スペースオペラはお呼びじゃない!6
「X、……X!」
「はっ!?セイバーですか!?」
「いえ、モブです」
「えっモブセイバー?……じゃなくて、なまえさん?何でこんなとこにいるんですか……って、おやおや?」
「チチュン!」
Xの眠る脱出用ポッドにぎゅうぎゅうに詰め込まれていたスズメたちが騒ぎ出す。のそりと起きあがったXの身体につられてあふれ出したスズメを受け止めてそっと地面に降ろすと、改めてXに向き直り、状況を説明するべく口を開いた。
「ここは私がお世話になってる船だよ。X、あの要塞……ダーク・マアンナだっけ?あの船がぶっ壊れて、そこから脱出用ポッドが飛び出してきて……それをこの船で回収したの。傷も回復してると思うけど、どう?」
「傷……本当ですね。ギリギリアウトでむしろ一回死んだわりには、物凄く元気です」
「うん、ポッド開いたとき「死んでる……」と思ったもん」
「脱出用ポッドに乗った時点でもう生き返った後だったんですけどね」
ポッドから降りて立ち上がると、Xは腕をぐるぐる振り回しながらそう言った。何と答えていいか分からず空笑いを返す。
身体の動きを確認したXが船を見渡すのを見て、私も立ち上がった。
「なまえさんが無事で良かったです。貴方が無事ってことはこの宇宙も無事なようですね」
「今のところはね。うん、でもきっと大丈夫だよ。戦闘には間に合わなかったけど、Xを拾えて良かった。あ、ていうか久しぶり」
「ええ、本当に久しぶりです。マスターくん心配してましたよ?」
「ホントごめん、いろいろあって……」
視線を逸らしながらまごまごと言いよどむ私に、Xはふと唇を引き結ぶと、改めて私に尋ねた。
「そういえば、この船の主はどこに?」
「この船の操縦してるよ」
問われて思わずドキッとするも、平静を装って答える。会いたいと言われたら、それより急ぐように言えと宇宙オニイサンには言われていた。
そんな私をジトーッと胡乱げにXが見つめる。やめてそんな目で見ないで。
内心ハラハラしながらも、表に出さないよう必死に表情筋に力を入れて、Xを見つめ返した。
「……この船、嗅ぎ慣れた匂いがするんですよね……」
「匂い?」
「えぇ、はい。いけすかない匂いです。団子状態でもみ合うセイバーという極上の的を差し置いて、真っ先に聖剣をお見舞いしてやりたくなるような匂いがプンプンします」
「どういうこと」
宇宙オニイサンXに何したの?てかやっぱり知り合いなの?
これはもの申しにコクピットに飛び込まれかねないとハラハラする私をよそに、Xは力一杯伸びをすると、「じゃ、私は行きます!」と元気良く言った。
「え、え?もう行くの?」
「ええ!女神相手では皆苦戦しているでしょうし!このレベルアップした私の力が必要になるでしょうから!幸い身体も万全に回復しましたし。この船の主に助かりましたと伝えてください」
言いながらXは甲板へ出るハッチへと向かう。
「待って!これ乗ってって」
「これ?……むむ!スタリオン!?……のような、スペースジェット!!」
「スペースジェットの意味が分かんないけど、まぁ多分ソレ。余ったアルトリウムで急遽作ったってマ……この船の主が」
「返す返すも腹が立ちますね、この準備の良さ」
「分かる……………」
言いつつも、Xはスペースジェットに颯爽と乗り込んだ。と思ったら、身を乗り出したので私も身を寄せる。
「どしたの?」
「船の主にもう一つ伝言を。たまには顔を見せなさいと。あとなまえさんに手を出さないよう強く言っていたと伝えてください」
「あはは、了解」
笑って了承すると、改めてスペースジェットから身を離してハッチを開くボタンに手を伸ばす。
「では、なまえさんお元気で!また会えることを祈っています!」
「うん!立香たちをよろしくね」
「もちろんです!ヒロインたるもの、間に合ってみせますとも!」
ジェットの扉を閉めたXが、準備完了の合図を送ってきたのを確認して、ハッチを開く。スペースジェットが宇宙へと飛び出して行くのを見送ると、ハッチの扉を閉めてコクピットへと戻った。
「やぁなまえ、ご苦労様。彼女は無事旅立ったようだね」
「今から間に合うの?あの……船?ジェット?で」
「戦闘はもう佳境だ、ここからじゃちょっと間に合わないな。だけど彼女は一度世界を救った前作主人公だもの、やるべきことはラスボスとの戦いだけじゃないさ」
「何それ?何かあるの?」
「後顧の憂いを断つとかね」
「分かりづらいなぁ」
「全部終わったら教えてあげるよ」
「けち」
「楽しみは後に取っておくものだよ?」
「手遅れになっても知らないからね」
X……何だっけな、確かにXが死にかける展開とかあった気がするし、Xは戦闘に間に合ってなかったような気もするんだけど、やっぱり思い出せないや。
うーん、と一頻りX関連の記憶を思い出そうと試みるも、やはりうっすらとしか思い出せず、早々に諦める。そのままXとの別れ際の記憶を再生し、そういえば伝言を頼まれていたことを思い出した。
「ああそうだ、Xから伝言。たまには顔を見せなさいって」
「はて、誰かと勘違いしているのかな?」
「そういうの良いから。あと私に手を出すなってさ」
「やっぱり誰かと勘違いしているんだろうな。うん、そうに違いない!」
「手出されたってチクっちゃお」
「そんな殺生な!ちょっと触ったくらいで!」
「痴漢みたいな言い方ヤメテ」
