ラブストーリーを始めたい!

新年祝いの場を抜け出して、自室のベッドに転がる私に、マーリンは優しく声をかけてきた。

「なまえ?折角のパーティを抜け出して何をいじけているんだい」
「いじけてない。全然まったくいじけてはいない」
「なら寝転ぶのはやめた方がいい。髪もドレスも乱れてしまうよ?」

優しい声音でそう言って、マーリンが私を抱き起そうとするのを無言でベッドにしがみついて抵抗する。
マーリンが本気を出せばこんな抵抗は無意味だが、私が起き上がるつもりが無いのが分かると、マーリンはあっさりと私から手を離した。

「ヤキモチの妬き方が下手。10点」
「はぁ!?」

ため息を吐きながら言われた言葉に、むきになって思わず振り返る。
見上げたマーリンの顔は実にフラットで、いつも通りに爽やかお兄さんな表情をしていたものだから、何だか肩透かしを食らった気分になった。

振り返った隙をついてマーリンが勝手に私の隣に座ったので、やむを得ず起き上がると膝を抱えて顎を乗せ顔を俯ける。
この態勢でいじけてないというのは自分でも無理がある気はするが、もういい。

「……ヤキモチとか妬いてませんー」
「そりゃ良かった。キミのご機嫌取りは骨が折れるから」
「くっ……」

人を面倒くさい女みたいに言いやがって!
いやどう考えても面倒くさい女だけど。

「会場戻んなくて良いの」
「キミを連れずに戻ったら円卓のみんなやアルトリアに怒られてしまうんだよ」
「……ふうん」

怒られるからわざわざ呼びにきたんだ。

そんな思考が浮かんで、私は大きなため息を吐いた。
みっともないにも程がある。

普段はもうちょっと、……ほんとにもう少しくらいは、大人になれていると思うんだけど、今日は何故だか、子供みたいな態度を改めることが出来ないでいた。

今日のマーリンは正装していた。

私も見たことがある。実物を見たのは勿論初めてだけれど、礼装という形で。

アヴァロン・セレブレイトという名のその礼装は、マーリンとアルトリアの二人が描かれたもので、私も礼装を手に入れようとガチャを回したものである。

そのときから、何ていうか、羨ましいなとは、思ってたんだ。

白いドレスはアルトリアによく似合っていて、マーリンと並んだ姿は絵画みたいに綺麗だった。
元々絵なんだからそりゃそうだ。

二人だけじゃない。
他のサーヴァントも、マシュも、そして立香も。
みんなみんな綺麗で、楽しそうで、華やかで。
スタッフのみんなだって、そう。

身体を隠すように無難なドレスを選んだ自分が何だか惨めで、恥ずかしくって。
似合ってるとみんなに言われて、それも何だか居たたまれなくて。
ああ、「場違い」ってこういうことを言うんだな、なんて。

唐突に思い出したのだ。
私が、この世界の住人でないことを。

ドレスを着ても髪型を変えても、私はただ私だった。
みんなみたいに、劇的な何かを感じるような変化は無くて。

元々二人の絵として描かれたマーリンとアルトリアは、文字通り絵になっていて……そこに私が入るのは、何だか台無しにするような気がしてしまった。
クソ。夢女子完全敗北だ。

「良いからほっといてよ、誰かナンパでもしにいけば」
「またそうやって強情張って。それで私が本当に誰かと遊んだら泣いちゃうくせに」
「泣かないし。ちゃんと身の程を弁えてますし」
「キミが私の恋人だって?」
「その恋人が女好きで飽き性なクズだって」
「キミは本当に面倒くさいな」
「ならどうぞ捨ててくださって構いませんけど!」

うぁーーーーー!私のバカ!!
何でそんなこと言ったの!?

