王道展開ベタストーリーにご用心!

絶対に死ぬ。

のっけからいきなり何だが、私は死なない為に今、必死で逃げている。
何からって、マーリンからだ。

絢爛ラスベガス。
ゲームをプレイしていたのだから、勿論私はこれを知っている。
全シナリオ見たし、霊衣も解放したし、マイルームボイスだって聞いた。日曜だけピックアップって何だったんだろうねホント。まぁガチャはこの世界では関係ないから良い。問題はそう、霊衣、霊衣だ。

絶 対 に 死 ぬ。

アヴァロン・セレブレイトであんなに打ちのめされた私だ。
旅装をこの目で見たときもヤバかった、というかドキドキしすぎてまともに顔が見れなくて隠れていたら、引きずり出されてひどい目に遭った。
二の舞にならない為にも今回は逃げ切りたい。というか私の覚悟が決まるまで迫ってきたりとかそういうのはやめてほしいので、遠くから眺める期間を設けたい。

二の舞になりたくないなら逃げない方が良いのでは?という天の声が聞こえるが無視だ。それが出来たら苦労してない。

まぁ、とは言え。
逃げると言っても、このラスベガスはマーリンの庭のようなもの。シナリオの流れは一応覚えているけども、マーリンは出て来たと思ったらどっかに行ってしまうから、あまり時系列とかタイミングとか、計ったところで意味は薄い。

そんなわけで、私は今獅子王の元で保護されている。

カジノ・キャメロットでマーリンも働いているのはもちろん分かっている。だからこそここを選んだのだから。

何も私は、マーリンの霊衣を見たくないわけではない。
あの格好でいきなり迫られたら死んでしまうから、心の準備をしておきたいだけなのだ。
だからマーリンが安易に手出し出来ない環境で、マーリンを遠くから眺められる場所が欲しかった。

それにうってつけだったのが、獅子王の庇護下だった。

ここなら獅子王が防波堤になってくれるからマーリンも私をつつけないし、私は私で支配人代理を気取るマーリンを遠くから眺めてときめけるし、ついでにアロハ三騎士と遊べる。至れり尽くせり。一石三鳥だ。アロハ三騎士、マーリンと違って目の保養心の保養。ありがとうな。

そんな感じで、私は水着剣豪七色ナンチャラは完全に立香に丸投げして、マーリンの気配が無いときはカジノで遊び、マーリンの気配を感じたら逃げながら眺めるという日々を謳歌していた、そんなある日。

「うわっ、わ、やば」

いつものように、アロハ三騎士の一人ガウェインの卓でルーレットに興じていたら、マーリンがこちらに来るのが見えた。慌てる私に勝手知ったるガウェインは、レディ、こちらへどうぞと優雅に私の手を引いて、キャメロットの裏口から私を逃がしてくれた。

「王は本日VIP客のお相手をなさる為、貴女を保護出来る状況に無い。今日は外にいた方が安全です」
「え、で、でもマーリンが外に出ちゃったら捕まっちゃう!」

今まさにマーリンが追いかけてきてやしないかとキョロキョロと辺りを見回す私に、ガウェインは穏やかな笑みを送ると「心配は要りませんよ、レディ」と優しく諭した。

「VIP客をお相手すると言ったでしょう?マーリンも勿論駆り出される事になりますから、心配は無用です。今においてはキャメロットの中よりも、外のカジノの方が安全だ。お客様がお帰りになる頃には、円卓の誰かを迎えに寄越しますから」
「な、なるほど……ありがとガウェイン!」

ぱぁと顔を明るくして言った私に、「礼には及びません」と優雅にガウェインは微笑んだ。
しかし少しだけ眉尻を下げると、一瞬言いよどんでから、もう一言付け足した。

「……それにしても、いい加減慣れませんか?」
「……ウッ」

問われた言葉に、ぐっと息を詰める。ガウェインは優しく「責めているわけではないですよ」と前置きしてから、あくまで穏やかな口調で言葉を続けた。

「自分で言うのも何ですが、マーリンは私たちほど肌を出していないのだから、そこまで取り乱すことも無いと思うのですが」
「生足とか腕とか丸見えでしょうが!?……いや確かにガウェインもだいぶ……やばいけど。……ガウェインだし」
「とても腑に落ちないのですが……」

