、今も鮮明に覚えている。
ここは、私の元いた世界とは違うけれど、マーリンのいる世界とも違う。
もしかしたらマーリンは、私が帰ってしまったのではないかって、そう思ったのかもしれない。
「いなくならない。マーリンのそばにいるよ」
――果たして私は、はっきりとマーリンにそう言ったことがあっただろうか。
心はマーリンを求めていて、この世界にも順応し始めて。人理は消えてしまっても、私の毎日はそれなりに愉快で。
だけど、元の世界を忘れることは出来なかった。
もし、目の前に帰れる選択肢が現れたら。
私は、きっと迷ってしまう、けど――
「……うん。良かった」
安心したように、マーリンは息を吐きながらそう呟いた。
その頭に手をやり、柔らかな髪にうずめると、そっと梳くように撫でる。
忘れられない。未練もある。帰れないと思ったら、張り裂けそうなほど辛い。
それでも私はもう、マーリンを置いてどこにも行けはしない。
マーリンが私を求めてくれるなら、私もマーリンを求めてしまう。
逃げられない。逃げたくない。
ずっと一緒にいたい。
内心、密やかに決意して――無言のまま、マーリンの髪を撫でる。
「誰にも、キミを渡さない……もう、どこにもやったりしない」
「……うん」
いいよ。
全部マーリンのものにして、いい。
静かにそう告げると、マーリンはゆっくりと頭を上げて、心底嬉しそうに微笑んでみせた。