多分演技なんだろうが、狼狽える姿がおかしくて、つっけんどんに言い返しながらも笑ってしまう。そんな私を見て、宇宙オニイサンは操縦桿から手を離すと、操縦席の背もたれにどさりと盛大にもたれかかった。
「この少し先で、宇宙の命運をかけた死闘が繰り広げられてるっていうのに、この船は平和だねぇ」
「おかげさまでね」
「良かったろう、私に着いてきて」
「う~ん……」
「何で悩むんだい」
「ウソウソ。それなりにしんどいこともあったけど、まぁ、うん、結構楽しかったし」
「そうだろうとも!」
嬉しげに笑って宇宙オニイサンが言う。苦笑して「ほんと自信満々だよね」と返すと宇宙オニイサンはさらに目を細めて、柔らかな声で答えた。
「それはだって、私も楽しかったからさ」
「……」
「まだ信用されてないのかな?」
黙り込んだ私に、眉尻を下げて宇宙オニイサンが問う。
「信用っていうか、楽しいとか思うんだなって」
「……本当に、キミって"私"と仲が良いんだね。キミのような子に、そこまで話したのか、悟られたのか……それとも誰かから聞いたのか」
「あー……」
確かに、宇宙オニイサンの立場からすれば、私のような取るに足りない女に、わざわざ自分には心が無いんだとか、そういうことを言うメリットなんか無いと思うだろう。実際私も、マーリンにそう告白されたわけではない。ただ識っていた、それだけのことだ。
でも宇宙オニイサンにそう言うわけにもいかないし。
どう返事しようか悩んで言い淀む私に、宇宙オニイサンが意味深に視線を送ってくる。
「な、なに?」
「うん。薄々思っていたんだけど、キミって」
たじろぐ私に、宇宙オニイサンが口を開く。
「"私"のこと、好きなんだろう?」
はっきりとそう言われ、咄嗟に何も言えなかった。
「ほら、やっぱり」
「ま、まだ何も言ってないんだけど」
「言ってないのが答えだよ」
そうきっぱり言い切られると言い訳するのも往生際が悪い気がする。
うぅ……と唸って黙ってしまった私を、宇宙オニイサンがニヤニヤしながら見つめてくる。
何だよ。その目をやめろ。
「恋人がいるって言ってたけど、それって私のこと?それともただの強がり?」
「……マーリンのことだよ。まぁ……マーリンがどこまで本気なのかは、分かんないけど」
「だよねぇ。私もまさかとは思ったんだよ」
「どういう意味かな!?」
妙に気恥ずかしくて、顔を覆ってしまいたくなるのを脚の上に手を置いて耐える。
もじもじと答えた私に対する宇宙オニイサンの反応に、照れ隠しもあって語気を荒げると、宇宙オニイサンは手を振って「あぁごめん」と返し、「キミが思ってるのとは逆の意味だよ」と続けた。
「「キミ如きが」とかじゃなくて、「この僕が、キミみたいな子に興味を惹かれるなんて」っていう」
「……どっちにしろ良い意味ではなくない?」
「そうかも。ごめんよ。でも、これは本音」
「……分かんない。本気で言ってんの?」
「本音だって言ってるだろう?でも僕も分からないや。何でだろう?キミとは、もうちょっと一緒にいてもいい気がするんだ」
「……嬉しいけどさ…………」
やっぱり全然納得いかないんだよね。
私が主人公ならいざ知らず、立場的にはただのモブなのに。
何でそんな、私にとって都合のいい感情が、よりによってマーリンにわいたりするのだろうか。
「そっちの私も苦労してると見えるなぁ」
「何それ、私がオニイサンを苦労させてるみたいな言い方だけど」
苦笑して言われた台詞に、口をとがらせて反論する。苦労してるのは私の方なのに、自分ばっかり苦労してるみたいな言い方して。
そんな意を込めた憎まれ口を、だけど宇宙オニイサンはあっさりと跳ね返した。
「苦労してるよ。ひねくれてるし素直じゃないし弱いしすぐヘバるし」
「悪かったなぁ!どーせ私は役立たずですよ!!」
「ほらね。ひねくれてる」
朗らかに言い返され、再びうぐぅと唸る以外出来なくなる。
別に好きでひねくれてるわけじゃないし。いきなり異世界に、しかも特になんのスキルとかも付与されずにトリップしたらこうなりもするよ。
弱くてすぐヘバるのもその通りなので何も言えない。だからこそマーリンが、宇宙オニイサンが、私に惹かれているなんて、到底信じられないのだ。
「信じておくれ、とは確かに言いにくいけどね。僕自身信じがたいことだ。なんというか、キミとはまだやれてないことがあるような、もっとやりたいことがあるような、そんな気がして」
「やれてないことって……」
「セックスとか?」
「ブン殴るぞ」
「冗談。……でもないんだけど。本当に分からなくて、何が足りてないのか」
「……そんなこと言われても、しないからね」
「残念だ」
やはり朗らかにそう言って、宇宙オニイサンは再び操縦桿を手にした。
「……どっか降りるの?」
「彼らを送り届けないとね」
「彼ら?」
指さされた背後を椅子から身を乗り出して振り返ると、いつの間にかコクピットへの出入り口のあたりにものすごいスズメだかりが出来ていた。
「ウワーーーーーーーッ!?」
「チチュン!チュン!(忘れられたと思ってたチュン)」
「チュン、チュチュチュン(空気を読んで黙ってたチュン。でも思い出してもらえて良かったチュン)」
「わ、わすれてた……」
「彼ら、空気を読んでキミと彼女の別れのシーンから気配をひそめて隠れてたみたいだね」
「なんか恥ずかしいんですけど!!」
コイバナとかしてるところを盗み聞きされてたってことだよね!?
