えっこさんより

サーヴァント・サマー・フェスティバル。通称サバフェス。各々が好きなものを好きなように表現し形にしたものが並ぶ、サーヴァントたちの祭典。
あの夏にルルハワで開催されたそれが、前回よりは小規模になったものの極北でも開催されたことを知って管制室は俄に湧いた。世界に名を馳せた英雄たちの作り上げたものが売られているのだから、爪を噛んで悔しがるスタッフも、目玉をかっぴらいてモニター越しにどうにか本の中身を透視しようとするスタッフもいた。
漫画に小説、写真集、音声作品や音楽アルバムなど、並ぶ作品は多岐に渡る。作家の新作やら現代では失われた専門知識の解説本なんかはうっかり流出したらマズいことになる気しかしない。喉から手を生やしてでも欲しいと願う人間がいるような、垂涎の品々だ。
一端の魔術師としても、現代を生きる人間としても、興味を唆られるもので溢れている夢のような祭典であり、そして。私個人としては、目から血涙を流してハンカチを噛み千切りそうなほどにサーヴァントたちを羨ましく思う同人イベントであった。
ここで自己紹介をしようと思う。
オッス!オラ職員!趣味はマーなまえ小説をひっそりと書くことだ、よろしくな!
おわかりだろうか……。実在する推しCPを一人で書き、一人で萌える、孤独なオタクが私である。公開していないのに何故かときどき感想が届くのだが、まあそれは置いておいて。多分妖精さんか何かの仕業だと思う、うん。深く考えちゃいけない。
誰かと共有することも、誰かからの供給に興奮することもない。それでいいと、少し前までは思っていた。何せ、私が勝手に推しているだけなのだから迷惑は掛けられない。精神的負荷の多い日々の中で抜け殻になりかけていたところにときめきをもたらしてくれたのだ、それだけでもソーラン節を三日三晩踊り明かしたいほどにありがたい。
それなのにどうして欲が出てしまったのかと言えば、知ってしまったからである。なんと、この世には……マーなまえR18本が、存在するのだと……。
北極に特異点が発見される数日前、送られてきた感想に謎のURLが添付されていた。そう言えばこちらはご存知ですか、きっとお好きだと思います、と。見覚えのないドメインをクリックするかしまいか悩んだ末に、そもそもこの感想を送ってきている相手の得体も知れないんだから今更か、とアクセスしてみたら表示されたのがサバッターなるSNSのとある告知サバートだった。
『次回のサバフェスにマーなまえで委託参加します!成人向けなので卓上には並びません。合言葉の「マーなまえ最高!」でお渡しします。サンプルは下に繋げておきます』
サバチューブとサバスタグラムだけじゃなくサバッターまであったのか、なんてことはどうでもよくなるほどの衝撃。かわいらしい絵柄で汁だくどすけべなマーなまえ漫画がそこにはあった。
サバフェスは現地開催オンリーで通販なんてものは存在しない。サーヴァントが参加者なのでさもありなん。レイシフト適性のない職員が買いに行けるはずもなく、かといって誰かに代行を頼めるわけもなく。手に入ることのないお宝に涙しながら、僅か4ページのサンプルを、台詞もオノマトペも暗記するほどに繰り返し読んだ。私にもマーなまえ最高って叫ばせてくれ。
羨ましさで爆発しそうになる気持ちをどうにかこうにか抑えて仕事に専念し、合間の休憩時間には脳内でマーなまえのめくるめくすけべ妄想を繰り広げた。読めないならば想像するしかない。自らも書き手であるからには創造するしかない。すけべを欲さんとする者は己もすけべを生み出すべし、とどこからか幻聴が聞こえた。
特異点収束後の休日はパソコンに向き合い、一心にキーボードを打ち込んだ。濁点とハートマークも活用し、最高のすけべに仕上げるべく励んだ。
誤字の確認まで終わったときには満身創痍。ベッドに沈みこむべく椅子から腰を上げようとして、寸前、ピコンと通知音が鳴った。例の謎の妖精さんからの感想メッセージだった。
いや、さすがに早すぎないか。私のパソコンの中にしかないものを勝手に読んでいるところからしてスタッフではなくサーヴァントだろうと予想してはいたものの、執筆を終えたばかりのものをほぼリアルタイムで読んでいるとなるとかなり候補が絞られる。まさかご本人ではなかろうな、と冷や汗をかきながらメッセージを開封した。
『新作の執筆お疲れ様です。早速拝読させていただきました。情熱のこもった文章は大変味わい深く、なまえさんの可愛らしさといやらしさが存分に引き出されーー』
早速にも程があるだろ、とツッコミを挟みつつも口元が緩んでしまうのを止められない。相手が誰なのかという問題はあれど、自分が書いたものを読んでもらえることも感想をもらえることも、書き手としては嬉しいものだ。
メッセージを読み進めていくと、ところでご提案があるのですが、と始まる文章が目に留まった。リクエストか何かかな、と軽い気持ちでその先を読んで、口からボェッと奇声が漏れる。
『次のサバフェスで本を出しませんか?これまでのお話、ぜひ紙媒体で手元に欲しいです。ご了承いただけるなら費用の負担はもちろん、再録作業やデザイン、入稿から委託まで何でもお任せ下さい』
怪しすぎる。あまりにうまい話すぎて何かの罠かもしれない。
『先日のサバフェスで発行されたマーなまえ本を謝礼にさせていただければと思います』
「はい喜んでェ!!!!」
オタクは欲望に忠実な生き物である。まさかこのためにあのURLを送ってきていたんじゃなかろうかと気付きつつも自分の口が動くのを止められなかった。
直後にピコンと通知音が鳴る。そこには提案を受けたことへの感謝が綴られていた。餌を垂らして魚を釣り上げ、言質を取って退路を断つ流れが鮮やかすぎて怖い。そういえばマーなまえ本出した人も委託してたんだったよなあ、と思い出しつつそっとメッセージを閉じた。

それからしばらくして、例のマーなまえ本とともに献本が届けられた。サンプルを読んで想像していた以上にドスケベだった神本にパッションが高まりすぎて全力でソーラン節を踊ったし、自分の書いてきたマーなまえが一冊の本になったことに感動して本棚に飾るスペースを作った。ありがとう、謎の妖精さん。これからも私、マーなまえを推し続けるよ……!
ところでなまえちゃんの部屋を訪ねたときに見覚えのある表紙が枕元に置いてあるように見えたのはきっと何かの間違いですよね。推しCPのご両人が私の書いた小説を読んでるなんて、ハハハまさかそんなぁ。

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