売り言葉に買い言葉というか、衝動のまま放ってしまった台詞に後悔してももう遅い。

捨てられていいなんて思ってない。
思ってないけど、もし本当に捨てられてしまうのなら、こうやって喧嘩別れする方がマシかもしれない、とか。

そんな浅はかな打算とも言えない衝動は、本当にここで終わってしまうかもしれない恐怖によってすぐに後悔へと変わってしまった。
ああ、もう、私は本当にバカだ。
でも、だって、マーリンにあまり本気になるのは、やっぱり危険だと思うから、だから私はいつも、可愛くないことばかり言ってしまうんだ。

何も言わないマーリンに不安になってそっと顔を上向けたら、頬を両手で掴まれて無理矢理マーリンの方へ向けさせられてしまった。

「……っ!」
「ああ、やっと顔が見れた」
「や、!」
「こら、せっかくこっちを向かせたのに隠しちゃダメじゃないか」

手のひらで顔を覆おうとする私の手を掴んでマーリンが窘める。
いたたまれなくて目を逸らす。

「なまえ」
「…………」
「まったく……欲張りだなキミは。いつも言っているのにまだ信じてくれてないのかい?私がキミみたいな面倒くさい子と誠実に恋人関係を築いてるだけで特別扱いしてるって自惚れてほしいものだが」
「そ…………それは、分かってる、けど」

マーリンが私を特別扱いしてるって事は自覚している。
何がどうしてそうなったのか分からないけど、私に執着している事だって分かってる。

けどそれが、いつまでも続くとは限らないんだと、唐突に思い至ってしまった。

マーリンに甘えてはいけない。
マーリンに沈んではいけない。
いつどうなってもいいように、覚悟だけはしておかなくちゃいけない。

マーリンにすべてを預けた途端、飽きたと言われる未来が、無いとは言えないのだ。

だって、私は。

「……私は、アルトリアとは違うから」

殆ど声にならないような声で、小さく呟いた私の言葉を、それでもマーリンは聞き漏らさなかったらしい。

「知られているっていうのもやりにくいなぁ……」

マーリンが頭をかく。
その隙に背中を向けようとしたら、がっと肩を掴まれて存外強い力で阻まれた。痛い。

「なまえ。キミを離さないと言った筈なんだけどな。どうして信じてくれないんだい?」
「信じてないわけじゃなくて、……ねぇ、近いよ」
「恋人同士なんだから構わないだろう。ほら、そろそろ見慣れておくれ」
「…………、……慣れない……」
「照れるキミは可愛いんだけどね。私の褒め言葉、全然信じてくれないんだから」
「面倒くさいって言ったくせに」
「それでも傍にいたいと思うのが愛というやつだろう?」
「夢魔のくせに知ったようなこと言いやがって」
「はいはい減らず口」

呆れたように言いながら、マーリンが私の腕を引っ張って抱きしめた。マーリンの、思ったよりずっと立派な体躯を意識してしまい、顔に熱が集う。
もう付き合って結構経つ気がするんだけど、未だに「あ、マーリンって存在するんだ」って思うと急にドキドキしてしまうから困る。

「よしよし。大丈夫、私はキミを離さない。絶対にね。愛してる、と言っていいのかは、やっぱりよく分からないけど……キミに、恋はしていると思う」

私の頭をぽんぽんしながら、マーリンが歌うように囁く。
愛してるとか好きだとか、そういう言葉をマーリンから言われたところでからかわれているとしか思えないけれど、そんな風に言われると、寧ろ分かりやすい愛の言葉なんかよりよっぽど伝わるものがある。

それでもやっぱり、不安は尽きないのだけど。

「相変わらず曖昧だなぁ……」

ぼやくようにそう言って、大人しくマーリンの胸板に額を預けて力を抜いた。
嬉しいくせに、憎まれ口しか叩けないなんて本当に私は可愛くない。
相手が夢魔のマーリンで良かったと思う数少ない部分の一つだ。なんて悲しい理由だろうか。

頭を撫でていた手を背中まで下ろしたマーリンが、やさぐれる私の背中を宥めるようにぽんぽんと叩く。
私の可愛くない発言に、どんな返答を繰り出してくるのかと思いきや、マーリンは意外な言葉を吐いた。

「頑なに私に好きと言ってくれないキミには言われたくないけど」
「えっ……!?そうだっけ」
「そうだよ。私が問えば頷いてくれるけど……頷くのも数回に一回だね。大体うるさいって言われる」
「そ、そんな事……」

言われてみれば、そうな気がする。
でもマーリンだって私を好きって言ってくれたかというとちょっと頷きがたいけど、いや、でも……そういえば、私から言ったことってあっただろうか。いや、一回くらいはある筈だ。ある筈なのだが、思い出せない。

