スペースオペラはお呼びじゃない!2
あれ?おかしいな?
あまり確かな記憶では無いとは言え、確かにSイシュタルたちと立香は、荒野の飲食店で出会う筈なのに。
現在、私はスペースダイナーとやらで、宇宙オニイサンマーリンの奢りで飲食中である。
予想……というより、記憶に反して、立香やSイシュタルは一向に現れる気配が無い。
不思議に思って首を傾げながらも、飯がうまくて食が進む。というかこれカルデアで食べる味とめちゃくちゃそっくり。そりゃうまいわ。
「どうやらお口にあったようだね。美味しそうで何よりだよ」
自身は何も食べることなく、ニコニコしながら私の食べる様子を見つめて、宇宙オニイサンが言う。
なんかそう見つめられると食べにくいのだが、とはいえお腹は空いていたので、目の前の食に集中するよう意識しながら、さらに一匙ぱくついた。
「さて――落ち着いたところで。キミの事情を聞いてもいいかな」
最後の一口を飲み込み、お茶に手を伸ばしたところで宇宙オニイサンが切り出した。伸ばした手を引っ込めたりはせず、そのままくぴ、とお茶で喉を潤す。
お茶を再びテーブルの上に置きながら、さてどこまで話したものかと思案する。ここはカルデアの更に並行宇宙。異世界の存在をそもそも認知しているらしいから、本当に全部、包み隠さず伝えるという手もあるけど……。
……いや。やっぱりやめておこう。
宇宙オニイサンはマーリンなので、あまり気にしないかもしれないけど……やっぱり、自分が虚構の存在だと言われるのは、あまり気分の良いものでは無いと思うし。
かいつまんで、私は「マスター」である立香の存在と、それに巻き込まれただけの一般人であることを、とりあえず説明した。
「なるほどね。マスターくんがアシュタレトに狙われていて、キミは本当に巻き込まれただけ、と」
「うん……まぁ、そういうことですね……」
改めて説明するとマジで私の存在意義って……と悲しくなってくる。毎度巻き込まれるのはいつものことだけど、本当に「巻き込まれるだけ」なのだ。私の存在が特に役に立つことなんて殆ど無い。だいたいの流れを知っているから、比較的スムーズに話を進めることが出来る程度で、しかし戦闘で足を引っ張ってしまう為、その程度のメリットすら吹き消してしまう足手纏いぶりである。
マーリンと恋仲になれたのは……まぁ、良かったんだけど……。
カルデア、ひいてはこの世界にとって、私はただ邪魔なだけだ。
はぁ~と思わずクソデカため息を吐く私に、宇宙オニイサンがふむ、とよく分からない相づちを打つ。何のふむだ今のは。
「アシュタレトがマスターくんをどうするつもりなのか、キミは知っているのかな」
「え、っと……。生贄にする、て話には聞いてる……。……あと……立香の生死はともかくとして、阻止しないと絶対ヤバイことも」
「へえ。どうしてヤバイと思うんだい?」
「……思うっていうか。私はこの世界のことはよく知らないけど、なんかあの、あれなんでしょ?女神?が目覚めたら、大変なんでしょ」
この辺はイベントの記憶で喋っているので、何がどう大変なのかとかはかなり曖昧なのだけど。とにかくあのクソデカ女神が本気出したらヤバイし、そもそも立香に死なれてもまずい。とは言え立香は主人公、必ずこの問題をクリアする。だってこれはそういう物語なのだし、FGOは基本的に、選択肢や戦闘の結果で物語は左右されない――
「……………ん?」
……筈なのだけど、何だろうこの、一抹の不安。
あれ、私なんか重要なこと忘れてる?
「どうかした?」
「ん、いや……何でもない。その、そんなわけで立香と合流したいんだけど……」
「うーん。それはやめておいた方がいいな」
「えっ?」
「キミの乗るスペースが無い」
「……は?」
「宇宙船マアンナは四人乗りだ。キミは乗れない」
「…………」
私、Sイシュタルの話とか一切してないのですが。
さてはこの男、やはり千里眼持ってるな?
