フォウくんお兄さんと遊ぼう!
「やぁ。フォウくんお兄さんだよ!」
「なにて?」
人の部屋に勝手に入り込んだマーリンが出迎えるのは最早毎日のことだから、当然マーリンがいるだろうと予想して自室に入室してみれば、物体Xに出迎えられて私は入口で固まった。
「フォウくんお兄さんだよ」
「うん。うん?」
フォウくんお兄さんだよ????
私の「なにて?」という咄嗟の言葉に律儀にもう一度同じ言葉を繰り返し、物体Xことフォウくんお兄さんはひらひらと肉球までばっちりと再現された着ぐるみに覆われた手を振った。
ベッドの上に居座る珍獣、フォウくんお兄さんにとりあえず2、3歩近づいてみる。
名の通り、フォウくんを模した着ぐるみを着た、どう見てもマーリンの顔をしたその男は、にっこりと微笑むと両手を広げた。が、私はそれをスルーした。
「……何してんの?」
「もちろん、なまえが帰ってくるのを待ってたんだフォウ!」
「フォウ」
語尾の設定に思わず同じ言葉が漏れ出る。
何。何だ。何なんだフォウくんお兄さん。
「フフフ。驚いてるフォウね。キミは私のお着替えにはとんと弱いから当然の反応だ」
「うんまぁ死ぬほど驚きはしてるんだけど……うん……お着替え…………うん」
確かに私はマーリンが装いを変えることに対して驚くほど弱い。だが今私が狼狽えているのは、着替えた事実もあるにはあるものの、その方向性である。
今の今までかなり正当派で来ていたと思うのだが、突然どうしてこうなった。夢魔回路がバグったのか?
フォウくん風の、顔以外をすっぽりと覆う被り物と、胸元はそこそこふかふかしているが、下腹部あたりから身体に沿ったラインの着ぐるみのせいで半端な擬人化みたいになっていて、なんか怖い。
着替えたときめきより「!?」という感情が遥かに上回り、何をどう思えばいいのか分からず見れば見るほど困惑する。
そんな私をよそにマー……フォウくんお兄さんは何故かどや顔で、もう一度手を広げるとにっこりと微笑んだ。
「存分にモフるフォウ」
「えっ……いや…………えっ」
「モフりたいんだろう?自由にしていいフォウ」
モフ……モフりたい…………のか?私は?
分からん…………私が彼に抱いているこの感情が何なのか…………。
「……じゃ、じゃあ、まぁ、せっかくなので…………」
なおも手を上下させて私がモフるのを待つフォウくんお兄さんに、遠慮がちに答えて恐る恐る近寄る。目の前まで来ると、比較的モフモフ度が高いと思われた、ケープの隙からモコっと飛び出した胸のあたりをむんずと掴んだ。
「おお……モフい……………」
「手触りにもこだわって布を選んだフォウ」
「やっぱ手作りなの……?」
無駄に器用だしマジで何を思ってこれを作ったんだ。
どうせ作るなら私とお揃いの一張羅とか作ってくれても……と一瞬思ったが、着こなせる気がしなかったのですぐにその考えは追いやった。
「あの……それで、これは何なの?」
モフモフに手を這わせながら遠慮がちに問うと、フォウくんお兄さんは両手を顔の横にあてがうポーズを取り、首をかしげながらウインクをした。
「これは趣味が高じてやってることの副産物フォウ。いやあ大忙しだよ」
「趣味!?趣味なの!?」
「別に着ぐるみを着るのが趣味って意味ではないよ。あくまで副産物だからね?」
あ、何だ、びっくりした……。いやどんな趣味が高じたらこうなるのかは全然分からないが。
「せっかくの衣装だからキミに見せてあげようと思ってね。どうだい?可愛いだろう?」
「え?」
「え?」
え?じゃないよ。可愛くな……いや、可愛い…………か?
マーリンは確かに結構愛らしい顔立ちでもあると思うし(表情によるけど)、フォウくん自体の造形も愛らしいし、こんなもんノリノリで着るマーリンも可愛いと言えば可愛…………いや、分からん。何だこの感情。
「ま、まぁ、可愛い……?よ?」
自分でもよく分からないまま遠慮がちに肯定すると、マーリンはうんうんとニコニコしながら頷いて応えた。
「そうだろうそうだろう。キミはキャスパリーグをよく撫で回しているから、この姿を喜ぶと思ったんだ」
何でそう思っちゃったの?好きなもの×好きなもの=最高!みたいなバカ数式信じちゃったの??
満足げに笑うフォウくんお兄さんの胸元から手を離す。「もう良いのかい?」と問われて頷くと、お兄さんは「遠慮しなくていいのに」と眉を下げて笑った。いや遠慮っていうか、この行為の意味を私はまだ見いだせてないんだわ。
「やれやれ、仕方ないな……そんな照れ屋なとろこも可愛くて好きだけどね」
「今日に限っては照れとかではまったくなウワッ」
「おいで、なまえ」
真顔でそう言う私をスルーして、フォウくんお兄さんがおもむろにベッドから立ち上がった。
座っているとまだギリギリふわふわモコモコちょっと変なゆるキャラとして見れたのが、立ち上がることによってその身長差に思わず引く。
自分の頭一つ分くらい上にあるフォウくんヘッドを被った頭を見上げながら一歩引くと、バッと手を広げたお兄さんに引き寄せられて抱き締められた。モフッとした感触が顔を覆う。
「キャスパリーグのように、キミの膝におさまって撫で回されるのは難しいけど、私ならこうしてキミを包み込むことが出来るフォウ」
「フォウフォウ言うのをやめろ」
「フォウくんお兄さんなのに!?」
甘く囁くようにして言われた台詞に鋭く返すと、マーリンはショックを受けたように言った。
モフモフに埋もれた顔をずぼっと上げて顔を見上げると、むーと口をへの字に曲げた顔が目に入る。
……うーん。
マーリンの悪戯というか、ジョークなのか煙に巻こうとしているのかよく分からない言動には振り回されるばっかりで、今回に関しては本当に困惑しきりなんだけど。……そういう顔を演技でもしてくれるのは、結構嬉しい。……かも。
「……まぁ、可愛いことは認めてあげなくもない」
「本当かい!?」
ぱぁ、と顔を明るくするマーリンを見て、くすぐったい気持ちになりながら頷く。
私を抱きしめていた手を離すと、マーリンが私の両手を取る。肉球の再現された手でぎゅっと手のひらを包むと、心底嬉しそうに笑って彼は言った。
「じゃあこのままセックスしようね!」
「なにて?」
もう一回言う羽目になると思わなかった。