ルルハワランデブー
「何で顔を隠すんだい?」
「いや……ほんと……近いから……」
ルルハワ。ホテル。最上階スイートルーム。
どうしてこうなった。
いやそりゃ私だって、一週間で同人誌作成×何百回をやらされるよりは、マーリンと……いや、他のみんなのように全力でルルハワを楽しみたいけど。
でもこんな、こんなホテルでマーリンに、お、押し倒されて、今まだ昼だし、ダメダメダメダメ!!
「どいてよ……」
「え?なに?声が小さくてよく聞こえないよ」
「ギャアアアッ!ヤダヤダヤダ近寄らないでッ!!」
屈んで更に顔を近づけてくるマーリンから必死に顔を背けて体を押し返すもやはりびくともしない。おのれ筋力Bめ。
「マーリンも立香を手伝いにいきなよ!」
「嫌だよ。おっと間違えた。無理だよ。私、絵心とか無いもの。物語にしても、かつて見た美しい絵を語ることなら出来るけど、新しい話を紡ぐのは苦手だし」
「……じゃ、じゃあ、私が手伝いにいこっかな~……」
「え?ほんとに言ってる?一週間連続修羅場何百回分、耐えられるのかい?」
「……………………嫌だ……………………」
白々しく間違えた、とか言われてイラッとしたものの、改めて問われると私だって嫌だった。
サークル活動自体はともかくとして、締め切りまで一週間で、それが何百回と続くのは控えめに言って地獄。
よくもまぁ気が狂う事無く一位にこぎつけたものだ。いやもしかしたらとっくの昔に狂っているのかもしれないが。オルタ、バーサーカーになってるし。立香は……人理修復してああも超然としているのは狂っていると言えば狂っているかもしれない。
渋々吐き出した言葉を聞くと、マーリンはやけに綺麗な顔でにっこりと笑った。
「ん♡素直で可愛いよ♡」
「今このタイミングで言う台詞なの!?」
「言う台詞だよ、だってイコール私と愛し合う方が良いってことだろう?」
「そこまで言ってないから!!」
ドサクサに紛れて何言ってくれてんだコイツ。
もぞもぞとどうにか抜け出そうともがいてみるも、しっかりと乗り上げられていて抜け出せる隙はありそうにない。
仕方がないので反転してマーリンに背を向ける。
完全に目を逸らすのは隙を晒すことにもなるが、それでもマーリンの顔を直視するよりは遥かにマシだ。
「ああ、可愛い顔が見れなくなってしまった。なまえ?どうして背を向けてしまうんだい」
「うううううるさいっ!」
「じゃあ黙ってするね」
「させないから!やだ!やーだーッ!」
ベッドの上で丸くなりシーツにしがみついて身を守る。
しばらくマーリンは私の服を脱がそうと試みていたが、私が亀のように丸くなって必死に身を守っていると、諦めたようにため息を吐かれる。
「はぁ、もう。南の島だよ?マイロードは遊んでる暇なんて殆ど無いけど、オマケのキミは特にやることも無い上、一週間の記憶を保持したまま、殆ど無限の
「それもそうだねよーし他の誰かと遊んでこよ!」
「こらこらまったく、ヤキモチ妬かせようなんて可愛いことするなぁ~。永遠にここから出さないでいようか?」
「うそです」
「残念だ……」
本当に残念そうな声色に聞こえてぞっとする。
いやいやそんな。ヤンデレエンドはごめんだぞ私は。
「ねーなまえ。僕と遊ぼ」
やけに甘ったるい声でそう言って、マーリンが私にのしかかってくる。全身で抱きつかれて逃げ場どころか隙間の一つも無くなってしまう。
こ、こいつ……一人称の使いどころも計算してやがるなさては……!私がその違いを知っていることを承知で……!
クソ……!詐欺師はこれだから!
「あ、遊ぶ、なら、みんなで……」
「みんなは後。今は僕と二人で、ね?」
「や……やだ……」
「…………何でそんなに嫌がるんだい?いや、恥ずかしがっているのは分かってるんだけども、今更そこまで嫌がられるのは不可解なんだが」
ウッ……!今頃それを聞くか……!
普段から察しが良いんだからそれも察してほしかった!それか疑問に思わないでほしかった……!!
「なまえ?」
「うぅ……」
横から顔を覗き込むようにしてマーリンが態勢をずらす。
枕を使って顔を隠しながら、私は渋々口を開いた。
「だって……違うから…………」
「うん?」
「まっ……マーリン、ふく、ちがうんだもん!」
「服?」
服!そう、服だよ!
何で何で何で何で、何でマーリン水着着てるの!?
何で髪結ってるの!?
何でパーカー羽織ってるの!?
何で何で何で何で!そんな立ち絵無かったくせに!!