本心から不思議だ、というような顔でガウェインは首を傾げた。
いや……そりゃね、美丈夫の裸もきわめて眩しいけれど、きゃあきゃあミーハーに喚いて済むのと、マジであの服と顔で迫られかねないのとではだいぶ違う。

……というようなことを懇切丁寧に説明するのも恥ずかしく、私はビッと指を突き出すと「とにかくマーリンはダメなの!」とだけ言いきって、指を折り拳を作るとグッと力を込めた。特に動作に意味はない。

「女心というやつでしょうか」
「ガウェインの裸も好きだよ!ありがとね!じゃあ私は逃げるから!!」

サクッと言って踵を返す。背中に「お気をつけて、なまえ」という言葉を聞き、首だけ振り返ってこくりと頷くと一目散に走り出した。出来るだけキャメロットから離れたカジノが良い、そう思ってとにかく遠くを目指して走り続ける。

……が。
私は普通の人間であるので、この外気温の中いつまでも走り続けられるわけはなく。

ふらふらになって、もうここまで来たら平気だろう、と目の前にあったカジノに、避難するべく入場した。



「こいつはどういうつもりだ?姉ちゃん」
「いや、あの……私、知りません……」

何だこれは。どうなっているんだ。

椅子に座ったまま縮こまって小さく呟いた私の言葉に、「アァン!?」と怒声が被せられる。
共に賭けに興じていた客の一人だ。さっきまでとてもフレンドリーで優しかったのにこの豹変ぶり。

「知りませんでイカサマが誤魔化せると思ってんのか?じゃあこのカードは何だ?」
「ほ、本当に知らないんですっ!気づいたらポケットに入ってて」
「おいおい本気でそんな言い訳通用すると思ってんのかこの嬢ちゃん」
「カジノ舐めてんじゃねーぞ!」

やいのやいのと他の客たちも私を煽ってくる。目の前に置かれたカードには本当に見覚えが無い。

よくよく周囲を見渡してみれば、ここは記憶の水着剣豪のカジノのどこにも該当していない。ノッブの違法カジノかな、とも思ったけれど、どうも様子が違う。そもそも楽市楽座がまだ存在している筈だ。ならここは一体。獅子王の目を逃れてこんな違法賭博が横行してるなんて。あっ!あれか?ギャンブルに負けたやつらの怨念クエストのやつか!?

ゲームに出てこなかった小さなカジノがあったって不思議ではないし、事実この店の他にもそういったカジノは存在している。
だから注意を払うことなく、適当な台に座って、いつものようにちびちびと賭け事に興じていた。
私はあまり運のいい方ではない。まぁこの状況を見ればそうだねとしか言えないが、そうではなくて、ギャンブルで大勝ちなんて狙える器でもないし、ゲーム感覚で何戦かして、負けが込んでくればさっさと引くような、いかにも小市民なやり方をしていた。

それが今回はやけに勝てるなぁ、とは思ったのだ。他に賭けていた客たちもみんな優しくて、お嬢ちゃんやるねぇ、なんて言われて調子に乗っていた。本当にやたらと強いカードばかり来るな?と首を傾げ始めたところで、急に隣の客に腕を掴まれ、短パンのポケットをまさぐられ、このザマである。

もしかしなくても私、はめられたってやつですか?

気づいたところで後の祭り。
イカサマ疑惑をかけられた私は、あれよあれよと怖いお兄さんに囲まれ小さくなって縮こまることしか出来なかった。

「あの……お金は全額返しますから……」
「バレなきゃ持ち逃げする気だったんだろ?」
「い、いえだから……私は本当に……」
「あん!?」
「っひ」
「困りましたねぇ、お客様」

怒鳴りつけられて震える私に、場違いに穏やかな声が投げかけられる。この店のディーラーの男だ。
宥めるように私を怒鳴りつけた男に笑いかけると、ぽんと私の肩に手をおいて言った。

「カジノでのイカサマ行為は許されることではありません。返すから許してください、というのは罷り通らない」
「わ、私はハメられ」
「まだラスベガスのカジノに出入りがしたいなら、賭け金の10倍は支払わないと」
「そ……っ、そんなお金!あるわけ」
「作ればいいんですよ」