「……そんな事無いし!」
「ははは、嘘つきだなキミは」
「痛ッ!地味に痛い!」

背中の肉を抓みながらマーリンが笑う。抓める肉が存在することがもう嫌だ。ちくしょう。

「別に良いんだけどね。目は口ほどに、というが。夢魔にとっては味は口よりも、という感じかな」
「味とかあるの……?」
「味……というのか、彩、というのか。単純に人間の概念で説明することは難しいが、まぁ、そういう感覚はある」
「やっぱ夢魔ってずるい」
「最初から物語を知っているキミには言われたくないなぁ。キミを好きにさせたのだってその知識からだったりするかもしれないし?」
「知識があったところでマーリンを私に惚れさせるなんて出来るわけないでしょ!!」
「うん、そうだろうね。キミ本当にただの女の子だし、仮にそんな方法が存在したところで見え透いていただろう。それなのに、何だってこんなに惹かれるんだろうね」

未だによく分からないから気持ちが悪い、と正直にマーリンは口にした。気持ちが悪いとは何だこの野郎。もしかしてマーリン、私への忌避感を恋心と勘違いしてんじゃないだろうな。吊り橋効果みたいな感じでさ。

「キミに触れるのはとても心地が良いね」

マーリンが私のつむじあたりに口付けながら言う。

「私がいくらキミを可愛いと言ったところで、夢魔の生態を知っているキミからすれば、そりゃあ信じられないだろうね。私だって信じがたい。別にキミは特別優れた人間ではないし、その肉体も生き様も魂も、気にかける要素など一つも無い。キミもそれが分かっているから、そうやっていじけているんだろう」
「いじけてないし」
「私がアルトリアだけに恋をしたことを知っているから、自分なんかいつか捨てられると思ったんだね」
「別にそんなんじゃない」
「いつだって振り回されているのは自分ばかりで、私が余裕なのが気にくわないんだ」
「違う」
「自分ばっかりドキドキして不公平だって、そんな風に思ってる」
「思ってない」
「思ってるから天の邪鬼な態度になって、余計に落ち込んで一層素直じゃ無くなってしまう。ふふふ、ホント可愛くない」
「悪かったな」
「好きだよ」

脈絡なくそう言って、マーリンが私の顔を持ち上げて口付ける。
泣きそうな顔を見られてしまって、慌てて顔を伏せたけどもう遅い。

「そんなに不安なら、キミと契約を交わそう。キミは私のモノだけれど、私だってキミのモノだ。いつだって好きに出来ると思えば、キミも安心するだろう?例えば、私がキミに飽きたとして、キミから逃れられないよう呪いをかけてしまおうか」
「そんなの……マーリンが自分でかけたのなら、解けるんじゃないの」
「解けないようにするとも。不安なら証人も呼ぼう。キャスターのうち誰でも、そうだな、ギルガメッシュに証明させればキミも安心するかな?」
「そんな事頼んだ時点でブチ殺されない?」
「あははは、大丈夫大丈夫。そうなっても私がいれば無傷で済む」
「怒らせる時点でやだよ!!」

そんな恐ろしい真似は出来ないし、そもそもそんな呪いかけるのも嫌だ。
そうやってつなぎ止めたってむなしいだけじゃないか、マーリンは本当に分かってない。

「呪いなんていらないよ、……そんなものがあったって、安心なんてきっと一生出来ない」
「それじゃキミは、ずうっと辛いままじゃないか」
「……そう、かも」
「それじゃダメだよ。それじゃ、嫌になってしまうかもしれないじゃないか」
「……やっぱり、無理だったんだよ」
「なまえ」

お祝い事の最中なのに、どうしてこんな気持ちになってしまったのだろう。楽しいことは私だって好きなのに。
礼装の事だって知っていたのに、今更、こんな風に落ち込んでしまうなんて。