「話がめちゃくちゃ早くて助かると言えば助かるけど……もうちょっと前置きとか無いの?」
「おや、驚かないんだね?」
「……こっちにもマーリンはいるからね」
「なるほど。では心置きなく切り込ませてもらおう。アシュタレトとイシュタル、そしてマスター。この三人が揃った今、この宇宙は滅びの危機に瀕している。一方で、これは好機だ。2000年前に滅ぼし損ねた原始の女神を、今度こそ滅するには今しかない。そういう理由で、マスターくんには彼らに同行してもらい、キミは――うん。私とおいで。彼らの傍にキミのような無力な者がいるのはよろしくない」
「本当に容赦なく切り込んでくるじゃん……」
実際、この旅の中で立香たちはイシュタルたちの元となった……原始の女神?を退治することに成功する……、筈だ。だから宇宙オニイサンの言い分は正しいし、私が足手まといなのも間違いない。そもそも宇宙船に席が無いと来れば、もうどうしようもない。ないけど、宇宙オニイサンと一緒にって、どこに何をしにいくんだ?
「一緒に行くのは良いとして……最終的にちゃんと帰れるなら、だけど。そこは保証してくれるわけ?」
「目的が達成されればキミもマスターくんもお役御免だ、もちろん保証するとも。というより、スペース神陰流をどうにかしない限りはどうしようもない。キミたちはダーク・マアンナによってこの宇宙に喚ばれたのだからね。でなければキミだけ先に帰すのが最も手っ取り早い。そうだろう?」
「……返す言葉もございません。で、そんな役立たずの私を拾って、何するの?」
「賞金首を狩りながら、女神経典を手に入れる。あれは彼らに必要なものだ」
女神経典は覚えている。確かにあれを手に入れる為に苦労した覚えがあった。あれが無いと……ん?あれ?
待てよ……そうだ。あの女神経典を読まずにいると……
……死ぬんじゃ……なかった?
「協力します!!」
「ありがとう。こちらこそ話が早くて助かるよ」
「マーリンが言うならそうなんだろうなって思ったんで!」
というのはもちろん建前である。本音でもあるけど。
随分ぼんやりした記憶だけど、そう。FGOには基本的に、バッドエンドという概念は無いが。
確かこのセイバー・ウォーズⅡでは、あるのだった。女神経典を集めずにストーリーを進めることによってたどり着いてしまう
……もちろんゲームであるので、バッドエンドとは言っても、何らかの理由でクリアは出来た筈である。やはり覚えてないのだけど。
だがしかし、私にとって今は現実。
立香が正しい手順を踏まずにバッドエンドルートをたどったとき――実際にどうなってしまうのかは、全く確証がなかった。そもそも、そのバッドエンドとやらがどんなものかを覚えていない。もしかしたら、見てないのかもしれない。それすら覚えてないのだ。
だが「女神経典を集めれば、正規のルートに至れる」ことは、覚えている。
そしてそれが、賞金首を倒すことで得られるものだということも、何となく覚えていた――というか思い出してきた。
何で賞金首を倒せば女神経典が手に入るのかは、よく分からないけど。
「じゃ、早速出発しよう。女神経典はユニヴァース中に散らばっていて、集めるのは骨だ。彼らが
「ち、ちょっと待って!別行動するにしても、立香には連絡を取らないと……多分向こうは私のこと心配してるから」
「心得ているとも。私の船からマアンナに呼びかけよう。合流してから散会するより、そちらの方が手っ取り早い」
「船……あるんだ?」
「無いと宇宙を旅出来ないからね」
ごもっともである。
しかし、立香は必ずスペースダイナーに立ち寄る筈だ。私が落下してからスペースダイナーにたどり着くまで、そこそこ時間が経っているとは言え、もう立ち去った後というのは考えにくい。とは言え待てど暮らせど来ないのも確かなのだが。
「今立香たちはどこにいるの?」