どうやって、と問おうとして振り返った私の首に、ビシリとした衝撃が走る。

「商品として」

バチバチと電撃を発するスタンガンが目に入って、うそでしょ、と口の中で呟きながら、私は意識を失った。



「なにこれ」

目が覚めるとバニーガールスタイルで転がされていた。

いやそんなことある?あるんだから仕方ないんだなぁ。嘘でしょ。
誰が私を着替えさせたのか、うん、それは今は考えないでおこう。問題はこの状況だ。

足先には鎖が繋がれていて、その鎖は丸い、鳥かごのような檻へと繋がっている。私は何やら、檻の中に捕らわれているらしい。
檻の外は天幕のようなもので塞がれていて、天井から私に向かって真っすぐライトが照らされていた。
それ以外には明かりも無く、あたりを見渡しても布で周囲を塞がれていて、何かの舞台のようだという事以外、何もわからない。

「な、に、ここ?」

ひっそりと呟いた言葉は、周囲の布に吸い込まれて散った。
じゃら、と足の鎖を鳴らして、立ち上がってみる。めちゃめちゃ重い。檻に近づいて、扉のような部分を外そうと試みたけど、がちゃがちゃと音が鳴るだけで開くことはなかった。覗き込むようにして外側を見ると、大きな南京錠らしきものが見える。

よくよく耳を澄ますと、檻の外からはざわざわと人の声のようなものが漏れ聞こえた。ずいぶんとたくさんいるように思える。いよいよもって状況が読めない。というか、もしかしてもしかするともしかするのか?と思ったけれど、まさかそんなもしかしてがあるわけがない。いくら何でも安易且つ突飛すぎるだろう。如何にここが特異点だからって、夏の与太イベ時空だからって、そんな、まさか、ねぇ。

『それでは今夜の目玉商品の御披露目です』

反響するようにそんな声が聞こえて、幕の向こうから更に大きなざわめきが起きる。

えっ。待ってほんとに?そんなことある?
こんな分かりやすい鉄板ネタ逆にあっていいの?それも何で体験者が私なの?私だからなの?

『身寄りも無く愛も知らず、飢えと孤独をイカサマギャンブルによるスリルと興奮で癒していた哀れなバニーガール!東洋の神秘を携えた少女、100万QPからのスタートです!』

あっやっぱりオークションだこれー!!ほんとにあるんだこんなこと!!いやゲームの世界だから本当じゃないけど、いやでも!あるんだ!?何で!?
というか何だその設定は!?イカサマなんて私に出来るわけないでしょ!出来てたらもう少しマーリンとの駆け引きだってうまくやってたっつーの!!

ナレーションに心で突っ込む合間に幕が開かれ、目の前に多数の客が現れる。せ、盛況なオークションだな!?

たじろいで一歩後ずさる私に、じゃら、と足元の鎖が鳴る。
重さを忘れていたせいで、蹴躓いて尻もちをついてしまった。恥ずかしくなって顔に熱が集う。
羞恥に目を逸らした私の耳に、数字を叫ぶ声が届く。案外と客の手が挙がっているらしい。
あっ良かった需要あるんだ。いや全く良くはないんだけど。買い手がつかなかったらそれはそれでいたたまれない。

……ってよく考えたら買い手つかないでいた方が良いじゃん!?そしたら諦めて離してくれるかもしれないし!
何で私なんかをほしがるんだよ、金持ちの考えてることは意味が分からん!!

オークションは緩やかに進行し、すぐにも落札されるということはひとまず無さそうだった。
そっと顔を上げると、きょろきょろと見知った顔が無いか客席を見渡してみる。
けれどお決まりのように皆仮面をかぶっていて誰が誰かは判別がつかない。サーヴァントなら分かりそうなもんだけど、残念ながら見てすぐ分かるような者はいないようだ。
たとえば、白い長髪の男、とか。

(まだVIPとやらの相手をしてるのかな……)

何度客席を見渡してもそれらしい影は見あたらず、焦りが募っていく。
本当にこのままお買い上げされてしまうのかと思ったら怖くなって、ぼろりと目から堪えきれずに涙が零れた。