「キミがそんなに嫌がるなら、もうアルトリアと話すのもやめるよ。ねぇ、だから、そんな事を言わないでおくれ」
「……………」

ああ。
こんな事言わせるなんて、最低だ、私は。

マーリンの唯一を、私が奪っていい道理なんて、あるわけないのに。

「だめ、だめだよ、そんなの嫌だ」
「……なら、どうしたら良いんだい」

人形みたいなマーリンの顔を暫し眺めた後、私はそっと目を伏せた。
マーリンの顔からは何の感情も読み取れなくて、やっぱり夢魔というやつはよく分からない。
マーリンは私を、夢魔の生態を知ってるって言ったけど、全然何にも、分かってなどいない。

「ウェディングドレスみたいだなって」
「え?」

唐突に口にした言葉の意味が理解出来なかったのか、マーリンが間抜けな声を上げた。
気にせず口を開く。

「白いドレスが、ウェディングドレスみたいだなって。マーリンのその服も、まるで……」
「ああ……言われてみれば、そうかもね」

お揃いというわけでもないのに、二人セットでいたらそう見えるのは致し方ないというか。二人にそのつもりが全くもって無かったのは分かっているし、これがすべての理由というわけでも無い。

ただ、それでも。

そんな「羨ましい」が、私をこんなにも打ちのめしてしまった。

恋人は私なのに。
でもきっとマーリンの恋心はアルトリアのもので。
私への感情はじゃあ何なのか。
そんなの私も分からない。

こんなただ私に都合のいい夢、いつまでも見られるわけがない。

この夢はいつか覚める、そんな確かな予感がある。
あの場にずっといたら、すぐにも覚めてしまいそうで、怖くなってここに逃げてきた。

或いは、ここで覚めてしまいたかったのかもしれない。

ベッドに寝転がりいつの間にか眠りについた私が目を覚ますと、そこは自宅の私室で、ああ、夢だったんだ、って。




なのに、マーリンは私を追いかけてきてくれた。


「…………すき……」
「………………!」

ぽろり。
涙と共に、言葉が零れ落ちた。

「……っ、違う、すき、じゃない、……ううん、嘘…………ごめん、違うの」
「なまえ」
「ダメ、やっぱりダメだよ、ねぇ……こんなの、きっと…………マーリンが私を好きなんて、何かの間違いなんだよ」

必死に涙を拭いながら、訳も分からず言ってしまう。
ああ、折角化粧だってきちんとしたのに。この世界の住人は、醜く化粧がはげるようなこともきっと無いのだろう。

「間違いでも、私はキミを失いたくない。動機は何でも構わない、ただ私はキミを欲している」
「そっ、れが、おかし、んだよ……」
「……そうだね。変だよ。おかしな話だ。でも、それってそんなに重要なコト?」

私の目から止めどなく流れる涙を指先で拭いながら、マーリンは穏やかな声でそう言った。
無言でマーリンを見つめたら、にこりと微笑まれて何故だか更に涙が溢れた。

「理由なんてどうでもいい。僕はキミに恋をした。それだけは間違いなくて、愛の妙薬でも神の采配でも何だって構わないんだ、僕にとっては」
「……そんな、の、ひどいよ……」
「そんな事無いさ。だって僕は夢魔だもの。ヒトにとって曲がり角でぶつかる程度のアクシデントでも、僕がそんな風に感じたら、それだけで奇跡だ」
「……ちょっと何言ってるか分からない」
「うーん。人間の価値観に例えるのは難しいなぁ」

暢気にそう言って、マーリンは顎に手を当てた。
何かを考えるようなわざとらしいそぶりの後、あ、と口にして私を見る。

「胃袋を掴まれた。これだ」
「…………………………………………は?」
「キミの見る夢が心地よくて、私はキミを欲してる。これで良い?」

にこりと微笑んで、マーリンは首を傾げた。
あまりにもあんまりな表現に、私は口をぽかんと開けたまま固まってしまう。

あんぐり開いた口の中が乾く感覚に閉口すると、盛大なため息を吐く。
これで良い?って何だ。何もかも全然良くないよ。

……良くない。嬉しくもない。
だけど、妙にすとんと、腑に落ちてしまった。

「……バカじゃないの」
「キミに合わせて分かりやすく言ってみたんだけど」
「私がバカって言いたいの?」
「バカだろう。どうでもいい事に悩んで」
「あ!?」

んだコラてめー!!喧嘩売ってんのか!?

