スペースオペラはお呼びじゃない!4
寝ている間に宇宙に攫われる憂き目にあった私だが、暫く航行していると、どうやらこの宇宙船はどこかの星に着陸したようだった。
外に降りても問題ないとのことで降りたってみると、きわめて近代的な都市のようで、宇宙船の着港場があることを除けば、あまり地球の都会と変わらないように見える。
「まずは情報を探しつつ、買い物をしようと思ってね。ここは近場の星で一番何でも揃う場所だから。その宇宙服だけでは困るだろう?」
「まぁ確かに……みんな普通の服着てるし、着替えが無いのも困るな」
「私は女の子への気遣いがとても細やかなオニイサンなのだ」
「気遣いの細やかなオニイサンは宇宙に女の子拉致んないよ」
ドヤる宇宙オニイサンに突っ込むも、さらりと無視され「じゃ、早速行こうか」と手を取られる。ナチュラルに手を繋がれて慌てるも、振り解くのもどうかと思って、自分から握り直すことはせず、内心困りながらも無言で着いていく。
宇宙船の着港場付近は人の出入りが激しいからか栄えているようで、さほど歩くことなく一つのばかでかいモールに到着した。
「好きなお店で選んでいいよ、って言いたいところなんだけど、ごめんね。あんまりデートに費やせる時間も無くて、先にキミの特徴を伝えて服をいくつか用意させておいたから、着替えたらすぐ他のものも買いに行こう」
「それは良いんだけど……一応言っとくね?私お金無いよ」
「知ってるよ、もちろん私の奢りさ。宇宙を救う為の必要経費なんだから問題ない」
私は宇宙を救うのに要らない筈なんですけどね。まぁ奢ってくれるならそれはもちろんありがたい。
一つのお店に着くと、宇宙オニイサンはずかずかと中に入っていく。手を引かれるままに私も中へと入り、促されるまま渡された服を手にすると、フィッティングルームに押し込まれた。私も何の疑問も抱かず、宇宙服でこのモールを歩き回るわけにはいかないもんね、と手渡された服に袖を通した。
「……って何だこれは!!!!」
「着終わったようだね」
「普通に更衣室のドア開けて入ってくるな!!」
マジでなんだこの服は。騙されたと言うか何というか。
一見ちょっと変わった形の服だな、と思われたそれは、着てみると絶妙な加減でところどころが露出しており、なおかつ身体にぴったりフィットしていた。ぴったりフィットすぎて、なんかやらしい。
「足下!丈短い!!」
「キュロットスカートだから平気だよ、ほら」
「つまむなつまむな!てかこんだけ布がガバかったらつまみあげたらパンツ見えちゃうよ!!」
「……。……それに何の問題が?」
「え?」
一瞬言葉を止めたオニイサンが、笑いながら首を傾げて言った台詞に私も首を傾げる。問題しか無いと思うが。
「あ~なるほど、キミの宇宙では問題があるんだね。だけど大丈夫。蒼輝銀河ではパンツが見えても問題ないから」
「おい絶対嘘だろ」
「嘘じゃないとも!スカート履いてる人間は挨拶のときにたくしあげてパンツを見せるのが普通だもの」
「絶対嘘だろ!!信じないからね!?」
「え~」
「信じない!!」
「え~」
「本当に信じないしマジでそうだとしても絶対やらない!!そして本当に信じない!!」
「ちぇっ」
ほらやっぱり嘘じゃねーか!!何だそのアホな嘘は!!
「ま、いいや。じゃあ着替えたなら行くよ」
「待って私はこの服に納得してないんだけど!?」
「蒼輝銀河では至って普通の服装だけど?」
「だから嘘つくな!……いや確かに蒼輝銀河の人間露出度高いな……」
まずもってジェーンとイシュタルの露出度が高い。アシュタレトはそうでも無いけど……というかみんなサーヴァントだから割と攻めた衣装着てることが多いんだよな。
「……ってあんたは露出してないでしょうが!!」
「あっしまった。バレちゃった」
「もー!!アウターちょうだい!あと下はズボン!」
「それはダメー。アウターは買ってあるけど、この星じゃ暑いと思うよ。時間無いから今から着替えは禁止。はい、じゃ次行こうね」
「どこが気遣い出来るオニイサンだー!!」
「大丈夫大丈夫似合ってる似合ってる」
ハハハハ、と朗らかに笑いながら強引に手を引くオニイサンの後を引きずられながらついて行く。
うううう!カルデアではいつもスタッフ制服だし、そうでないときもできる限り着込んでたから、は、恥ずかし!!!!