「1000万!」
「1200!」
「1500!」
『1500出ました!まだありますか!』
「2000!」
「2100……!」

ぐしぐしと零れ落ちる涙を拭いて、私を競っている人物をそうっと見てみる。何だか急に勢いづいて、たくさんの人間が手を挙げていた。何これこわい。

「4000」
「4100」
「5000!」
「く……5100……!」
「5500!」

100万QPが瞬く間に5500万。とっくに濡れ衣で突き付けられた金額など越えてしまっていた。頭おかしいんじゃないか。頭おかしくなきゃ人身売買なんてしないか。

『5500万、他にいませんか?』

私を競り合っていたオジサンが、悔しそうに顔を歪める。一方で5500万を突きつけたいかにもな俺様坊ちゃんは、勝ちを確信して顔をゆがめて笑っていた。

……うん……おじさんよりはイアソンをもっと高慢ちきにしたようなお兄さんのがマシだけど……いや、やっぱり…………どっちも…………イヤだな………………。

…………、

……マーリン以外は、いやだなぁ……………。

「ストップ」

ざわ、と客席がざわめく。

『?ええと、お客様、何か?』

司会が声の主を探す。
声の主は姿を見せないまま、その穏やかな声を会場内へと響き渡らせる。

「その子は私のモノだよ。1億でも、10億でも売れないなぁ」
『!?どなたですか、進行の邪魔をするのなら……なっ!?』

突如客席の前に花びらが舞ったと思うと、その中心に、白髪の美丈夫が立っていた。

「そもそも、100億積んだってこの子の価値には届かない。というより、金額では計れないよ」

たじろぐ司会や他の客を無視して、その男は座り込んで半べそをかく私の元にやってくる。檻の鍵をまるで最初から開いていたかのようにがしゃんと音を立てて外すと、ぽいと後ろ手に放り投げた。ゴトンと鍵が落ちる音がして、周囲がざわめく。
キィと音を立てて扉が開き、男が扉の前でしゃがんで私の顔を見る。大丈夫かい、と囁くと、苦笑を浮かべて言った。

「キミは本当にバカだね」
「っま、まぁりいいいいん……ッ、うっ、ひっ、ぐぅっ」

マーリン、マーリンだ。あぁ、助けに来てくれた。
安心してぼろぼろ泣きだす私に、マーリンはぽんぽんと無造作に頭を撫でると、あやすように甘い声で言った。

「よしよし、怖かったねえ」
「うぐっ、うっ、ひっ」

ひしっとマーリンに抱き着いて、その胸ですんすんと泣く。
きっと助けに来てくれるって、思ってはいたけれど。でも実際にこうして嘘みたいな展開に放り込まれると、どこまで予定調和を信じていいか分からなくて怖くなった。
ああでもそうだ、マーリンはハッピーエンドが大好きだもん。だったらこんなベタベタのストーリーの、使い古された展開でも、助けてくれないわけがない。

マーリンはしがみつく私をぎゅうと一度強く抱き締めると、「大丈夫」と呟いてからそっと身体を離して立ち上がり、客席を一望した。

「この少女の価値は金額などでは計れない。何故ってこの子は、この世界の住人では無いのだからね」

……えっ。価値ってそういうことなの?
口上にがっかりする私をよそに、マーリンは更に声を張り上げて続ける。

「彼女の泣き顔に値がつり上がったのはさもありなん、って感じだけどね。可愛らしいしいじめたくなる気持ちはとてもよく分かる」

……私にそんな要らない魅力が?知らなかったし知りたくなかった。道理で意地の悪そうなやつばっかり手を挙げるわけだ。

「でもダメだよ。彼女は私の飼い兎なんだ。首輪を付けなかった私が悪いとは言え、人のペットを盗っちゃいけないなぁ」

ペッ……?

釈然としない気持ちが渦巻く。私は被害者なのにひどい言われようだ。
むすっとしてマーリンを見上げると、にんと口元に悪戯っぽい笑みを浮かべて私を見下ろすマーリンと目が合った。何その顔。もしや避けていた私への意趣返しなの?

「はは、なんてね。この世界の住人だろうと、私のもので無かったとしても。やっぱりこの子は譲れない。というわけで、ハイ」
「ひゃっ!?」

マーリンの指パッチンの直後、パン!と大きな音がして、私の足につけられていた枷がぱかりと割れて外れた。
すかさずマーリンが私をひょいと抱き上げる。

「そういうわけで、さよなら悪趣味な貴人の皆様方。バニーコスチュームは迷惑料としていただいていくよ!」
「ぶっ、わ!?」

再び目の前を花びらが舞って、視界が閉ざされ咄嗟に目をつむる。ふわりと不思議な浮遊感が訪れて、ぎゅっとマーリンにしがみつく。
強い風のようなものに阻まれて目は開けられなかったけど、マーリンがしがみつく私を抱きしめ返してくれたのが分かって、暗闇の中、私はふっと安堵のため息を吐いたのだった。

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