「キミが喜ぶかと思って着替えたんだけど。露出度の問題とか言わないよね?裸なんて今更なんだし」
今更とか言うな。私はまだ見慣れとらんわ。
とは言え、実際露出度の問題でもない。まったく関係ないとは言わないけど。
私が言ってるのは、着替えたことそのものについてなのだから。
「うーん……旅装のときもキミは確かに照れまくっていたけど、ここまで大袈裟な反応じゃなかった気がするんだけどなぁ。やっぱり露出度の問題なのかい?」
「違……、……あれは、だって……知ってたし……」
「……はぁ、なるほど?そういうことか」
察しの良すぎる夢魔は、今の発言で理解してしまったらしい。
くそ、今ので分かるなら最初から分かってほしかった。
マーリンはふ、と吐息のような笑みを漏らして、私の耳元へと唇を近付けると、からかうように囁いた。
「予想外の私のお着替えに、動揺したと?」
「…………うるさい……………………」
図星を指されて、枕を引き寄せると頭を潜り込ませる。頭上からマーリンがくすくす笑う音が聞こえて、更に恥ずかしくなった。
このマーリンが知る由もないが、霊衣が発表されたときの衝撃を思い出して息が苦しくなる。というかそう、その霊衣ですら無いのだ。あの服で現れられても死んでしまいそうで今から怖いが、それを飛び越えて全く知らない服をこんなところでお披露目されるなんて思わなかった。実在する推し、魂に悪い。
「やだもう……こんなはずじゃ…………」
「いやぁ、私もこんな筈では無かったんだが……私のこと大好きじゃないかキミ」
「うるさいーッ!!そうやって予想外の方向から来るからマーリンなんか嫌いだ!!」
「はいはい。キミの嫌いは大好きの裏返しってね」
「ぎゃあ!!セクハラやだーッ!!」
「愛情表現、ね」
マーリンが私のうなじに口づけていく。
こそばゆくてもじもじしてしまうが、がっちりホールドされていて避けることは出来ない。ああもう、くそ!押し倒された時点でもう諦めるしか無かったんだよな!知ってた!!
「着替えただけでこんなになっちゃうなんてなぁ。知ってたらもっと効果的に使ったのに」
「軽々しくそういうことしないでよ!こちとら上着を脱がれるだけで大騒ぎなんだからね!?推しの着替えの重さ思い知って!!旅装だって大混乱だったんだから、しかもしかも台詞……ッ!ウッ……!」
フェス会場限定台詞を思い出してしまい、また息が苦しくなる。
ダメだ、こんな調子ではいつかマーリンに息の根を止められる日も近いな。
やることやっといて今更だけどさ!!装いが変わると改めて痛感する、マーリンの顔の良さを……!
「台詞がどうとかの意味はよく分からないけど、推しの着替えと言うならキミももうちょっとマシな服に着替えてほしかったものだが。何だいこの色気の欠片も無いTシャツは!立香君とお揃いでアロハシャツがあったろう?」
「誰があんなヘソ丸出しの服着るかッ!主人公ならいざ知らずモブの私があんな服着ても鯖の背景にしかならないの分かってるんだからね!」
「何でこんな自己肯定感低いんだろうねキミは」
「ご自分の顔をごらんになっていただけます!?千里眼でも鏡でも使ってさ!」
あ~っ!やだやだ、言ってたら本当に悲しくなってきた。
私だってこんな美男美女の大所帯の中でなければお洒落も恋ももっと楽しんでたもん!
カルデアのみんなは優しいから何も言わないと思うけど、こんなクソ目立つ美形と二人並んで歩いてたら現地人に何言われるか分からない。
「キミこそもうちょっと鏡を見るべきだ、別に悪くないよ。ほらキミの水着も持ってきたんだよ?」
「何でだよ!?」
「私が見たいから」
「裸ならいつも見てるくせにー!」
「それこっちの台詞なんだけどね?ほらほらいい加減我儘は言わず起きておくれ、愛しい人」
優しく言いながら、存外強い力でマーリンに身体を無理矢理抱き起される。
そのまま背後から抱きしめられて、ついでに足まで回されてしまった。何と言うがっちりホールド。
「くそ……何が愛しい人だ、足元見やがって……」
「その減らず口が嬌声に変わる瞬間が大好きだから永遠にそのままでいてくれていいよ」
「悪趣味ー!!うわーん!!性悪!!クズ!!嫌い!!」
「はいはいお着換えしようね~ばんざ~い」
「やだああああああああ!!!!」
暫くどったんばったんベッドの上でもがいていたけど(変な意味ではない)器用に暴れる私から服を脱がせたマーリンに水着を着用させられて、美男美女蔓延るルルハワの海へと強制連行されてしまった。
……まぁ、強制的に海で遊ばされてたら、だんだんどうでもよくなって、結局はしゃぎ倒してしまったんだけど。
呆れたようでいて、優しく微笑むマーリンに、またまたドキッとしてしまったのは、秘密だ。