空気とか読まずにチュンチュン囀ってくれてれば忘れることなんて無かったのに!!
いや、スズメね、最初はびっくりしたんだよ。
脱出ポッドを回収して、中のXの様子を確認したらみっちりスズメが詰まってんだもん。
でも回復するまでの間様子を見続けてたら慣れてしまった。鍛えられた順応性がアダになってしまった……。
「そんなわけで、グリーン・キッチンへ向かおう。スズメたちを送り届けたら、彼らの元にキミを送り届けるよ」
言われて、わらわらと膝の上に登ってくるスズメたちを無意識にモフっていた手を止めて宇宙オニイサンを見る。
そうか。宇宙オニイサンとの旅は、ここまでなのか。
「……」
「チュン?」
膝にたかるスズメのうち一匹を、両手で抱えてむにむにともみしだく。
ここまで、色々あったけど……
私も本当に、……楽しかった。
やり残したっていうと、分からないけど。
私も、宇宙オニイサンとの別れを名残惜しいと思うくらいには……この旅が、思い出深くなっていた。
◆
「チュン!チュチュチュン!」
「達者でね~!」
グリーン・キッチンへと着陸し、スズメたちを外へ出すと、みんな挨拶とばかりに私たちの周りを囀りながら旋回して、そのままどこかへ飛び去ってしまった。
その姿を手を振って見送り、見上げていた空から目線を下すと、長閑な森の風景が広がっていて。
何だか見覚えのあるような気もするその豊かな森の景色に、深呼吸を一つ零した。
「すぅ……はぁーーーーーーっ。何か最後に……随分綺麗な場所へ出たねぇ」
「この星のスペースダイナーは相当美味らしいよ。どうせだから食べていくかい?」
「いいのかなぁ、宇宙を賭けた死闘をほっぽって舌鼓なんて打って」
「良いんだよ。もう終わったからね」
「あ、そうなの?」
そうか。終わったんだ。
何か全然現実味無いけど、この宇宙は救われたんだな。
私がやったことって、囮がわりに使われたり人質に取られちゃったり、結局足手まといにしかならなかった気がするけど……。
少しはこんな私でも、みんなの役に立てたりしたかな。
「そっかぁ……終わっちゃったかぁ」
宇宙が救われたということは、イベントの終わりが近いということだ。
ゲーム的に言えば、この後高難易度とかもあるけれど……仮にそのクエストに参加するにしたって、きっと宇宙オニイサンは同行しない。
もう本当に、この「宇宙オニイサンとの旅」は、終わってしまうんだ。
「うん。終わったよ。この宇宙は救われた。ありがとう、なまえ」
「私は……何も……」
「助かったとも。それに言ったろう。楽しかったって」
言われて、俯けていた顔を上げ、少し先を歩く宇宙オニイサンを見つめる。
そのまま足を止めると、宇宙オニイサンもこちらを振り向いて、足を止めた。
「どうしたんだい、なまえ」
「うん……いや、なんていうか、もっと達成感とかあるかなぁって思ったんだけど」
「私たちの仕事は女神経典を送った時点でほぼ終わっていたからね」
「そっか。そうだね、最初からそう言ってたもん」
だけど、戦闘が終わるまでは私も合流出来ないから、と。
一緒にいる時間を伸ばしてくれて、こうして今も、スズメを送り届けるついでに、新しい星を二人で歩いている。
「なんか、全然終わった気がしないね」
ぽつりと零すと、宇宙オニイサンがふわりと微笑む。
「僕もそう思う」と言われ、私もぎこちなく笑ってみせた。
「だけど……振り返っても、やるべきことは何も思いつかない。もう何も、やり残したことなんてないんだよ」
「そっか」
「うん。だから――」
「だからもう、良いんだよ。帰ろう、なまえ」
「――え?」
前方にいる宇宙オニイサンの声に被って、何故か背後から続けて聞こえた声に、反射的に振り返る。
そこには、いつもの白いローブに杖を携えたマーリンが、桃色の花びらを散らせながら、佇んでいた。