スペースオペラはお呼びじゃない!5

まぁなんやかやとあり、女神経典すべてを集めることが出来た。

本当にいろいろあった……大変だった。
蜂の巣にされかかったり、なぜかお仲間を連れていたやつに捕まり人質にされたり。
私が「戦場でのマーリンの立ち振る舞い」に慣れていたので、何とかかんとか切り抜けることが出来たけど。
剣で切りかかると見せての杖ビーム、からの突進突き大ジャンプ逆手袈裟懸けはお見事と言う他ない。なかなかマーリンの一騎打ちを拝める機会は無いのでいいものを見た。

まぁスペーストシゾーとかいう、こちらの土方さんに「やあトシゾーくん!」って話しかけ始めたときは度肝を抜かれたけど……ととととトシゾーくん!?って本気でびっくりしすぎて腰抜かすかと思った。蒼輝銀河、マジで時々予想外すぎて心臓に悪い。

女神経典はなぜかVHSの形状をしていたが、この宇宙船にも再生機器は存在するらしい。見ていいかと尋ねてみたら、意外にもあっさりと「良いよ」とお許しが出たので、すべての女神経典を再生してみた。何か一つ変なの混じってたけど……時臣……かわいいやつだな……。

女神経典をすべて見たことにより、ようやくSWⅡの概要を大体思い出すことが出来た。
宇宙オニイサンが2000年前の女神特攻チームであることもナチュラルに出てきたわけだが、宇宙オニイサンはそれを私に隠す気は無かったようだ。まぁはじめから2000年生きてるって言ってたもんな。カルデアの方のマーリンも1500年生きてるからあんまり気にしてなかった。

「話は聞かせてもらった。人類は滅亡する!!」
「それを阻止する為に彼らにはがんばってもらわねばならないわけだけど」
「はい」

迫真の表情で言い切った私の言葉を軽やかに流した宇宙オニイサンが、女神経典を見終わった私の隣、操縦席へと座る。
何やら手元のパネルを操作し始めた宇宙オニイサンに、「何してるの?」と尋ねると、「女神経典を送る準備だよ」と返ってきた。

「送るって?てっきり合流して手渡すんだと思ってた」
「それだと間に合わない。私たちも禁忌宙域に向かっているけど、彼らと違って遠回りのルートを選んだからね。ワープを繰り返しても五分五分ってトコだ。なのでダビングデータを送信する」
「だ、ダビング……」

確かに現物を送るより遥かに簡単だし、劣化もしないからデータの方が良いだろうけど。

「この三つ目のやつも送るの?」
「送るさ、あちらには非常に優秀なAIがついてるからねぇ。再生するかどうかは彼の判断に任せればいいさ」
「性格悪っ」

からからと楽しげに笑う宇宙オニイサンに毒づくも、当の本人はどこ吹く風だ。

「でもあの内容って、イシュタルに見せてもいいやつなのかな」
「それも……"彼"が判断するだろう。彼女――イシュタルは賢明な娘だ、おそらくもう自身について大体は理解し、覚悟も決めつつあると見える。何とも気丈なことだ。私の好みでは無いけど、「良い女」というのは彼女のような子のことを言うのだろうねぇ」
「今の台詞いらない情報が混じってたんだけど?」
「因みに私の好みはキミみたいにいじりがいのある……」
「聞いてねーよ!!」

これだよ!もー!!!!
この宇宙を旅する道すがら、宇宙オニイサンは事あるごとに私を口説こうとするのをやめなかった。
本当にやり口がマーリンとそっっっっっくり。マーリンなんだから当たり前だけども。

ていうかいじりがいがあるって口説かれてんのか?それすらも怪しい。でもマーリンも私にそう言うんだよな。「いじりがいがあって楽しい」と。

「つれないなぁ。じゃあ逆に、キミの好みってどんなだい?この私をすげなく扱うんだから、キミの恋人は相当良い男なんだろう?」
「何でそんなに自信満々なワケ?」
「顔も頭も人当たりも良くて戦闘でも頼りになる上キミの命の恩人だから」
「うーわ、否定出来ない」
「ははは、そうだろうとも」

データ送信を済ませたらしい宇宙オニイサンが、私が座っている椅子の肘掛け部分に無理矢理腰掛ける。反対側に肘を置き頬杖をついてじろりと見上げると、宇宙オニイサンは笑顔で「で?好みのタイプは?」と再び話を蒸し返した。