「人を好きになるのに理由なんかない。そうだろう?」
「……確かにそうなんだけど、マーリンが言うとめちゃくちゃ胡散臭い」
「だから敢えて理由を語ったんじゃないか。とは言え、それだってきっかけに過ぎない。でなければ、キミに好きだと言われただけで、体温が上昇したりなんてしないさ」
「え…………」
「ちょっと驚いてしまった。ふふ。こんなのは初めてだ」
「……」

マーリンが嬉しそうに笑う。
私を担ごうとしているのか、天の邪鬼な私はまたそんな事を思ってしまったけど、口に出す気にはとうていなれない顔だった。

「さて、機嫌は治ったかな、お嬢さん」

言いながら、マーリンが指先で軽く目尻をくすぐる。
いつの間にか涙はすっかり止まってしまっていた。

「その顔じゃ、会場には戻れないね。ちょうどいい。私もまだ、キミと二人でこうしていたい」

ふ、とマーリンの目が細まって、顔が近付いてくる。
触れるだけのキスを贈られて、離れていくマーリンの顔を目で追ううちに、一気に色んな感情が襲って顔が真っ赤に染まっていくのが自分でよく分かった。
思わずマーリンに抱きついて顔を埋める。

「おや。キミも私と同じ気持ちなのかな?」
「違、いや、そうじゃなくて……っ、くそ、ばか!もう!」
「ははっ、可愛いね、なまえ、とても可愛い」

噛みしめるように言いながら、マーリンが私の頭を優しく撫でる。
きゅうと胸が掴まれるような心地がした。

「言い忘れていたんだけど」
「……?」
「そのドレス、とても似合っているよ」
「っ、え、ぁ、……ありがとう…………」

今更言うな、なんて言ったら、それこそ可愛くない。
なんてもう手遅れだとは思ったけれど、今くらいは素直に礼を言うことにした。
……礼を言うだけで、何でこんなに恥ずかしいんだろうか。いたたまれなくて小声になってしまったけど、きっとマーリンには聞こえた筈だ。
ぎゅっとマーリンの服の裾を握り締める。

「お色直しはその色にしようか」
「へ?」
「式はやっぱり白ドレスだろう。あ、それとも白無垢の方が好みだったりするのかい?」
「は?」

……突然放たれた台詞に理解が追いつかない。

え?何の話?いやいや。え?

「したいんだろう?私と結婚式。しようじゃないか。ここには神父擬きのサーヴァントもいるのだし、ドレスも喜んで作るという者が何人かいるだろう?」
「待って待って待って待って」

そこまでは言ってないよ!!
確かに、確かに羨ましいなと思ったし、ウェディングドレスは着てみたいし、マーリンとヴァージンロードを歩けるならそれは、その、してみたい……けど!!

「結婚しよう、なまえ」
「…………気が早すぎる!!」
「ホント素直じゃないなキミは」
「そういう事じゃない!!」

やれやれと言った口調のマーリンにあわあわと言い募る。
冗談なんだかどうなんだかいまいち判別がつかないが、もしかしなくても今私はプロポーズされたのか!?この流れで!?

いやそもそも戸籍無い同士の結婚とは?
夢魔と結婚ってやばいやつなのでは?
式だけなのか?いやでも契約がどうのとかさっき言ってたからやっぱ怖いな?

とかいろいろ頭をよぎって、でもそれより何よりも、やっぱりまだちょっとそういうのには早すぎるでしょ!?

「マーリンのバカ、せっかち!何でこのタイミングでそういう事言うの!?」
「キミの不安を少しでも取り除きたくて」
「別の意味で不安になっちゃうでしょ!もう!そういうのは、もっと後!」
「……もっと後、ね。それって、いつ?」
「いつかは分かんないけど後なの!」
「我儘娘なんだから」
「うるさい!いや違うでしょ!私の反応は正しいでしょ!?」

何で仕様が無いなぁって感じなんだお前は!
絶対私間違ってない。いやそりゃ嬉しいって言えば嬉しいけど!もっとこう、段階があるでしょ!?

だって私たちのラブストーリーは、今まさにやっと!始まったばかり、いや、始まるかも、ううん、それ以前か。


ラブストーリーを始めたい。

やっとそんな風に思えて、スタート地点に立ったばかりなんだから!

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