宇宙オニイサンが千里眼持ちなのは疑いようがない。また、私もカルデアにマーリンがいることを既に明かしているから、特に前置きせずそう尋ねた。
「スペースダイナーで戦闘中のようだね」
「えっ?」
私の問いに、やはり宇宙オニイサンも何の疑問も返さずにさらりと答えた。それは予想通りだったが、言われた言葉は予想外で、当然の疑問を私は口にする。
「スペースダイナー……って、ここじゃなくて?」
「この星のスペースダイナーは一つじゃないんだ」
「…………謀ったなこのやろう」
「何のことやら」
すっとぼけつつ席を立つ宇宙オニイサンに、慌てて私も席を立つ。
私と立香を引き離したの、絶対にわざとだし、この展開も全部織り込み済みなのだろう。本当に食えないやつだ。
◆
『なまえっ!?今どこにいるんだ!?その船は!?』
「あ、あー。立香、ごめんね心配かけて」
そんなわけで再び宇宙オニイサンと空のランデブーからの、宇宙船である。マアンナに対して通信を呼びかけると無事応答され、こうして画面越しではあるが再会を果たすことは出来た。
因みに宇宙オニイサンは、姿を現すと都合が悪いとのことで、通信のやり方だけ私に教えて、アルトリウムを稼いでくると言って出て行ってしまった。故に私は今、宇宙オニイサンマーリンの宇宙船という、胡乱すぎる代物に一人で搭乗している。
「わけあって身分は明かせないらしいんだけど……親切な人に助けてもらってね。で、えー……っと……スペースダイナーの店員さんが、賞金稼ぎと立香らしき人物が一緒にいたって情報を、教えてくれて……近くの船に通信送ってみたら立香がいたってわけ」
『無事で良かったよ、ホント……近くにいるなら合流しよう。あ、でも俺たち今から悪の……」
『待った待った、ちょっと待ちなさい。秘匿通信に切り替えるから。そっちのパスデータよこして』
「あ、はい……えっと確かこう……」
立香が話そうとすると、Sイシュタルが横から割り込む。宇宙オニイサンに教えられた通りに画面をおっかなびっくり触って、秘匿通信に切り替えると、Sイシュタルが『改めて、貴方がなまえね。よろしく』と口にした。
「よろしく、イシュタル」
『……ふうん。やっぱり私のこと知ってるのね。スペース神陰流の総統とかいうやつ、よっぽど私に似てるのかしら?』
言われて気づいたが、アシュタレトとイシュタルが別人であることを私が知ってるのはおかしいんだった。
「そういう貴方は、あの悪の親玉とは別人と思っていいんだよね?」
『そ。よく気づいたわね』
「何かこう、快活さが違うので……」
『なまえはこう、妙に鋭いとこがあるんだ』
「妙で悪かったな。それで今後のことなんだけど」
あまり突っ込まれても困るので、強引に話題を変える。イシュタルは少し怪訝そうではあったが、立香が普通に受け入れてるのを見てか、とりあえずは流してもらえた。
『ああそうだ。合流したいとこなんだけど、俺たち今からスペース神陰流のアジトに潜入するから、その後にしよう』
「あ、いや、えっと。それがね。私を拾ってくれた人が、私のこと暫く保護してくれるって言ってて。私はマスターじゃないから、傍にいても迷惑でしょ?だから、帰れる算段がつくまでは、私は大人しくしてるのが良いかなと思うんだけど……」
『……それは……確かに、俺には手配書が回ってるし、一緒にいるとなまえが危険になるけど……』
『なまえさんは確かに、マスターでも何でもない一般人ですからね……マスター適性とか実は無いんですか?無い?ですよね』
「ん?あ?X?」
『お久しぶりですなまえさん!お元気そうで何よりです。今も誰ぞにつきまとわれたりしてませんか?』
「はは、あはははは久しぶり」
つきまとわれるどころかお付き合いしてるし今この世界の彼にやっかいになってます。
そうだった……Xもいたんだった。……もしかして、だから宇宙オニイサンは身分を明かせないのか?