「そんなの聞いてどうするの」
「参考にさせてもらうよ」
「口数が少なくてクールな男が好みって言ったら?」
「キミがその空気に耐えられるっていうならそうしようか」
「嘘って前提で言うな」
「じゃあ今からクールキャラになりきってみようかな」
「いやごめん嘘。間が持たないからやめて」
「あはは、私の勝ちー」
「何の勝負だっ!」

クールキャラになりきるマーリンを見たい気持ちもあったけど、マジで現実に口数少ないクールキャラと二人になると何喋っていいかわかんないんだよな。クールなキャラも全然嫌いじゃないのに、関わり方が分からない。カルデアにいるといろんな現実をつきつけられて辛い。
そこいくと、マーリンは表面上、非常に付き合いやすいキャラだった。本人も言ってるけど、気さくだし。表面上は。表面上は。

「私が勝ったんだから一つ言うことを聞いてもらうよ」
「知らない間に知らないルールで勝負がついてるんだが!?何も承諾した覚え無いのですが!?」
「問答むよーう」
「きゃー!!セクハラーッ!!」
「ふふふ」

肘掛けに座ったまま、宇宙オニイサンが私に覆い被さりむぎゅむぎゅと抱き締める。頭にちゅっちゅっと口づけが落とされ、頭より胸がくすぐったくなった。

「あははっ、ちょっと、もう!やめてったら!」
「んー。やだね。キミは抱き心地がいい」
「甘えちゃって」

呆れながらも、身じろぎだけしてされるがままになる。最初、頬に口付けられたときは、本当に焦ったし困ってたんだけど、今となってはこの距離感にすっかり慣れてしまっていた。

「たまには私もベッドで寝ようかな。抱き枕は試したことが無かった」
「おい誰のこと言ってんだ?」

べしべしと肩のあたりを叩いて突っ込む。ふふふと笑みを漏らすと、宇宙オニイサンは更に私にすり寄ってきた。

そういえば、マーリンも最初は私を抱き枕扱いしてたんだったなぁと、今はもう懐かしい過去を思い出した。マジで私は抱き心地が良いのだろうか?夢魔に特別フィットする黄金比にでもなってるんだろうか。何か複雑な気持ち。

全体重というわけでは無くとも、のしかかる宇宙オニイサンを抱えているのは結構しんどい。だんだん辛くなって、再び肩をぽんぽん叩いて「おもいよー」と言うと、のそのそと宇宙オニイサンが起き上がった。

「……」
「?」

じっ、と無表情で見つめられ、首を傾げる。
これはマーリンもたまにする顔だ。何を考えてるのか分からなくてちょっと怖いけど、外ではあまり見せない顔だから、私はこの顔が結構好きだった。

「……やっぱり、キミも満更じゃないよね」

にこっと笑みを形作ると、宇宙オニイサンが言った。
うぐ、と思わず呻いてしまう。

「気のせいですー」
「またまたぁ。ほらほら言ってごらん?好きな男のタイプは、美形で気さくで頼りになる素敵なお兄さんです。さんはい」
「好きな男のタイプは私を褒めて養って全肯定して甘やかしてくれるお兄さんでーす」
「私に甘えてると言ったくせに、キミの方が甘えてるじゃないか!?」
「そうにゃん。私は甘えん坊だにゃん」
「えっそれがキミの甘えモードなのかい」
「ふふふっ、ふふっ」

投げやり気味に言った台詞に律儀に突っ込む宇宙オニイサンに、つい笑ってしまう。
吹き出した私を見て宇宙オニイサンも笑った。ぽんと私の頭に手を置くと、ゆっくりと髪を撫ぜられる。

「なまえはやっぱり、私の好みだよ」
「あー、はいはい」
「照れてるね?」
「うるさい」

つっけんどんに言い返すも、バレバレなことは承知の上である。
急に言われて思わずときめいてしまった。クソ。本当に私の負けだ。

いつの間にやら宇宙オニイサンは私を呼び捨てで呼んでるし、くっつかれるのにも慣れてしまって、これじゃ靡いてると言われても仕方ない。

でもまぁ、どうせもうこの旅も終わる。
女神経典がすべて集まったということは、そういうことだ。

原始の女神との最終対決が終われば、……どういう経緯を経てかは思い出せないが、立香はカルデアへ戻れる筈だ。それに私もくっついて戻ることになる。

ならほんの少し、今くらいは。
私のよく知るマーリンとは別の、このマーリンとの旅を、もうちょっと素直に楽しんでもいいんじゃないかって。

そんな風に、思い始めていた。

……ちょっと、遅いかもしれないけど。

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