しかし私に拒否権は無い。
そもそも全部宇宙オニイサンにおんぶにだっこの身なので、わがままは言えない。
ぐぬぬ、と歯を食いしばりながら、出来る限り視界に人を入れないようにして、早く買い物が終わるよう、急いで他の店を回るのだった。
◆
「疲れたぁ~!」
「お疲れさま、急がせてごめんよ」
「ん~ん……ほんとに丸一日かかるとはね……そりゃ急ぐわ……」
必要なものの買い出しと、モール内に出店していたスペースダイナーでの買い物を済ませて宇宙船に戻る。
私の部屋としてあてがわれたベッド付きの小さな個室に荷物を持ち込むと、我慢出来ずマットレスの上に全身を投げ出した。あー……このまま寝てしまいたい……
「ほらなまえくん、せっかく買ったベッド用のシーツとか付けないと」
「うぅ……」
「全く、人間ってやつは本当に脆弱なんだから」
「悪かったな脆弱で……」
などと文句は言いつつも、起きあがる気になれずウダウダとマットレスの上で身動ぎする。宇宙オニイサンが近づく気配がして、仕方なく起きるか……と考え目を開いたら、悪戯っぽい顔をした宇宙オニイサンが、布団を纏って覆い被さってきた。
「えいっ」
「わーーーーーっ!?なになになにやめて!?」
「はははは、このまま寝たいなら寝てもいいよ」
「寝ない寝ない!起きます!ちゃんと買ったもの片付けまーすー!!」
被せられた布団をバタバタ暴れながらどかすと、目の前の宇宙オニイサンの顔が露わになり、反射的に赤くなる。
今私は、布団をかぶった宇宙オニイサンにのし掛かられている。
「セクハラですよ!!」
「じゃれ合いだよ」
私の指摘に悪びれることなく、宇宙オニイサンは更にのそのそと動いて、ベッドの上に乗っかった。完全に押し倒された格好になり、内心慌てる。
「あの、片付けたいんだけど」
「眠いんだろう?このまま寝ちゃおうか」
「い、いやあの、シャワーも浴びたいですし!」
「それはほら、この後で良いんじゃないかな?」
「何の後かな!?ほらどいて!!もうしっかり目も覚めてますから!!」
「慌てちゃって可愛いなぁ」
ちゅ。
宇宙オニイサンが私の頬に口付けた。
「ッア゜ーーーーーーーー」
「どっから出てるんだいその声」
「アーーーー!!アーーーー!!!!」
「痛っ、痛、痛い!分かった分かった、どくよ」
ばしんばしん宇宙オニイサンの身体を叩きまくると、ようやく私の上から身体を起こしてくれた。肩からずり落ちた布団をベッドの上で畳むのを横目で見ながら素早く出入り口の方に移動しじろりと睨み付ける。
「何にもしないよ。ちょうど良いや、そこの袋に入ってるものを横の棚に片付けてくれるかい?」
「まず謝罪じゃない!?普通に雑用を言いつけるな!」
「満更でも無いくせにねぇ……」
「なくないっ!!」
呆れた風に笑いながらこちらを見る宇宙オニイサンに言い返しつつ、言われた通り買ったものをしまっていく。マーリンの手の早さを知っていたのに隙を見せてしまったのは私が悪いかもしれないが……いや悪くねーよ!どう考えても手を出す方が悪いよ。なのにあの悪びれなさ。マーリン同様、宇宙オニイサンも私がマーリンに対して好意があることを察しているのだろう。ムカつく。そりゃ警戒も薄れるよ、己の彼氏とほぼ同じような存在なんだもん!!
むぅと口を尖らせる私に、ベッドにシーツを敷き終えた宇宙オニイサンが近づいて、ごめんよ、と呟くとぽん、頭に手を置かれる。
「今日一日、キミと過ごしていて浮かれてしまった。その服似合ってるよ。思わず口付けたくなるくらいには」
そう言うと手を離し、「ここは頼んだよ」と言って部屋から出ていってしまった。
「……あの、やろう」
本当に、思ってもないことをぽんぽんと、よくもまぁ。
だけどそれが分かっててもドキドキしてしまうものはしてしまうんだから、私も大概、仕様の無いやつだなと、自分で自分にため息を吐いた。