Xと出会ったときは、まだマーリンと私はどうにもなってなかったんだけど、私がとある男につきまとわれて困っている、と話した為、カルデア内でストーキングされていたと思われている。まあ間違ってないのだが。それがマーリンであることは、言えてないままだったが、そういえばXと宇宙オニイサンって、どういう関係なのだろうか。……気になるけどここで下手に名前出してこじらせてもあれだし、後で宇宙オニイサンに聞いてみよう。
「Xの言うとおり、私がいると戦闘の足引っ張っちゃうから。とりあえずは留守番してるよ。一段落ついたらこの船宛に通信くれると助かる。その後のことはまたそのとき決めるってことでひとまず良いかな」
『うんうん、良いんじゃないかな~!とりあえず今はこの危機を脱しないとね!なまえちゃんにも今から乗り込むアジトについてはデータ送っとくから、何も連絡無かったらそういうことだと思って~』
『縁起でも無いわね!ばっちり勝利して帰ってくるわよ』
今のはカラミティ・ジェーンか。
画面上に何らかのデータが届いたことが表示されるが、私にはよく分からないのでとりあえず受け取り承認と思われる項目だけタッチしておく。
『……分かった。でもその親切な人、本当に大丈夫なんだよな?』
『実は
『そうね、本当に信用しちゃって大丈夫なの?通信の操作を貴方に一任してるみたいだから、少なくとも向こうは貴方を信用してるみたいではあるけど……それも不思議なのよね。完全部外者に自分の船触らせるとか、普通無いわよ』
みんなの指摘はごもっとも。だけど少なくとも宇宙オニイサンは六剣客の一人ではない。六剣客が誰だかをまったく覚えてない私でも、断言できる。
だって宇宙オニイサンは、女神経典の中にその名が出てくるだけの存在だから。
それだけははっきり覚えている。
まともにイベントシナリオに関わることが殆ど無いから、名前が出ただけで大騒ぎしたのだ。
「どうしてかは言えないけど、そのシックスブレイズとかいうのじゃないし、敵でもないのは確かだよ。スペース……神陰流、とかいうのは自分の敵だって。この宇宙船に来るまでにも、末端のモッヒーとか倒してくれてたし、間違いないと思う。宇宙船も、今ここにいないってだけで私自身の動向は見られてるから」
『遠隔カメラつきってこと?内装見るにその船高そうだし、随分羽振りよさそうな御仁に拾われたのね』
「そ、そうなの?高いのこの船?」
『個人所有の旅行用としては大きめかなってカンジ?』
『スタリオンの倍くらいありますかね』
「逆に触ってる私が怖くなってくること言わないで……。と、とにかくその人の身元については大丈夫。何か裏があるとしても、スペース神陰流の敵ってのは間違いないと思うから」
『う~ん……変にカンの鋭いなまえが言うならそうなんだろうけど』
うーん、こうして私の変人扱いも加速してくんだよなぁ。だって知ってるとは言えないんだもん。
今までもきっとこう、多分そう、と自分の知識をふんわりと誤魔化してきたせいで、私は変なところでカンの鋭い女ということになってしまっている。
「今からアジトに乗り込むんだよね?どっちにしろその間はお留守番だし、いったん通信切るよ?」
『……分かった、とにかくまずは情報を手に入れなきゃ始まらないし。スペース神陰流のことは放っておけない』
「うん、立香ならそう言うと思ったよ。じゃ、また後で」
『ああ。くれぐれも無理はしないでくれよ!』
「立香がね?」
私は別に無理なんてしたくないのよ。立香だよいっつも無理してるのは。無理というか無茶?
通信を切ると一息吐く。宇宙オニイサンはさっき出かけたばっかりだから多分戻ってくるまでもう少しかかるだろうし、下手に動くとモッヒーに身ぐるみ剥がされそうだし、というか宇宙船からどうやって出るのかも分かんないし、……寝るか。
通信の為に一時的に座っていた操縦席に深くもたれると、そのまま目を閉じる。
目まぐるしい展開に疲れていたのか、仮眠のつもりが存外深い眠りへと、私は落ちていった。